松本紘(28)四のガクリョク

対話で道開く「顎力」を
科研費維持、財務相に直談判

ものおじしない性格で、誰とでも上下関係をあまり意識せずに率直に話をし、形式ばらない行動をとってきた。親しみやすく面白い人と言われることもあれば、煙たがられることもある。自分でも分からないうちに目立ち、交渉事ではタフな相手とみられてきたようだ。

文部科学省には予算要望などで助教授の頃から出入りしていた。随分前のことだが、ロケットや衛星などの実験の関係で要望に出向いた際、後に文科相も務めた遠山敦子さんから「あなたがあの松本さんですか」と言われ、面食らったことがある。予算獲得は大林辰蔵先生が各方面に働きかけていたが、私もあちこち動き回って必要性を強調していた。その言動が省内で噂になっていたようだ。

京都大宇治キャンパスにある研究所やセンターが共通の課題などを話し合う会議では、規模の小さな私の組織が理不尽な不利益を被らないよう頑張った。後日、ある研究所の所長に就任した仲のいい研究者から「うちには松本さんは論破力があるので注意するように、という申し送り事項があったよ」と笑われた。

これまで「長」と呼ばれる役職に多く就いてきたが、自分が動いた方がいいと判断した時は積極的に動いてきた。時には「アポなし」で訪問し、直談判することもあった。みこしに乗って黙って見ているのは性に合わないのだ。

2013年6月、国立大学協会の会長に就任した。理事になった他大学の学長らと国会議員会館へ出向き、議員の方々にあいさつした。教育研究政策を決める議員には様々な課題を十分理解していただかねばならない。要望を文書で出すだけでなく、直接会って話すことで熱意を伝えられる。こういう行動は苦手な人が多いが、私は平気だった。

科研費を100億円減らす話が持ち上がった際には文教政策に詳しい国会議員を回った。最後は財務相に要望するしかないと思い、財務省に急行した。「5分でいいから」とお願いし、外出しようとしていた麻生太郎財務相に科研費の重要性を力説した。科学研究に対する予算は国の将来への投資ともいえる。5分が15分くらいに延びたが、最終的に「わかった」と言っていただき、削減はなしになった。

形式より実質、論だけでなく行動も重視、何事も迅速に、が私の信条だ。組織を把握するには自ら動いて多くの人と対話をするしかない。理化学研究所でも理事長就任後、1カ月余りで全国にある理研の16のセンターのほとんどを回り、研究者らの意見を聞いた。帰る際のあいさつから「おおきに理事長」と呼ばれているらしいが、意思疎通ができて、親近感を持ってもらえるのはうれしいことだ。

議論が低調で長引くだけの会議は嫌いなので、意見が出ない時は指名する。そうそうたる学者が集まる国大協の総会も発言が少ないので、どんどん指名した。意見がいくつか出ると、化学反応が起きたように議論が活発になった。

日本人はもっと議論、対話のコミュニケーション能力を高めるべきだと考えている。私はこれを顎の力・顎力と呼び、学力、額力(前頭葉の力、人の気持ちを感じ取り思いやる能力)、楽力(何事も楽しめる能力)と合わせ、「人間の力は四つのガクリョクからなる」と言ってきた。社会で成功する人はこの四ガクの力が優れているように思う。

(理化学研究所理事長)

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