大村智(21)新薬承認

寄生虫病に劇的な効果

動物で実験重ね人向け開発

 

寄生虫を殺す物質「エバーメクチン」の特許は米メルクが出願し、1978年に成立した。同じ年に米ジョージア州であった国際会議で発表し、専門誌に論文を載せたのは翌79年になってからだ。寄生虫病の薬として使えそうだという最初の実験結果が出てから、5年ほどたっていた。

エバーメクチンはアベルメクチンとも言い、この物質をつくる放線菌はストレプトミセス・アベルミティリスと命名された。まねされては困るのでデータはしっかり集めながらも、特許が得られるまで発表しなかった。工業的に成り立つ量のエバーメクチンを作るための実験なども続け、万全を期した。

メルクの化学者たちは、エバーメクチンの化学構造に一部手を加えて、寄生虫を殺す効果を高めた「イベルメクチン」を作った。メルクはこれを動物薬として81年に発売した。

野外で線虫が寄生した牛24頭にイベルメクチンを使ったデータがある。半数の12頭に体重1キログラムあたり200マイクロ(マイクロは100万分の1)グラムを1回皮下注射した。何もしなかった牛では数万の寄生虫が生き続けたが、注射した方は0~数百に激減した。学会で発表するとみんな「本当か」と半信半疑だったほど劇的な効果を示した。

カナダの牧場ではダニで皮膚がカサカサになった牛に皮下注射すると、1カ月後にすっかりきれいになった。体内の寄生虫もいなくなり、牛乳や牛肉、皮革産業に大きく貢献している。当初、節足動物のダニにまで効果があるとは思っていなかった。心臓にフィラリアが寄生した犬の場合には、この薬の投与によって寿命を2倍に延ばすことができた。

動物薬を出した時点で、メルクのキャンベルさんは熱帯の人々がかかる寄生虫病の治療薬の開発を提案した。河川盲目症とも呼ばれるオンコセルカ症に対し、81~82年に臨床試験を実施した。

オンコセルカ症はブヨが媒介する線虫によって起きる。人の体に寄生したメスの線虫が産む1日あたり1000匹もの幼虫が体内を広がり、死骸が皮膚にひどいかゆみを起こす。失明をもたらすこともある。ところがイベルメクチンを1回投与すると、1カ月後には目や皮膚の線虫が消えた。

イベルメクチンは蚊が媒介するリンパ系フィラリア症にもよく効いた。我々は頻繁に連絡を取り合いながら治療薬を出すために協力を続けた。メルクは87年、「メクチザン」の製品名でフランスの審査当局から新薬の承認を得た。

オンコセルカ症は世界で1億2000万人を超える人々が感染の危機にさらされていた。世界保健機関(WHO)は途上国におけるオンコセルカ症の撲滅運動を始め、メルクはメクチザンの無償供与を発表した。研究部門トップで後に会長兼最高経営責任者(CEO)にまで上り詰めたロイ・バジェロスが決定したが、我々はそれを知らなかった。

「無断で決めるのはおかしい」と手紙を出すと、バジェロスは事後承諾をとりにすぐに日本にやってきた。無償供与の趣旨はいいが、北里研究所が一緒に取り組んでいるのがわかるように発表してほしいと伝えた。しかし、その後も彼らは北里の名を出したがらなかった。

(北里大学特別栄誉教授)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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