高田賢三(29)夢の矛盾

五輪制服 堅苦しさ払う
新事業 軌道乗らず自己破産

「2004年のアテネ五輪の日本選手団ユニホームをデザインしてもらえますか」

電話で依頼してきたのは知人の佐々木力さん。女優、萬田久子さんの事実婚の夫で米婦人服「セオリー」の社長、「ユニクロ」で知られるファーストリテイリング(ファストリ)の役員も務めていた。03年初めのことだ。

ファストリが生産を手掛ける。6月半ば。打ち合わせのために東京に向かった。グループ総帥、柳井正会長との初会合である。私はイメージを膨らませる素材として数枚のスケッチを描いてきた。

富士山、桜、日の丸……。

柳井さんはスケッチを見るなり即座にこう指摘した。

「なんか外国人向けのお土産みたいですね。フジヤマ、ゲイシャはやめましょう」

おっしゃる通りだった。

さすがは世界的な敏腕経営者である。しばらく仕事から遠ざかり、私の感覚が鈍っていることを瞬時に看破したのだ。良い仕事には率直な意見交換が欠かせない。有り難かった。すごい感銘を受けた。

3カ月間、集中議論して色、素材、デザインなどを詰める。「多様な色、柄、素材の中から選手が好きな組み合わせを選ぶ」というコンセプトはその過程で生まれた。テーマは「個性と制服の両立」。

個々の選手はバラバラに見えるが、全体としての統一感がうまく演出できるデザインにした。堅苦しいユニホームの既成概念を崩したかった。

いよいよ本番――。

開会式はアテネで見学した。フィールドに涼しげな白を基調に芍薬などの花柄やうちわが揺れ、ゆったりしたシルエットの制服を着た選手がリラックスして行進している。爽やかな印象を受けた。

観戦した柔道では谷亮子選手が金メダルを獲得。ほかの競技でも日本のメダルラッシュとなり、金が東京五輪と並ぶ過去最多タイの16個、銀9個、銅12個と大躍進した。少しでも貢献できたとしたらこれほどうれしいことはない。

04年、私は本格的なビジネスに乗り出すために「五感工房」というブランドと会社を立ち上げる。だが自分の経営能力の不足に加えて、様々な困難に直面してビジネスがなかなか軌道に乗らない。

始めからトラブル続きだった。本来は「タカダ」というブランドと会社でやりたかった。だがなぜかその直前に何者かが同名の商標を登録していたことが発覚する。「タカダ」の名前が仕事に使えない事態になってしまった。

さらに超一等地に立地する店の建設工事や事務所開設、人件費に膨大な費用がかかり、服や宝飾の企画生産も思うように進まない。裁判を経て「タカダ」の名は使えるようになったが、まもなく資金繰りが悪化。とうとう07年に自己破産に追い込まれる。

プロの経営者には頼まず、素人だけで始動したかつての「ジャングル・ジャップ」の手法はまったく通用しなかった。その結果、グザビエと一緒に作った自宅や美術品などを手放さざるを得なくなった。

新しい「夢」を追いかけたがゆえにグザビエと作り上げた「城」が壊れてしまったのだ。悔しかった。寂しかった。だが資金繰りには一応のメドが付き、安堵する気持ちもあった。

身から出たさび――。08年にはパリ中心部の道路を飲酒運転で逆走し、警察に捕まる事件も起こす。完全に私の不注意である。世間を騒がせてしまい忸怩たる思いだ。

(ファッションデザイナー)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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