福澤武(29)独立自尊

守る 変える
貫いた信念

社長職は丸ビル開業の1年前に退いていた。「どうして丸ビル開業を花道にしないのか」という声もあったが、後任の候補は考えていた。会社の経営も落ち着いていて、バトンタッチにちょうどいい。それに、丸ビル開業のときの社長なら、世間の注目も集める。丸ビルは次期社長への贈り物だった。

その後も丸の内は東京、そして日本を代表するビジネスセンターとして成長し続けている。一方、アジアの都市も台頭している。

人材は魅力的な街に集まる。丸の内は変わり続けなければならない。

曽祖父の諭吉は「一身にして二生を経る」と述べている。明治維新の前と後、まるで違う2つの時代を生きたという意味である。83年間の我が人生を振り返れば、3つの時代を生きた。戦前と戦後、そして戦後のアンシャン・レジーム(旧体制)が終わったと考える1997年以降である。いわば「一身にして三生を経る」体験をしたが、時代が移り変わっても忘れてはならないことがある。

守るべきものは守り、変えるべきものは変えることである。私自身、経営者として口癖のように繰り返してきた。

丸ビルの建て替えで初めて指名入札を導入したときは、建設業界に恨まれたと思う。それでも勇気をもって見直した。「変えることが道理にかなう」と考えたからである。

ならば、何を守り、次の世代に引き継ぐべきか。一つは、長きにわたって社会に貢献し続ける老舗の精神だと思う。

2009年の9月4日、「Spirits of SHINISE 協会」という団体を立ち上げた。前年のリーマン・ショックが示したように「カネのためのカネもうけ」を追い求めていては、企業社会は長続きしない。老舗の精神を研究しようと、今は50社ほどのメンバーとともに侃々諤々の議論を続けている。

老舗の理念や歴史に共通するのは、まずはお客様に良い物、良いサービスの提供を目指すことである。それを実現するために、従業員を大切にして従業員の価値を高める。そのうえで生まれた利益から株主配当を出していく。それこそ老舗の精神である。

我々の歴史は革新のヒントも教えてくれる。丸ビルは、法隆寺の五重塔の芯柱から着想を得た「耐震シャフト」を使っている。昔の知恵を取り入れ、大地震にも耐えられる構造になっている。学ぶべきことはたくさんある。

次の世代が良い社会をつくるには、まずは企業が健全にならなければならない。企業は社会の公器だからだ。日本企業は「企業戦士」や「モーレツ」を求めてきたが、一方で精神的な豊かさを置き去りにしてきたのではないか。それが社会のゆがみにつながったのではないか。

生きがいを持って毎日を過ごすには家庭が健全であることも大切だ。良い家庭づくりに努めるのは社会人の責務である。

ずっと寝たきりで、一族の落ちこぼれと思われたこともあったが、多くの人に支えられて今日まで来れた。特に、私が生きてこれたのは母のおかげであり、働いてこれたのは妻の支えがあったからだ。

本当に感謝している。そんな人たちに囲まれて、私の独立自尊がここにある。

(三菱地所名誉顧問)

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