加賀見俊夫(17)コンセプト議論

「モア ロマンティック!」
妥協は許さぬ 思わず出た言葉

海のテーマパークのコンセプトを固める議論が始まろうとしていた。ディズニーらしさを前面に押し出しながら、どうやって日本人の琴線に触れる施設を造りあげるのか。これが一番の大仕事だ。何しろ90%以上のゲストが日本人なのである。

私は1993年6月に副社長に就任していた。94年6月、社内のさまざまなセクションから5人の社員を選抜して「コンセプトチーム」を立ち上げた。ディズニー社のクリエーターたちと侃々諤々の熱い議論を交わすのが狙い。大げさに言えば日の丸を背負っている。責任は重い。

高橋政知会長は「君たちは日本代表だぞ!」と檄を飛ばした。私も「とにかく全力を尽くして頑張ってこい」とエールを送った。それから1年8カ月間にわたって濃密な議論を繰り広げた。

チームがアメリカに渡って2カ月後、高橋会長と私も合流して、ディズニー側に我々の思うところを伝えた。議論を聞いていて、私は思わず言った。「モア ロマンティック!」。ゲストが何度も来たくなる本物のテーマパークのためには妥協は許されない。必死で真剣だった。

コンセプトチームの頑張りには目を見張るものがあった。日米両社でコンセプトを具体化する中で、最も時間を費やしたのがアイコン(パークを象徴する建造物)だった。はじめは「灯台でどうか」と話を進めていた。だが米国と日本ではイメージが異なる。アメリカでは灯台は冒険の守り神。でも日本では違う。船の航行の安全を守る重要な存在だけれども、孤独、哀愁、寂寥の印象も付きまとう。ディズニー社のスタッフを日本の灯台に案内したりして、時間をかけて検討を重ねた。

その結果、アイコンは大きな水の惑星をイメージした「ディズニーシー・アクアスフィア」に決まった。高橋会長の強い意向だった。宇宙から見た地球は宝石箱のように輝き、生命力に満ちているとのリポートを読んで「パークにも生命の輝きと感動を」というのだ。ロマンティストの会長らしい発想だ。直径8メートル。インパクトのある、素晴らしいものに仕上がった。

コンセプトをパークの具体的な計画に結実させていく作業は予想通り長引いたが、楽しい仕事もあった。東京ディズニーシー・ホテルミラコスタの建設だ。初めてのパーク一体型のホテルである。開園と同時の開業を目指した。

ミラコスタは「海を眺める」を意味するイタリア語。ホテルの目の前に広がるメディテレーニアンハーバーのモデルになったのはイタリアのポルトフィーノ。私も現地に赴いて品格ある高級ホテル、スプレンディードに泊まった。とても居心地が良く、のんびりと幸せな気分に浸った。

船で海に出て町並みを眺めた。古き良き時代のイタリアのたたずまいを守る港町だ。海沿いに暮らす人々のアパートの窓辺には色とりどりのハンカチが翻っていた。漁に出て戻ってきた夫を出迎える妻が飾るのだ。こういう素晴らしい雰囲気をパークやホテルの外壁に再現しようと、趣向を凝らした。

いよいよ建設の最終案をとりまとめる段階に入って、多忙な中、私の身辺はにわかに慌ただしくなった。

(オリエンタルランド会長兼CEO)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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