葛西敬之(30)感謝とこれから

妻の存在、人生を支える
高速鉄道海外へ今後も疾走

振り返れば、私の鉄道人生は、常に新幹線とともにあったといえる。1995年から社長を、2004年からは会長を務めたが、東海道新幹線が開業50周年を迎えた14年に名誉会長となり、国内の事業は後輩たちに委ねた。現在は、培ってきたヒューマンネットワークや経験を生かし、高速鉄道の海外展開に取り組んでいる。

日本型高速鉄道システムの特色は、平面交差を排除した専用軌道と、自動列車制御装置(ATC)が作り出す「クラッシュ・アボイダンス(衝突回避)」原則にある。

海外展開により、このシステムが国際標準になれば、関連の製造業の市場が広がり、その足腰が強くなる。結果として高品質の資機材を安定的に調達でき、東海道新幹線の安全・安定性が確保される。

JR東海は、高速鉄道システムの技術とノウハウを提供し、運行・保守の指導を担う。この過程で技術者の国際性や自信が養われる。海外でのプレゼンスの向上は、優秀な人材を将来にわたり確保する意味でも有効である。

現在、米国のダラス―ヒューストン間(約400キロメートル)においては東海道新幹線N700系の導入が検討されている。民間主導の計画で、その事業主体が15年7月に当面必要な資金を調達するなど、着実に前進しつつある。

同じく米国では、東海岸のワシントンDC―ニューヨーク間への超電導リニアの導入を働きかけている。米国の大地をニッポンの高速鉄道が疾走するのも、夢ではないように思う。

私の鉄道人生は変化の連続で、その都度「この時しかなかった」という天の時と、「この人なしには」という人の縁に助けられてここまで来た。その中で終始一貫して家を守り、後顧の憂いを除いてくれたのが妻である。

子供たちのこと、家事家計はもちろん、両親への孝養も全て妻に任せきりだった。職場での閉塞感や切迫感を家では一切口にしたことがない。話せば気力が抜ける。だから日々詳細なメモを書き続けて闘志を温めたのである。

一度だけ「国鉄を辞めたら、塾の先生にでもなるか」と冗談めかして言ったことがあった。そのあと、妻は子供たちが通っていた近所の学習塾に行き、創立者で塾長の永瀬昭幸氏に「主人が国鉄を辞めたら塾の先生に雇ってくれますか」と尋ね、「いいですよ」という返事をもらったそうである。

妻は空気を感じ取り、何かせずにはいられなかったのだ。「その時には校長先生をお願いしようと思っていました」。後に永瀬氏ご本人から伺った。校長先生にはならなかったが、永瀬氏には、現在海陽学園を随分応援していただいている。

これまで妻には全て「以心伝心」で済ませて来た。しかし、今回私の履歴を語る以上、そのほとんどの期間を共に歩いて来た妻の支えに触れずに終える訳にはいかない。そう思い「妻への感謝」を表明して稿を終えることにした次第である。

2人が出会い、育んできた家族は、子供たち夫婦6人と孫5人の合わせて13人になった。ありがとう。心から感謝している。

(JR東海名誉会長)

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