ジム・ロジャーズが語る「今から日本で起きる悲劇」

「安倍首相は日本を破綻させた人物として歴史に名を残す」とまで言い切るのは、著名投資家のジム・ロジャーズ氏。その根拠は繰り返される金融の「歴史」にある。

■2~4年以内にバブルが起こる

──アベノミクスをどのように評価していますか?

【ジム・ロジャーズ】安倍晋三首相は最後に放った矢が自分の背中に突き刺さって命取りとなり、日本を破綻させた人物として歴史に名を残すことになるでしょう。自国通貨の価値を下げるなんて、狂気の沙汰としか思えません。円はここ数年で45~50%も下落していますが、これは先進国の通貨の動きとしては異常です。このようなことが起きると国家は崩壊し、時には戦争に発展します。

これまで英国、ドイツ、フランス、イタリア、アルゼンチン、エクアドル、ジンバブエなど多くの国がこの手法を試みましたが、成功例は皆無です。米国は2度も失敗しました。

一度目はアメリカ独立革命のとき、大陸会議が「コンチネンタル」という紙幣を発行したのですが、暴落して紙屑同然になった。ところが、南北戦争で同じ過ちが繰り返されます。財政難に陥った南部連合は紙幣を大量に刷りますが、ひどいインフレが起きました。救済策として綿花で保障しようとしましたが、大戦に勝利した北軍兵に綿花を焼き払われてしまう。北軍も、やはり同じ失敗をしています。いわゆる「グリーンバック」という裏が緑色の紙幣を大量に発行しましたが、価値が大幅に下がってしまった。

──2014年10月31日、日銀の黒田東彦総裁は追加金融緩和策を決定しました。これを評価する声もありますが。

【ジム・ロジャーズ】短期的には株が上がりますから、投資家にとっては喜ばしいことです。私も日本株を持っていて、黒田総裁の発表直後にも買い足しました。底を打ったときと比べると、株価は倍になっています。今後3倍にまで上がるかもしれない。

安倍政権がバブルを起こそうとしているかどうかはわかりませんが、このままお金を刷り続けるのなら、潜在的には2~4年以内にバブルが起こりうる。しかし、インフレは国のためにならないことは歴史が証明しています。「少しくらいは大丈夫」とインフレを容認した結果、どの国も失敗しています。制御不能なほど勢いづいたインフレを止めるのは非常に難しい。

■外国人、金融関係者、メディアが標的に

──インフレは社会にどのような影響をもたらしますか。

【ジム・ロジャーズ】政府はやがて年金をカットするなどの過酷な政策を実施せざるをえず、国民を苦しめることになります。歴史を紐解けば、インフレは生活費を上昇させ、真面目に働いて貯蓄に励む人たちの暮らしを破壊することは明らかです。

そして、彼らの怒りが高まると、深刻な社会不安を招きます。モラルが低下した人々は安易な解決策を求め、白馬に乗った女性が現れて「私があなたがたを救う。私に従ってください」と言ってくれるのを待つようになる。

真っ先に非難の矛先が向かうのは外国人です。「体臭がきつい。食べ物まで臭い」などと言われ始め、それが戦争へとつながっていく。次のターゲットは銀行で、悪の権化のように言われます。聖書には、激高したイエスがテーブルをひっくり返して神殿から両替商を追い出す場面が出てきます。いつの時代も、生活が悪化すると金融関係者は嫌われる。メディアも敵視され、「ろくでなしの記者たちが煽るから問題が発生した」と言われ、これが検閲につながるのです。インフレで苦しめられた国民がこの3者を責めるという図式は、いつの世にも当てはまります。

──日本が崩壊するシナリオが現実になるのを防ぐには、なにをすべきでしょうか。

【ジム・ロジャーズ】増税ではなく、減税です。財政支出も大幅に削減しなければダメです。日本は先進国のなかでも突出して借金を多く抱えています。しかも少子高齢化で人口は減少している。このような状況ですべきことは少子化対策か移民の受け入れですが、日本はそれもやろうとしない。

もし私が日本の若者だったら、外国語を習得して日本脱出に備えます。もしくは、カラシニコフ銃を手に立ち上がり、革命を起こそうとするかもしれません(笑)。

───簡単に国外へ脱出することのできない人々が実践できる自己防衛策はありますか。

【ジム・ロジャーズ】日本株と外貨を購入すべきです。私だったら米ドル、香港ドル、人民元を買います。そして海外に銀行口座を開設すること。個人も法人も、ある程度の資産を保険として海外で保有したほうがいい。

若い人は絶対に中国語を勉強すべきです。日本に骨を埋めるつもりなら、農地を買ってトラクターを運転できるようにもなってください。これからは農業の担い手が不足するので、食糧を生産できる人の将来は安泰です。かなりのお金儲けが期待できます。中国語の勉強と同じで、ライバルが少ないうちに始めれば、15年後に農家として大成功したあなたのもとに「ここで働かせてください」と言ってくる人が現れますよ。

Jim Rogers(ジム・ロジャーズ)
米国アラバマ州出身。イェール大学卒、オックスフォード大学ベリオールカレッジ修了。ジョージ・ソロスと投資会社クォンタム・ファンドを設立し、驚異的なリターンを上げる。37歳で引退し、世界を旅する。2007年、一家でシンガポールへ移住。著書に『中国の時代』『ストリート・スマート』がある。

世界経済揺らす中国 軟着陸できるか

市場との対話未成熟
独アリアンツ首席経済顧問 モハメド・エラリアン氏

中国の習近平指導部は「新常態」の旗印で安定成長への軟着陸を狙う。一方で中国景気の急減速を案じる声は多い。2008年の金融危機後の世界経済の新たな常識を「ニューノーマル」と表現したモハメド・エラリアン氏(現在は独アリアンツ首席経済顧問)と、仏ソシエテ・ジェネラルの中国担当エコノミスト、姚煒氏に中国発のリスクなどを聞いた。

