大村智(20)エバーメクチン

伊豆の土に新種放線菌

メルクとの産学連携が結実

 

私はメルクと契約する前に、何回か同社を訪ねて微生物を探すグループを見ていた。すると、皆でおしゃべりして笑いながら作業している。あんなにいい加減では駄目だと思ったことがあった。

微生物はみんな「顔」が違う。ただ拾うだけなら、一番大きなコロニーからとってくれば簡単にすむ。しかし本当によい物、新しい物を見つけようと思ったら、色や形などの特徴をしっかりとらえなければならない。メルクの人たちにその気持ちがあるようには思えず、ウチのグループはもっとよい仕事ができるなと感じた。

北里研究所を訪れたメルクのボイド・ウッドラフさんも、猛烈な勢いで微生物を見つけて分類する我々を見て同じ感想をもったようだった。ウッドラフさんは土壌微生物学の大家でノーベル賞学者のセルマン・ワクスマン先生の高弟だ。その彼から、我々が見つけた微生物は非常にバラエティーに富んでいて面白いと言われた。まさに、めざしていた通りの展開になった。

ウッドラフさんは共同研究の項目を増やすため、微生物をメルクに送ることを提案してきた。材料や輸送の費用はもつという。

我々が採取したのは、土壌の表層から10~20センチメートルのところに多くいる放線菌だ。もっと浅いところにはカビ、深い部分には違うタイプの細菌が多くなる。

ウッドラフさんの提案を受けて74年から、メルクに50種類の放線菌株を送った。様々な方法で分離した放線菌の性質や特徴を調べ、有望な菌株を送ることにした。

これらを受け取って実験に取り組んだのが、当時メルクにいて、昨年のノーベル生理学・医学賞を私と一緒に受賞したウィリアム・キャンベルさんたちだ。マウスに線虫を経口で感染させて評価する方法を使った。

我々が送った菌株をメルクが培養して増やし、培養液をエサに混ぜて6日間食べさせる。その後は8日間、普通のエサを与える。2週間たったところで解剖して検査し、小腸にいる線虫の卵と成虫を1つずつ数える大変な仕事だ。

75年になって、送ったうちの1つの菌株に線虫を殺す物質を出すものがあったと連絡が来た。伊東市川奈の土壌から分離した菌株だった。この物質こそが、ノーベル賞の授賞につながった「エバーメクチン」だ。

ただ、最初は問題もあった。この菌株から出る物質は線虫だけでなく、マウスに対する毒性もあるようだったからだ。あらためてデータを調べたところ、オリゴマイシンという別の物質も出しているのが原因とわかった。

エバーメクチンおよび化学構造を少し変えた誘導体「イベルメクチン」の発見はラッキーずくめだった。普通は注射なら効いても口から入れると効果がないなど、投与法によって効いたり効かなかったりする。ところがエバーメクチンとイベルメクチンは注射でも、飲ませても、皮膚に塗っても効果がある。そうした性質をもつこれらの物質に「エンデクトサイド」という呼称がついた。

キャンベルさんは「大村教授と組まなければエバーメクチンは見つからなかった」という。私もメルクと一緒でなければここまでできたか疑問だ。これこそが産学連携の成功例といえる。

(北里大学特別栄誉教授)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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