浅丘ルリ子(8)結ばれぬ恋

「お嫁にください」父拒絶
旭さんとの関係は自然消滅

小林旭さんとの恋愛はますます燃え上がってゆく。

でも映画の中ではなぜか2人が結ばれることはなかった。互いに強い恋心を抱いているのに最後は必ず別れてしまうのだ。実は日活の堀久作社長から社内にこんな厳命が下っていた。

「裕次郎には恋をさせろ」

「旭には恋をさせるな」

たとえば石原裕次郎さんには恋人役の北原三枝さんとの大胆なラブシーンがあったりする。でも旭さんと私はすれ違いばかり。馬や船で旅立つ旭さんを私が見送る場面で寂しく終わる。これには旭さんもかなり腹を立てていた。

「ぶう、おかしいよな。裕次郎や赤木圭一郎とは抱き合ったり、キスしたり、ベタベタしてるのにさ。なんで俺のときはなにもないんだよ!」

嫉妬の嵐だった。旭さんも裕ちゃんも赤木さんも日活を背負う看板スター。強いライバル意識があったのだろう。若かったから仕方がない。

ついにこんな事件が起きてしまった。ある日、撮影所の控室でばったり旭さんに出会った。そのとき私は胸が大胆に開いたスパンコールのドレスを着ていた。映画の衣装だ。すると旭さんが突然、血相を変えてそのドレスを無理やりはぎ取ろうとしたのだ。

「ひどいわ、旭。なんてことするの。やめてよ!」

私になじられて旭さんはハッと我に返ったようだ。自分の恋人にセクシーな衣装を着せられてつい頭に血が上ってしまったのだろう。でも私への愛情の強さも分かっていたので、それ以上、旭さんを責める気にはなれなかった。

後日談だが、旭さんから衝撃的な事実を知らされた。

実は父に「信子さんをお嫁にください」と直訴したことがあるというのだ。共演していた「渡り鳥」シリーズが徐々に終わりかけたころ。62年前後のことだったそうだ。

「残念ながら、うちの娘はまだ嫁にはやれません」

父ははっきり拒否したという。私は22歳で女優としてはまだ成長途中。身を固めるのには時期尚早と考えたのだろう。私の将来を考えたうえでの父の判断だった。でもそのことが旭さんの心を深く傷付けてしまったみたい。

「もし旭さんと結婚していたらどうなったかしら?」

今でも考えることがある。

それもひとつの人生だろう。でも旭さんは「結婚したら女性は家庭を守るもの」という封建的な考え方。今の女優としての人生はおそらくなかった。そう考えると、旭さんとは結婚しなくてやはり良かったんだと思っている。

父に求婚を拒絶されたことが影響したのだろうか。私と旭さんとの関係は徐々に疎遠になっていく。旭さんが美空ひばりさんと急速に仲良くなるのはその後のことだ。

ひばりさんがお弁当を差し入れているのを見ていたので「へえ、2人は付き合っているんだ」とうすうす感付いていた。だから私とは自然消滅。ひばりさんが私から無理やり旭さんを奪ったわけではない。

「北帰行より渡り鳥北へ帰る」は私が「渡り鳥」シリーズに出演した最後の作品。格別の思いが残っている。

「この街に来てくださるわね。お約束してくださる」

「します……。必ず」

函館港。汽笛が鳴り響き、船に乗り込んだ旭さんを悲しげに見送るラストシーン。見返すたびに自然と涙がこぼれてくる。だって、2人の心も本当に離れていった象徴的な場面だったから。

(女優)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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