――中国経済の変調をきっかけに、世界経済の行方が不透明になりました。

「リーマン危機後に打ち出したニューノーマルの考え方は、『低成長下での均衡』だった。米国をはじめとする先進国の経済は、危機の後遺症で大きくふらついてきた。それでも中国をはじめとする新興国の成長が埋め合わせて世界は安定を維持してきた」

「そんな均衡が脅かされたのが今年これまで起きたことの意味だ。新興国の経済変調が引き金だった。中国、ブラジル、インドネシア、トルコ……。インドを除き、多くの新興国の景気にブレーキがかかった」

――この夏の世界的な市場波乱は、どんなメッセージをもたらしたのでしょうか。

「第1に、世界経済は何事も中国次第になった。今や米国の株式市場を観察するために、中国を理解しなければならない。つい数年前までは、おかしな発想だった」

「第2に、中国のバブルがしぼみ始めた。中国政府は国民に株式の保有を促した。多くの人々が市場に参加すれば経済の市場化が進むと考えたからだ。リーマン危機の前まで米政府が、国民に家を持ってもらおうと政策で促したのと似た構図だ。その結果、やはり米国の住宅と同様にバブルが膨らみ、はじけた」

「第3に、中国の中央銀行に対する投資家の信頼が揺らいだ。何かが起きたとき、中銀が事態を制御できるかどうか不安になった。市場の混乱が経済の混乱につながり、ソフトランディングが難しくなったのではないかと。この意見はさすがに悲観的すぎると私は思う。それでもリーマン危機後、各国の中銀が流動性を供給して市場の信用を保ったのとは対照的だ」

――日本が株や不動産のバブル崩壊で苦しんだ「日本化」を懸念する人もいます。

「日本は金融的にも社会的にも富を蓄えていたので持ちこたえられた。だが中国はそうではない。日本と同じ構図が長期間続けば、社会的な不安が高まるだろう」

「中国の場合、経済成長のスピードが一線を下回ると実際には成長できなくなると見ている。飛行機が『失速速度』を下回れば墜落するのと同じだ。中国の失速速度を6%という人も多い。楽観的にみても2~3%だと厳しい」

――中国が「新常態」と呼ぶ投資主導から消費主導の経済への移行は円滑に進むでしょうか。

「中国の人々は、自国の経済システムが自分や子供を守ってくれるのか、不安に思っている。結局自分で自分の資産を守るしか無く、財布を開きにくい。これが新常態への最も厳しい試練だと思う」

「中国政府は人々が安心して消費できるよう、家計に対する経済的、金融的な保障のしくみを構築しなければと考えている。政府が株式相場の暴落を深刻に受け止めたのも、『やはり資産は守られない』と家計が受け止めることを恐れたからに違いない」

――市場との対話には課題を残しました。

「中国政府にとって懸案事項は多い。だが『市場』はトップ3に入っていないと思う。市場経済への移行には上手な市場との対話が欠かせない。そのことを他国の例などから学ぶ機会はあったはずだが、生かされていない。市場が不安定になった一因だ」

「ただ中国は『中所得国のワナ』という難易度の高い技に取り組んでいることは忘れるべきではない。中所得国から先進国への移行を果たしたのはシンガポールなど数えるほどしかない。ましてや中国は巨大な国で、移行に伴ってつじつまの合わない様々な問題が吹き出している。市場との対話にも苦労するだろう」

――中国の変調で世界の均衡は崩れるのでしょうか。

「がたがた道を経て、2年以内にニューノーマルは終わると思う。世界の成長率はさらに落ち、それに伴い所得格差、家計の経済的な不安、市場の波乱などの問題も出てきた。一方で良い兆しもある。(米配車アプリの)ウーバーに見られるようにイノベーションは健在で、企業の保有資金も豊富だ」

「世界はいずれ『T字路』に突き当たる。経済が回復するか、金融秩序の動揺を伴ってさらなる低成長に陥るか。今のところ可能性は五分五分だが、政策次第で良い方向に変わる。企業がお金を成長に投じたくなるように、需要を刺激する各国の包括的な政策が不可欠だ」

(聞き手は編集委員 梶原誠)

MohamedEl-Erian米運用会社ピムコのトップを退き現職。
オバマ政権でグローバル開発委員会も率いる。57歳。

半沢直樹はまだマシである

銀行時代の理不尽

銀行員が主人公のドラマ「半沢直樹」が大人気のうちに最終回を終えた。ドラマの中では、銀行内部での様々な理不尽が描かれているので、「銀行ではあんなことがあるのですか」と聞かれることもあった。さすがに銀行で上司に対してあんな口のきき方をすることはないが、不正融資もあったし、融資の焦げ付きなどの責任を部下に押し付ける上司もいた。そういう意味では、あのドラマはさほど現実離れしているわけではない。

だが、しょせん銀行内部のコップの中での責任の押し付け合いだ。半沢直樹はまだマシである。かつての銀行では生命を脅かされるような理不尽があったのだ。

「イトマンは君がやってくれ」――。1991年秋、副頭取の玉井英二さんから一言そういわれ、融資第三部の担当専務としてイトマン処理にあたることになった。それまでは企画担当の常務だったので、もちろんイトマンは担当ではなく、門外漢であった。

融資第三部は76年、経営危機に陥った大手商社の安宅産業の処理を担当する部署として設置された。以降、(86年に住友銀行に吸収合併された)平和相互銀行の不良債権などのやっかいな案件は専ら第三部に回され、イトマンから切り離された不良債権処理も第三部が担当することになったのだ。私は安宅問題の実動部隊として不良債権の処理や関連会社の立て直しに奔走したことがあったので、おそらくその時の経験が買われたのだろうが、「なんと理不尽なことなのか」と嘆息を禁じ得なかった。

