大村智(1)ノーベル賞

「一期一会」積み重ね結実

連日の式典、もてなしに感銘

 

昨年、ノーベル生理学・医学賞を受賞してから私の生活は一変した。手帳は随分先まで講演会の予定でびっしりだ。毎回できるだけわかりやすい図や写真のスライドを準備し、内容も変える。

12月に、授賞式出席などのためにストックホルムで1週間を過ごした。一番重要だったのは研究内容について講演した、7日のノーベル・レクチャーだ。仮に私の英語が理解されなくてもスライドだけでわかるよう工夫し、約30分の持ち時間で32枚を使った。中身や順番の入れ替えなど、19回ほど練り直した。

普段の講演は1時間くらいで2回ほどジョークを入れるが、ノーベルレクチャーはまじめ一本で通した。こだわったのはポリシー、つまり研究にのぞむ自分の考え方と、カルチャーの話を入れることだ。日本の茶の湯のスライドを映し、「一期一会」という言葉を紹介した。

ノーベル賞を受賞できたのも人との出会いを大切にしたからで、この言葉には特に強い思い入れがある。出会いを感じない人、出会っても生かさない人もいるが、袖振り合う縁も生かすというのが成功のもとだ。

授賞式が開かれた10日夜のノーベル・バンケット(晩さん会)では国王の姉のクリスティーナ王女、首相夫人に挟まれた席だった。話すテーマをあらかじめ考えておいたので、楽しく過ごせた。クリスティーナさんからはスカンジナビア半島の歴史や、ご自身が役員をされている認知症関連の財団の活動について伺った。

このバンケットで見ものだったのは、1000人以上の招待客に一斉に料理を運ぶ多数のウエートレスの動きだ。指揮者のような人が少し高いところに立っており、合図するとサッと料理が運ばれる。

翌11日に王室が主催したロイヤル・バンケットでは、王が猟で仕留めた鹿が振る舞われた。これこそが本当のもてなしだと感じた。

私の席はシルビア王妃と、女優のように美しいマデレーン王女の間になった。ブラジル人のお母さんをもつシルビア王妃は「ブラジルの桃は小さかったが日本からの移民が作るようになると大きくなった。勤勉で素晴らしい」とジェスチャーを交えて話してくれた。これこそが日本の農業の強みではないかと思いながら聞いた。

海外に出かけると、必ず歴史的な場所を訪れるようにしている。ストックホルムでは帰国前、市内から空港に向かう高速道路の脇にあるアルフレッド・ノーベルの墓にお参りし、「ありがとうございました」とお礼を言った。

私がノーベル賞を取るかもしれないと、周囲が言い始めたのは2004年頃だっただろうか。あり得ないと思っていたが、実は1970年代に薬学の先輩の故・野口照久先生に「ストックホルムへの道を歩め」と言われたことがある。今回、ストックホルムの空港に降りた瞬間にその言葉を思い出し、感慨深かった。

野口先生は「創薬」という言葉を日本で初めて使った人だ。私を買ってくれ、自分の研究所に来ないかと誘われた。北里研究所で自分の研究室を持っており部下もいるからだめだと断ると、「全部一緒に連れてきたらよい」と言ってくれたのを思い出す。さすがにそれはできなかったが。

多くの「一期一会」を振り返りつつ筆を進めたい。

(北里大学特別栄誉教授)

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