松本紘(29)感謝と貢献

人間関係が最大の財産
未来つくる仕事これからも

先日、長男の英器を連れ、妻の倫子と一緒に大和郡山城に行ってきた。ツツジが美しく、英器が笑顔になったのがうれしく、楽しい休日になった。大和郡山市内のあちこちも巡ってみたが、昔住んだ家々は今は跡形もない。

京都大教授を退任する際、生存圏研究所の後輩らが記念誌を作製してくれた。100人近い人が思い出話を寄稿し、343の論文や492の国際学会発表、100の国際シンポジウム発表、多数の国内発表をまとめてある。退任前後にはロシア宇宙航行学協会のガガーリン・メダル、日本人では初となる国際電波科学連合(URSI)のブッカー賞を授与された。受賞は研究業績だけでなく、私の人間関係の産物だと思っている。

総長になった時、スケジュールの多さに驚いた。細かなものまで入れると年間4千件ほどあっただろうか。そのすべてを調整し、私の負担を減らす「前さばき」をしてくれた梶佐知子秘書室長、秘書の川又知己、川本順子さんの能力には舌を巻いた。京都大は普段はあまり表に出ない優秀な職員にも支えられている。

激務の総長在任中、理事、理事補、部局長、経営協議会の方々、健康管理をしていただいた方々に本当にお世話になった。半生を振り返ると、陰に陽に、いかに多くの人に支えられてきたかと思う。皆様には感謝するしかない。

関東にいる門下生から、東京で私との会合を開きたいという申し出があり、広く人のつながりをつくる機会になればと考え、「綾の会」という名で開催している。私が会長を務め、もう25年続いている。参加者が知人を連れてくるので数珠つなぎでメンバーが増え、リストには約千人が載っている。今や門下生は4分の1くらいで、多彩な人が集まる会になった。ほかに松紘会や松八会といった集まりも作っていただいている。

門下生が私の交友関係を分類して、恩師・先輩界、URSI界などの名を付け、顔写真を入れた曼荼羅を作製してくれた。この多様な人間曼荼羅が私の最大の財産だ。今後ここに「理研界」の人間関係が加わるのが楽しみである。

理研に着任し、この組織が世界の最先端の研究をしていると再認識した。最新で規模の大きい設備や機器があり、大学ではできないレベルの仕事をしている。手前味噌だが「国家の貴重な財産」と思う。さらに発展するように育てたいという気持ちが強まった。

2年後に創立百年を迎える理研は近年、生命科学に力を入れている。生命には謎が多い。今後はこれまでの科学の限界を超えた研究、社会に還元できるイノベーションにつながる研究をしていかねばならないと考えている。

宇宙を研究し、人間とは何か、どこに行くのかという根源的な問いに向き合うと、科学の側が思想や宗教に近づいていくような気がする。資源の浪費や環境悪化などに歯止めをかけ、人類が生存していくには欲望抑止の哲学が必要になる。自然との調和を大切にしてきた日本が世界に貢献できることは多いと考えている。私があこがれる空海が現代にいれば、何を考え、何をするだろうか。

私はかねて「未来は予測するものではなく、つくるもの」と言ってきた。その仕事をできる限りしていきたい。

(理化学研究所理事長)

=おわり

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