イトマン事件とは、一言でいえばイトマンという商社を通じて何千億円という莫大なカネが闇社会に流れていった経済事件だ。その不良債権処理とは闇社会に流れたカネを取り戻そうとする作業にほかならず、様々な脅迫は容易に予想された。

70年代の安宅問題も確かに大変だった。しかし、当時は安宅を見殺しにすれば日本の総合商社全体の信用問題、そして総合商社に与信している銀行の経営問題にも発展しかねないという危機感があり、「日本のために必要な仕事」というぐらいの使命感に動かされていた。最終的に安宅の多くの事業部門を伊藤忠商事が継承し、少なくない数の関連企業が生き残ることができた。不良債権処理という一見、後ろ向きの仕事でも十分な達成感は得られたのだ。

しかし、イトマン問題の処理では安宅問題の時のような使命感は持ちえようがなかった。イトマン事件を引き起こした大きな要因のひとつは、「住銀の天皇」といわれた磯田一郎元会長の公私混同にあったからだ。それをきっかけに、闇社会に近い人間がイトマンに入り込んでいき、イトマンは闇社会の財布代わりに使われた。

94年9月14日、金融界を揺るがす事件が起きる。住銀の畑中和文・名古屋支店長が市内のマンションの廊下で何者かに射殺されたのだ。畑中くんは私の大学の後輩でもあった。「これは命がけになるな」――。当時の恐怖感は今でも覚えている。事件は結局迷宮入りし、背景は不明だ。

その後、私にも闇社会の影がちらついた。ある時、大阪出張から帰京すると東京駅からバイクがずっと後をつけてくる。気味が悪くなって自宅に近い警察署に駆け込んで事情を話し、警察にバイク男を捕まえてもらった。バイク男は「後をつけるように頼まれた」と白状したが、誰に頼まれたのかは決して明かさない。警察は厳しく注意して解放したが、また後をつけてくる。その執念深さにはぞっとした。また、ある時は、その筋とわかる男が自宅に押し掛け、強引に家の中に入り込もうとしたこともあった。

達成感の得られない仕事、不気味な脅し――。精神的にきつかったのは確かだが、銀行自身が招いた側面もあるので「こんなものだろう」と、どこか突き放して自分を見ていたような気がする。

ところが97年、頭取に昇格すると心の持ちようが変わってきた。自分が先頭に立って組織を引っ張るほかない。「殺すなら殺せ」という気持ちだった。もともと鈍感なほうではあるが、おそらく、全責任を負うほかないトップに立たされたことによって、腹をくくることができたのだろう。

読者の皆さんの中で、いきなり責任の重い立場に立たされて戸惑っている方もいらっしゃるかもしれない。しかし、いずれ慣れ、腹をくくることができる。そして理不尽にも向かっていける。私が得た教訓である。

西川善文
三井住友銀行顧問

渋谷の客を新宿が奪う 都心版ストロー効果の光と影

東京都心で駅や鉄道路線の改造が活発だ。利用者の利便性が増し、同時に日々の消費行動を変えていく。列車から降り、改札口を抜け、店に入るまでに、合計で何歩、足を動かす必要があるかが、店選びを左右する。地方で中核都市が栄え、周辺市が寂れる現象を「ストロー効果」と呼ぶ。東京都心でも、同じ現象が起き始めているようだ。

■存在感増す三丁目

ここ数年、消費の街として日を追って存在感を増しているのが「新宿三丁目」だ。JR新宿駅から見て東の一帯。アルタから紀伊国屋書店、伊勢丹を経て、寄席の末広亭や老舗居酒屋どん底のある「ツウ」向けの裏町へと続く。

「新宿三丁目」交差点に面した伊勢丹。角地部分は、もとは買収したライバル店の店舗だった
特に存在感を増しているのが伊勢丹周辺だ。駅からやや遠く、以前は「わざわざ」足を延ばすエリアだった。伊勢丹が神田から移転したころには、駅から数百メートルを歩いてもらうために知恵を絞ったという。

現在の伊勢丹の建物のうち、「新宿三丁目交差点」に面した角地は、かつて「ほていや」という別の百貨店だった。隣接するライバル社を買収し、各階の床をつなげ、広いフロアを確保したことが、現在の魅力的な店作りにつながっている。

そこへ近年の「新線」誕生だ。交差点の真下に地下鉄副都心線の新駅が誕生。池袋を経て埼玉方面に延びる東武線に続き、今年春は、渋谷駅の大改造で、渋谷を経てから神奈川へ延びる東横線とも直通運転が始まった。

このことが伊勢丹への一極集中ともいえる効果を引き起こしている。本紙記事によれば、副都心線新宿三丁目駅の1日あたり乗降客数は5割増。旧ほていや部分に開いた地下玄関からの来客数は1割増。同社は数年前、先手を打って、この地下道に直結する入り口付近をきれいに改装している。副都心線・東横線の渋谷駅が地上2階から地下5階に変わり、地上に出るのが面倒だからと新宿に足を運ぶ人もいるそうだ。渋谷から新宿へシフトする客を狙い、若い女性向けのかわいい雑貨を強化と、ぬかりはない。

伊勢丹だけではない。周辺でバー「MARUGO」など複数の飲食店を長年経営するワルツ(東京・新宿)の大竹信子氏は「遠くからこのエリアを訪れる人も年々増えている」と証言。傘下の店舗数を増やす。

大都市と地方都市を結ぶ交通網や道路が整備され、便利になると、地方が発展するのではなく、大都市に人もカネも吸い寄せられる。これをストロー効果やストロー現象と呼ぶ。北海道なら札幌、九州なら福岡(博多)など、中核都市がどんどん栄え、他の県庁所在地などの大型店が苦しくなったり、郊外の商店街がシャッター街になったりしていくわけだ。消費者は自家用車や高速バスで買い物に出かけ、地場の百貨店は衰退する。

