高田賢三(24)グザビエ

同じ夢追う人生の相棒
「見せたい」夕日に燃える宮殿

欧州には歴然とした社会階層が残っている。生まれながらに莫大な遺産を抱え、生涯あくせく働く必要がない恵まれた人間もいる。

グザビエがそうだった。正式名をグザビエ・ドゥ・カステラという。ルイ14世から伯爵の称号をもらったという正真正銘の貴族である。

出会いはパロマ・ピカソ(パブロ・ピカソの娘)の誕生日の夕食会。カール・ラガーフェルド、そのパートナーのジャック、そして私の正面に座ったのがグザビエだった。

俳優クリント・イーストウッドに似た風貌。照れると口髭を触る癖がある。最初はたわいもない会話を交わしたが、すぐに大変な教養の持ち主であることが分かった。

建築を学んでいて欧州の古城の歴史や構造などを熟知している。日本建築にも造詣が深く、桂離宮や龍安寺に込められた思想や様式についても分かりやすく教えてくれた。

私は好印象を抱いた。

美意識や感性が自分に合っている気がした。すぐにジャックら仲間たちと一緒にバカンスをカリブ海やエーゲ海、バリ島で過ごすようになり、やがて服作りやビジネスの助言も受けるようになる。

ごく自然の成り行きでパリで一緒に暮らし始めた。

グザビエからは人間として素晴らしい刺激を受けた。多くの教養を学ぶこともできた。それが私のデザイナーの仕事にどれほど役立ったことか。共同経営者も紹介してくれたし、会社が困ったときには資金も援助してくれた。

忘れられない記憶がある。

ロールスロイスで南仏を2人で巡ったグルメ旅行。夏の日差しに輝く青い海をながめながら、隠れ家のように点在するレストランを食べ歩く。

ニース、サントロペ、アンチーブ……。どの景色も映画のように美しい。車内で流すオペラの選曲も完璧だった。2週間で体重が6キロも太ってしまったが、濃厚で充実した時間を過ごすことができた。

「ケンゾー。ぜひ見てもらいたい風景があるんだ」

夏のある日。グザビエから誘われたことがある。ベルサイユ宮殿に行こうという。

不思議に思いつつも一緒に出かけることにした。ベルサイユ宮殿はパリから西へ約20キロ。自動車なら30分たらずで到着する。迷路のように入り組んだ宮殿、幾何学模様の花壇や運河が広がる庭園……。

敷地をゆっくり散策したが、どこが絶景なのかなかなか教えてくれない。グザビエはしきりに時計を気にしていた。太陽が西に傾き、周囲が幻想的な色彩を帯び始める。その瞬間、グザビエが叫んだ。

「いまだ。振り返って!」

ベルサイユ宮殿の西側に立っていた私は息をのんだ。

なんという光景だろう。

西方に真っすぐ延びる運河の先に定規で測ったかのように大きな夕日が輝いている。その逆方向では宮殿の「鏡の間」が太陽光線を反射し、館全体が今にも燃え上がりそうなほど鮮やかな緋色に染まっていた。

寸分の誤差もない。

その時刻に庭の大運河と「鏡の間」が太陽光線で射抜かれるように建築家が設計していたのだ。

自然と科学の融合――

そこにはものづくりに心血を注いだ先人たちの心意気が込められていた。過去の知恵者との対話があった。

私は驚嘆を隠せなかった。

「ね、分かったかい?」

放心状態の私を見ながらグザビエが満足そうに笑った。

(ファッションデザイナー)

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。