大村智(18)スクリーニング

薬の種探し逆転の発想

提供は惜しまず苦い思いも

 

私たちの研究室では土を採取し、そこにいる様々な微生物が作る物質を見つけ出す。そのなかから、たとえば高血圧に効く薬や、血管を詰まらせる血栓を溶かす薬になるものを見つける。この作業をスクリーニングという。他人がやらないスクリーニングの方法を考え、逆転の発想も取り入れた。

従来は病原菌の働きを抑えるとか酵素の機能を妨げるといった活性をまず考え、そうした活性を持つ物質を探すのが主流だった。私は順序をひっくり返し、最初に化合物を見つけ、それから性質や活性を調べることもした。他の研究者が後から同じ活性を持つものを探しだしても、我々が先に化学構造を明らかにし特許をとっておけば権利を主張しやすい。

この方法で見つけた代表的な化合物の一つにスタウロスポリンがある。土壌中の放線菌から見つけ、構造まで決定してから活性を調べた。スタウロスポリンは今では世界でもっとも使われている生化学試薬の一つだ。生化学や分子生物学の研究者で知らない人は恐らくいないだろう。

スタウロスポリンはたんぱく質のリン酸化という、細胞内の極めて重要な反応に不可欠な酵素の働きを妨げる。これをもとに欧米の製薬企業が開発研究を進め、がん細胞の増殖に関わるチロシンキナーゼという酵素を阻害する新しい白血病治療薬「グリーベック」が生まれた。効果が高く副作用が起きにくい分子標的薬として有名になった。

動物細胞を使って新しい物質を探す方法も取り入れた。マウスの神経芽細胞腫、つまり神経のがん細胞を使って見つけた物質は思い出深い。神経突起の成長を促す物質を探していて、ラクタシスチンという生理活性物質に行き当たった。詳しく調べてもらうために米ハーバード大学の研究グループに送ると、プロテアソームという酵素の働きを妨げる働きがあった。

1990年のノーベル化学賞受賞者、ハーバード大のイライアス・コーリー先生はラクタシスチンの合成に成功し、活性をもつ本体を「オームラライド」と名付けてくれた。化合物に人の名前を付けるのは珍しく、光栄に思う。

私自身の研究ではないが、プロテアソームはがん細胞の消滅を促すたんぱく質を分解してしまう。その働きを阻害するラクタシスチンのような物質は抗がん剤として使える可能性があり、実際に多発性骨髄腫などの薬が生まれるきっかけになった。

私は見つけた化合物をいろいろな分野の研究者にできるだけ多く提供するが、アイデアをとられたこともある。ノーベル賞級の研究者にも、苦い思いをさせられたことがある。論文を読み、私が持っている化合物を使えばすぐに証明できると思ったので著者に手紙で知らせた。面白いから共同研究しようと返事が来たため、サンプルを送った。

再度要求もあり追加でサンプルを送ってあったのに、最終的な論文には私の名前はなかった。抗議の手紙を出すと「知らなかった」と素っ気ない返事が来た。モラルが欠如したこのたぐいの話はいくつもあり、いつかエッセー集にしようとファイルにまとめてある。もっとも、若いうちはカッカしていたが、最近は自分が認められるようになったからこそこうしたことが起きるのだとも思う。

(北里大学特別栄誉教授)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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