■渋谷駅ホームから出なくてもいい

これに似た現象が、東京のような大都市の内部でも起こり始めている。目や舌の肥えた消費者は、こだわりのある、すなわち、売り手から見れば付加価値の高いモノやサービスを買おうとする時ほど、遠方へ足を運ぶ。これまでは、距離に加え、乗り換えや、駅からの歩きが壁になっていた。しかしその心理的な抵抗感も、直通運転や「駅・地下街に直結」の施設が増えることで、だんだん解消されていく。

これから当面、危機を迎えるのは渋谷駅だ。渋谷始発の東横線に乗り換えるため、「仕方なく」渋谷駅や周辺の店を利用していた人が、ホームから出てこなくなる。すでに直通運転によるマイナスの影響が駅の乗降客数や商業面で出始めているという話も伝わる。これから駅全体の大改造が長く続く。建物が一新される頃には東急沿線住民の人心が離れていないか。「東急」ブランドへの忠誠心に頼ることなく、グループ全体で慎重なかじ取りをする必要があるだろう。

さて、こうした「地下鉄・地下街直結」の商業施設が増えることは、見えにくい部分で、マイナスの影響ももたらす。「施設の全体像」を目にする機会が少なくなることで、施設のブランド価値がじりじりと減ることだ。

例えば本を読むとき、私たちは表紙を眺め、目次に目を通し、中身を読む。部分的な拾い読みであっても、著作の全体増や著者名は常に意識している。一方、インターネットで文書を読むときは、検索でひっかかった文章だけをピンポイントで読むことが多いのではないか。書き手の姿勢や、送り手が当該の文章に与えた位置付けなどは二の次になる。

■「ここに来たぞ」との思い薄れる

商業施設の利用もそれに似ていないか。地下の入り口からスルリと入り、目的の売り場に直行する。店や街の全体像は意識されない。合理的だ。しかし店舗側にとっては、いささか寂しい話だ。消費者の側にとっても、ある施設が提供する文化の総体に触れる機会を逸しかねない。

例えば東京ディズニーランドを思い出したい。チケットを買い、入場し、商店街に相当する部分を抜け、広場の向こうにシンデレラ城が目に入る。「ついにまた来たぞ」という高揚感をここで感じるわけだ。

仮の話だが、隣接する駐車場から地下道を作り、何かの人気アトラクションの裏手にひょっこり出られる入り口があったとしたら?確実に便利だ。無駄も減る。しかし、あの「正面入り口」の高揚感は得られない。財布のヒモの緩み具合も変わるだろう。

百貨店も似ている。豪壮な玄関、礼儀正しく迎える案内カウンターやエレベーターのスタッフ。そうした仕掛けが醸し出す「特別感」は、出入りが便利になるにつれ、目減りしていく。単なる「便利なだけの店」では、ディズニーランドのお土産のような目的外の買い物は起こりにくい。

改築した歌舞伎座。地下鉄利用者も、いったん写真右端の出入り口から外に出て、同左端の玄関まで外を歩く構造をあえて採用した
思慮深い建築家は、すでにそのことに気づいている。先ごろ全面建て替えが終わった東京・銀座の「歌舞伎座」がそれだ。

以前とは違い、地下鉄改札を出た地下街から、そのまま段差もなく地下の売店が並ぶ地下の広場に入れる。珍しい菓子や弁当などが並び、和服の女性たちでにぎわう。いま東京でもっとも「粋」な商業施設と言えるかもしれない。しかし、ここから歌舞伎の公演を見るため移動しようと思うと、いったんエスカレーターを上がり、地上に出なければいけない。建物正面に沿ってしばらく歩き、以前同様、街に面した正面玄関から入るのだ。ひさしがあるので多少の雨ならぬれずに済む。しかし、ふつうに考えれば、内部だけで移動できるほうが快適だろう。

■特別な空間でストローから逃げる

日経ビジネスオンラインで、設計した建築家の隈研吾さんが、狙いをこう語っている。「不便じゃないか、という声もありますが、やっぱり正面玄関を通っていただきたかったんですよ。直接つないじゃうと、祝祭性が薄くなるので、ここは観客の方に歩いていただこうと」

駅も、百貨店も、映画館や劇場も、かつては堂々たる正面玄関を持つ特別な空間だった。いま、たとえばショッピングモールに入居する映画館は「映画コーナー」であり、「館」ではない。地下街や駅とつながる商業施設も、便利になる代わりに、表紙のない本のようになった。知らぬ間に施設に入り、知らぬ間に退出する。お気に入りの「ショップ」があっても、その店が入居している駅ビルやモールなどの「施設名」を即答できない人にもときどき会う。

便利さだけをひたすら追求するか、新たな「特別な時間と空間」の演出方法を見いだすか。地方に続き、これから大都市でも人口減と高齢化、移動や消費の減少が本格的に始まる。ストロー効果でスキップされるかもしれない街や店ほど、この課題に今後、真剣に取り組む必要が生じるのではないか。

編集委員 石鍋仁美

魚沼産コシヒカリ急落が映す日本農業の構造問題

2012年産のコメの価格が変調を来している。仕入れ量確保のため、昨年秋に全国農業協同組合連合会(全農)や民間の集荷業者が農家から高値で集荷したが、価格の高止まりで消費量は低迷。流通業者が在庫整理に動いたことで今春以降ようやく値下がりに転じた。総論はこうだが各論は異なる。銘柄別でみると下落幅に大きな差があるばかりか、一部の銘柄は値上がりしているのだ。

■豊作の恩恵ようやく消費者に

「下落というよりも暴落だ」。コメを扱う流通関係者はため息をつく。ブランド米の代表格である新潟県・魚沼産コシヒカリは現在、卸業者間の取引価格が玄米60キロで2万~2万1000円。12年産の新米が出回り始めた昨年秋に比べて、中心価格は1割近く下がった。一部には2万円を下回る安値取引も出ているという。新潟県の魚沼や佐渡、岩船といった有名産地以外で収穫された新潟産の一般コシヒカリも1万6500~1万6700円と4%下がっている。

コシヒカリと並び、量販店での取り扱いが多い秋田産あきたこまちも1万5600~1万5800円と3%安い。コメ価格は昨年秋から2月ごろまで高止まりが続いたが、3月以降は各ブランド米とも下落傾向に入った。

コメの価格は東日本大震災以来、高値圏で推移していた。震災直後はコメの買いだめなどもあり、11年産は品薄状態が慢性化。12年産は全農や民間の集荷業者が現物を確保するために前年を上回る価格で集荷した結果、出回り当初から高値となった。12年産米の作況指数は平年を上回る102。平年を上回る豊作ながら、価格が高止まりしたことで外食店や弁当など中食業者、そして消費者のコメ購入量は減った。生産者や流通業者は前年を大幅に上回る在庫を抱えることになり、現在は安値での放出を徐々に迫られているのが実情だ。

せんべいや、みそ、焼酎など加工用のコメはともかく、家庭の食卓に上る主食用米は「新米」であることが重視される。しかし、12年産のコメの流通在庫は3月末で42万トンと前年同期を約30%も上回っている。13年産が出回り始める今年10月ごろまでには、「12年産の在庫をできるだけ消化したい」というのが生産者や卸会社の本音だ。卸価格の下落に合わせて、スーパーなど量販店はコメの特売などを実施。豊作の恩恵がようやく消費者にも及んできた。

一方で銘柄間での値動きの違いが、ここに来て顕著に現れている。北海道産のきらら397、青森産のつがるロマンやまっしぐらなどは比較的値ごろで味も良いため、業務用として外食・中食業者の引き合いが強い。きらら397の場合、現在の卸間価格は1万5700~1万5900円。昨年の出回り時に比べて逆に2%程度値上がりしている。新潟産コシヒカリ(一般品)との価格差は昨年10月には1800円だったのが、現在は800円程度にまで縮小している。

■欲しいコメが手に入らない

圧倒的なブランド力を誇る銘柄とお手ごろ銘柄の価格が接近するのはなぜか。「すべてのユーザーがコシヒカリを欲しがっているわけではない」。業務用米の大口需要家はこう指摘する。牛丼や弁当、総菜など値ごろ感や「安さ」で勝負する外食・中食業者にとって、コメをいかに安値で調達できるかは重要なポイントだ。一方、コメの生産者はコシヒカリなど高値で売れるブランド米の栽培を増やす傾向にある。このため、きらら397などは品薄感が出ている一方、ブランド米は供給過剰の色彩が濃い。コシヒカリでも関東産は既にきらら397の価格を下回るなど「逆転現象」が生じている。

日本べんとう振興協会、日本惣菜協会などコメの大口需要家でつくる「国産米使用推進団体協議会」は1日、農林水産省に対して、低価格な国産米の増産を求める要請書を提出した。同協議会の福田耕作会長は「きらら397やまっしぐらは欲しくてもモノがないのが実情。弁当業者はごはんの盛りつけを減らして対応している」と窮状を訴える。

「豊作なのに高値」「欲しいコメが手に入らない」――。コメの市場をめぐる需給ギャップの背景には、消費現場の販売動向や価格動向が生産者に正確に伝わらない問題点があるといえそうだ。

(商品部下村恭輝)

ポーター著「競争の戦略」

(1)出版30年、今なお影響力-経済学の理論が支え

1980年に出版されたマイケル・ポーターの著作「競争の戦略」は、経営戦略論を代表する1冊です。企業の経営環境は目まぐるしく変化しており、多くの経営書は数年もしないうちに賞味期限が切れます。なのに、なぜ「競争の戦略」は出版から30年以上たった今でも経営戦略論の中心にいられるのでしょうか。

その理由は「競争の戦略」が経済学に根差している点にあります。ミクロ経済学に「産業組織論」という領域があり、独占禁止政策の理論的根拠となっています。平たく言うと、独占やカルテルによってどのように超過利潤が発生するかを特定するための理論です。

この理論を逆手に取れば、独禁法に抵触しない方法で疑似的に独占的な状況をつくり出し、利潤を上げられる可能性があります。経営学でいう「競争優位」とは、まさに独占に近い地位を特定領域で築くことです。

ポーターはまず、「5つの力」という概念をもとにした業界構造分析を通じて、競争優位をつくれる状況にあるかどうかを判断します。そのうえで、どのような基本戦略を選ぶべきかを定めるというアプローチをとります。「5つの力」などの枠組みはすぐには陳腐化しにくい経済学の理論を支えにしているため、彼の「競争の戦略」は今でも影響力があるのです。

ポーターは、96年の論文で「日本企業には戦略がない」と批判しています。日本企業は、横並びで混み合った市場に参入するケースが目立ちます。そうした市場で同質的な競争を繰り広げ、結果的に利益率も低く、それでも撤退しない事例に事欠きません。

「競争の戦略」に象徴されるポーターの理論は「ポジショニング」学派とも呼ばれます。市場で独自の位置を築いて利益率を高めるというのがポジショニングの考え方です。米アップルと韓国サムスン電子の挟み撃ちにあっている企業は今こそ、ポジショニングを再検討すべきでしょう。

(2)競争左右する「5つの力」-適切なポジショニングの指針に

マイケル・ポーターの「競争の戦略」第1章の冒頭に登場するのが「5つの力」という枠組みです。企業の利益性は、競争環境の厳しさに影響を受けるというのが、ポーター理論の土台にある産業組織論の考え方です。その競争環境を分類したのが、「5つの力」と呼ばれる競争要因です。

1つめの力は新規参入の脅威です。魅力的な市場でも、次々と参入者が現れて供給能力が増え、価格競争に陥ってしまうと、利益性は低下します。そのため、参入障壁の存在が重要となります。

2つめの力は業界内の競争関係です。過当競争の結果、誰かが撤退すれば競争は緩やかになりますが、撤退障壁がある場合、過剰な供給能力が残り、値崩れによって利益性が低下します。

3つめの力は代替製品からの圧力です。業界内の競争が緩やかでも、同じような機能の商品が台頭すると、需要を奪われるため値下げで対抗せざるを得なくなります。

4つめの力は買い手の交渉力です。売り手が多数で、買い手が少数という場合、需給のバランスからみて、買い手の価格交渉力が高まります。

逆の場合、売り手の価格交渉力が高まります。原材料生産者が少ない場合などがこれに当たります。これが5つめの力、売り手の交渉力です。

こうした要因を理解して、競争環境の緩やかな場所にポジショニングすれば、資本コストを上回る利潤を上げることが可能になります。逆に、同質的な過当競争に巻き込まれやすい場所に陣取ると、もうかりにくくなってしまいます。

ポーターはポジショニングこそが戦略と主張しました。しかし、現代の経営環境では安泰なポジションを長期的に守ることは困難です。ポジショニングは必要条件として大前提にあるものの、それを守る上で必要な組織的な能力を築くことが、高い利益性を実現するための十分条件になるというのが、現代の戦略論の要諦です。

(3)3つの基本戦略-複数追うより、一つを貫く

マイケル・ポーターの「競争の戦略」で有名になったものとして「5つの力」のほかにも、「3つの基本戦略」があります。企業戦略は自社を取り巻く競争要因に応じて異なるので、唯一の正解はありません。しかし、ポーターは競争相手に打ち勝つ方法は3つのパターンに大別でき、おのおのに一貫した原理があると示しました。

1つめの基本戦略はコストのリーダーシップです。コスト面で優位であれば、競争が厳しくなっても、自社の利益性は相対的に守られるのです。ただし、コスト・リーダーシップは技術変化や新規参入などの環境変化のリスクに弱いともポーターは指摘しています。

2つめの基本戦略は差別化です。製品機能やイメージなどで特長があれば、相対的な高価格が維持でき、同質的な競争も回避できます。この戦略でも、極端な低価格攻勢や、模倣をする競合に対しては、優位を守れなくなるリスクがあります。

3つめの基本戦略は集中です。特定の市場に経営資源を集中して優位を達成すれば、その分野への新規参入は限定され、利益性が守られます。集中戦略は市場を限定するので、全体的に大きなシェアをとれるわけではありません。また、ターゲットとする市場の特異性が薄れれば、全体の市場で優位に立つ企業との競争に巻き込まれます。

3つの基本戦略のどれも満たしていない場合、厳しい競争に巻き込まれ、利益率を低下させます。どれかを満たしていることが、地位を守る上で必要です。

3つの基本戦略の複数を同時に追求するのは難しいとポーターは言います。特に、市場が成熟すると、一貫性のない戦略では競争できなくなります。かつて日本企業は「いいものを安く」で海外市場を席巻しましたが、より低コストのアジア企業が台頭して苦戦を強いられています。どれか1つに基本戦略を絞らない限り、窮地からの脱出は難しくなっています。

(4)業界内部の構造分析-模倣し難い能力確立を

ポーターの「競争の戦略」では、競争業者の分析や、業界内の戦略グループ分析についても多くのページ数を使って説明しています。戦略は自社だけが立てているわけではありません。同業のライバルも戦略を立てていますし、自社の戦略に反応して他社が戦略を変えることもありえます。

特に避けなければいけないのは、自社が価格面の優位を追求するコスト・リーダーシップ戦略に出ようとしても、他社が同様の対応をしてくることです。泥沼の価格競争への突入をどう回避できるのか検討すべきです。

そこでポーターが紹介しているのが、業界内部の構造分析です。主要な競争業者を、戦略の特徴が類似している者同士に分類して、いわば業界内のポジショニングの違いを分析するのです。

いつからその業界に参入しているのか、もともとどのような技術や原料に立脚していたのか、企業グループ内の他事業とどのような関係性があるのかなどを基に戦略グループを分類します。

それら戦略グループの間には、多くの場合、移動障壁があります。その事業に参入した経緯や背景が違えば、経営資源の量や質も異なることになり、他の戦略グループに移動することが難しいためです。

ポーターは企業の能力や資源の要素についても、移動障壁という表現を用いて言及しています。業界内で特定の企業群が他に比べて高い収益性を持続させている場合、その戦略グループの企業群は非常に強力な移動障壁を持っているとポーターは表現します。

強力な移動障壁とは何かというと、模倣の難しい能力を確立できていれば、その戦略ポジションには他社が容易には移動してこられないということです。

移動障壁となるような能力があれば、同質的競争に陥らずに済むのですが、なかなかそうはいかないのが、現実の競争の厳しいところです。

人口自然減最大、20万人超 2011年推計

婚姻67万組で戦後最少
少子化さらに加速も

2011年の日本の人口減少幅は過去最大の20万4千人にのぼることが31日、厚生労働省の人口動態統計(年間推計)で分かった。出生数が死亡数を下回る自然減は5年連続で、20万人を超えるのは初めて。婚姻件数は67万組で戦後最少となる見通し。東日本大震災をきっかけに「絆」が再認識された年だったが、前年比3万組の減少で、少子化の一段の加速につながる可能性もある。

年間推計は10月までの速報値などを用いて算出。出生数は戦後最少の105万7千人で、前年比1万4千人(1.3%)減った。死亡数は126万1千人。東日本大震災の死者(昨年12月30日現在で1万5844人確認)の影響もあり、同6万4千人(5.3%)増えて戦後最多を更新した。

死因別では、がん(35万8千人)、心筋梗塞など心疾患(19万8千人)、脳卒中など脳血管疾患(12万6千人)の三大死因の順位は変わらず、いずれも前年より増えた。

自然減が始まったのは05年。06年は出生数が増え自然増だったが、07年以降、再び自然減に転じた。10年は12万5千人だった減少幅が急拡大したことについて、厚労省は「出産可能な女性の人口が減り出生数が減った。高齢化に加え、11年は震災で死亡数が増えた」と分析している。

婚姻数は年間100万組を超えた1970年代前半をピークに減少し、78年に80万組を割り込んだ。87年にこれまで最少の69万6千組となった後、88年からは70万台で推移していた。厚労省は「少子化で結婚適齢期の女性が減っていることが影響している。初婚年齢が変わらなければ今後も減少が続く」と説明する。

一方、離婚件数は23万5千組で、前年比1万6千組減。96年に20万組を突破し、02年に28万9千組で戦後最多となって以降は減少傾向が続く。

国立社会保障・人口問題研究所が10年6月実施した「出生動向基本調査」では、18歳以上35歳未満の未婚者のうち、「交際している異性がいない」とした男性は05年の前回調査より9.2ポイント増の61.4%。女性も4.8ポイント増の49.5%だった。

「一生結婚するつもりはない」と答えた男性は2.3ポイント増の9.4%、女性は1.2ポイント増の6.8%で、独身志向の未婚者の増加傾向が明らかになっている。

ネット界にぎわすグルーポンはIT企業か

創業2年半にして4億1300万ドル(約330億円)の赤字を計上。こんな赤字会社の株式を買う投資家はいるのだろうか。

関連記事
・6月3日日経新聞夕刊3面「グルーポンが上場申請」
・6月4日バロンズ電子版「グルーポン上場 失望するかも」
・6月7日ウォール・ストリート・ジャーナル電子版「なぜ今、上場?メイソンCEO インタビュー」
しかし、創業2年半にして売上高が7億1300万ドル(約570億円)にもなる急成長企業なら、のどから手が出るほどこの会社の株券を欲しがるかもしれない。おまけに8300万人もの顧客(登録会員数)を抱えて世界43カ国で展開しているとなると、さらに投資意欲が高まる可能性もある。

この会社の名前はグルーポン(シカゴ)。クーポン共同購入サイトの世界最大手の会社だ。

同社を巡っては昨年末にグーグルなどネット企業が買収に動いたとされ、その企業価値がどれほどになるのかが注目されていた。ただ非上場会社だったことから正確な売上高や利益などが明らかにされておらずベールに包まれたままだった。

■IPO申請で業績や加盟店数などが明らかに

そのグルーポンの実像が徐々にではあるがわかってきた。同社は2日、米証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の申請を行い、その書類からグルーポンの今を知ることができる。それによると同社は最大7億5000万ドル(約600億円)を調達する計画で今年になって最大のIPOだ。

上記以外の数字で明らかになった主なものは、2010年度の加盟店が6万6000軒超であること。またクーポンの発行枚数が2010年度は3029万枚。2011年1~3月期では2809万枚となっており、前年度の9割強にあたるクーポンを発行したことになる。

これだけでもクーポンの急成長ぶりがよくわかる。

グルーポンの業績

ただ、驚くべき数字はこれだけではなかった。売上高の急激な伸びも目を見張るが、それを上回っているのが新規顧客獲得などの営業経費だ。2011年1~3月期の売上高は6億4472万ドルで前年同期比14倍だったが、営業経費は52倍の2億820万ドル。この営業経費が重荷で赤字決算になっているのだろう。創業当時の37人の従業員数は今年3月時点では7107人にもなっている。おそらくその大半が加盟店獲得のための営業担当者のはずだ。

グルーポンは多数の消費者が購入することで大幅割引になる仕組みだ

日本でクーポン共同購入サイトを運営する会社の幹部も「ライバルを突き放すために営業担当者はどれだけでも欲しいくらいだ。ただ、どこかで採用のブレーキをかけなくてはいけないがそのタイミングはわからない」と語ってくれた。

こうした業態はネットでクーポンを発行するからIT(情報技術)企業と見られがちだが本当は営業担当者が飲食店やホテル、エステサロンなど一軒一軒回って加盟店獲得をする地味な企業なのだ。

■営業担当の人海戦術で加盟店増やす

米グルーポンを創業したアンドリュー・メイソン最高経営責任者(CEO)=AP

このことはグルーポン創業者で最高経営責任者(CEO)のアンドリュー・メイソン氏の発言からも読み取れる。メイソンCEOはIPO申請直後のウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで「従業員は地域に入りこみ、グルーポンの仕組みを商店主などに丁寧に説明する。人手のかかる仕事だ。ハイテク企業にありがちな世間知らずの会社ではない。典型的な(多くのIT企業が本社を構える)シリコンバレーの方法とは正反対にある」と語っている。商都と呼ばれることもあるシカゴで育ったグルーポンならではコメントだ。

果たして投資家はグルーポンをIT企業と見ているのか、それとも人海戦術を得意とする従来型の企業と見ているのか。今のところ、前者と考える投資家は多そうで、同社の時価総額は200億~250億ドル(1兆6000億円~2兆円)になるとも言われている。

ただ、米投資情報誌バロンズによると、メイソンCEOら関係者が今年1月、保有するグルーポン株式の一部を現金化していることを指摘し、「関係者はIPO価格が実態から乖離(かいり)してしまったことを認識している」と書いている。

大幅な割引のクーポンを競って手に入れようとするように、グルーポンの株券は人気を呼ぶだろうか。

田中陽(たなか・よう) 85年日本経済新聞入社。90年編集局流通経済部記者、2002年流通経済部編集委員。日経ビジネス編集委員などを経て消費産業部編集委員。小売業、外食企業、流通行政・消費者行政などをカバー。主な著書に「セブン-イレブン 覇者の奥義」「百貨店サバイバル」。

世界の広告、伸び鈍化

今年4.2%成長、震災・中東情勢が影 英社調べ
来年分は上方修正

【ニューヨーク=小川義也】世界の広告市場で、東日本大震災や中東・北アフリカの政情不安が影を落とし始めている。英調査会社ゼニスオプティメディアが11日に発表した2013年までの世界の広告市場予測によると、11年の成長率は前年比4.2%で、昨年12月の前回予測より0.4ポイント下方修正した。ただ、震災などの影響は「一時的」として、12年の伸び率は上方修正。13年まで年4.2~5.8%成長が続くとしている。

世界最大の広告市場である米国の景気回復や、成長著しい新興国がけん引する形で、11年の世界の広告費は4708億2900万ドル(約40兆円)に達する見通し。ただ、日本の震災や中東などの混乱を受けて企業などが広告を絞り込んだ結果、「約24億ドルの広告費が失われた」としている。

日本では震災直後、ほぼすべてのテレビ広告が公共広告に置き換えられ、主要媒体への広告出稿が大きく減少した。今年の日本の広告費は前年比で4.1%減少する見通し。ただし、12年は4.6%のプラス成長に転じると予測している。

世界の広告費のほぼ3分の1を占める北米市場は13年まで年平均3.1%の成長を予測。世界の広告費に占める新興国の比率は10年の30.9%から13年には35.1%に高まる見通し。12年の世界の広告費の伸び率を前回予測の5.2%から5.8%に引き上げた。

中国が世界3位の広告市場になるほか、ブラジルがフランスを抜いて6位になるなど、BRICS各国の存在感が高まるとしている。

媒体別では、インターネット広告が13年に新聞広告を抜いて、テレビに次ぐ第2位の広告媒体になる見通しだ。

”情報軸”から”自分軸”ヘ – 藤巻幸夫

本物志向の強まる1年に

銀行の不良債権処理にメドがついた2004年に続いて、2005年は企業再生が大きなテーマになるといえる。老舗企業の破綻として話題となった靴下メーカー・福助の再生請負人を務めている藤巻幸夫社長が考える2005年の企業再生のカタチとは。

---2004年は福助の企業再生が話題になった。

 企業再生といっても、靴下メーカーの福助がこれだけ注目されたのは、なんといっても″老舗″だったからだろう。企業再生でも特に、地域再生や老舗と呼ばれる企業の再生が活発化すると見ている。
 老舗とは、もともと進化し続けたからこそ老舗になりえたわけで、それ自体が悪いわけではない。経営に行き詰まったのは、安定のすえに進化が止まり、老いてしまったからだ。そうした考えの下、福助は「進化する老舗・福助」という企業スローガンを掲げて再スタートを切った。

---日本の企業再生で最も必要なこととは。

「提案カ」だろう。購買層は高所得者層と一般庶民に二極化し、デフレが解消されたことによって、高級品と普及品、100円ショップに代表される低価格品、と消費は三極化した。だからこそ、どのターゲットに絞るか、提案していくかが重要だと認識しなければならない。

---再生の過程において老舗だからこその大変さはあるか。

 私が企業再生に取り組むなかで言いたいのは、「老兵は去れ」という言葉に尽きる。老害や既成事実が多く、現場のこともわかっていない。私の場合、まず自分で現場を歩き回って仕事のやり方と仕組み、社員の意識を変え、社内・市場・生産の現場も改めた。私はこのすべてを同時進行で行なった。老兵は生涯在野を貰いた白洲次郎のような立場を保ち、若手にチャンスを与えるべきだ。
 老舗には技術がある。自身の持つハードの技術とソフトの提案カを融合すれば、企業再生は決して大変なことではない。
 たとえば、うちは2005年に健康をコンセプトにしたブランドを立ち上げたいと思っている。これは、ただ体の健康を考えるだけでなく、生活を健康にしていくという発想から生まれたブランドだ。技術と提案カの融合だといえる。

---2005年のキーワードは。

「アナログ」ではないだろうか。つまり、人とのコミュニケーションから生まれるものが重要になるという意味だ。たとえば、IT化が進み、人びとは情報をなんでも手に入れることができるようになった。だが、あまりにも多くの情報が溢れてそれに流され過ぎてしまったわけだ。そこで2005年は、経験や勘など、自分の感覚により重きを置く風潮となるだろう。
 森永卓郎氏の 『年収300万円時代を生き抜く経済学』という本が売れたが、本当に年収300万円時代がくれば、他人がいいというものではなく自分がいいと思うものが大事になる。″情報軸″だった価値基準が″自分軸″に移ってくると、どんどん本物志向が強まってくると思う。

---自分なりの本物を見つけるということ。

 はい。韓流ブームでヨン様人気が沸騰したが、そもそも「冬のソナタ」は日本でずいぶん昔に流行った恋愛ドラマに似ている。今の日本の恋愛ドラマはバーチャルになり過ぎてしまった観があるが、逆に古きよき時代の恋愛がブームとなったのは、温故知新のよい例といえるだろう。2005年はその発展型として、″温故知自″(自分を知る)となると思う。そして、「身分だけが価値を見出せるもの」を企業は提供しなければならなくなる、そんな時代が来るはずだ。

●福助社長
1960年生まれ。伊勢丹に入社後、「解放区」「BPQC」の立ち上げにかかわった ”カリスマバイヤー”。
その功績を買われ、2003年10月、民事再生法を申請した老舗靴下メーカー・福助の代表取締役社長に就任。