松本紘(18)夢へのステップ

模型飛行機へ無線送電
宇宙太陽光発電の要を実証

宇宙太陽光発電(SPS)で重要なのは発電したエネルギーを電波に変えて遠くに送る無線送電技術である。ロケット実験によってマイクロ波は地上3万6千キロの静止衛星軌道上からでもあまり減衰せずに届くことがわかった。一般には知られていない無線送電への理解を広げようと、この技術で模型飛行機を飛ばす実験をした。

模型飛行機に地上からマイクロ波を送り、電流に換えて推進力にする。予算がなかったので関心のある企業に声をかけ、アイデアや機器を提供する形で参加してもらった。

実験は1992年、神奈川県横須賀市の日産自動車追浜試験場で行った。テストコースを走る自動車に搭載した送電機からマイクロ波を発信すると、飛行機が急上昇した。

実験指揮者の私はこのとき、職人芸を目の当たりにした。無線送電は真下からする必要がある。3台用意した車の1台はドライバーが真上の飛行機だけを見て走った。「コースを熟知しているので前を見なくても大丈夫」とのことだった。もう1台はその車を追走しマイクロ波を送る。残りの1台には模型飛行機の操縦技術日本一という名人に乗ってもらい、操縦を任せた。

多くの人を巻き込んだ実験だったため、万一失敗したら頭を丸める覚悟だった。幸い無事成功し、ホッとした。

その後も地上での無線送電やロケットを使った実験を継続し、電気自動車が駐車中に無線充電できるモデルも完成させた。実績が評価され、宇治キャンパスにはマイクロ波エネルギー伝送実験装置が整備され、専用の研究棟もできた。外壁が味気ないので芸術家の瀧川みづほさんに人類の過去から宇宙に踏み出す未来までを表現する絵をほぼボランティアで描いてもらった。

SPSで日本は世界のトップを走っている。京都大だけでなく、他の大学や研究機関、企業が共同研究などで課題に挑戦している。宇宙科学研究所では2007年に亡くなった長友信人さんが研究会を設けて引っ張っていた。宇宙工学の視点で私たちの実験に参加され、斬新なアイデアを出された。宇宙航空研究開発機構のセンター長だった森雅裕さんとは共同研究をし実現に向けた課題を話し合った。

SPSは天候に左右されず、地上よりはるかに多くの太陽エネルギーを活用できる。ロケットを打ち上げられる大国の関心は高い。発電効率を上げ、重量のあるプラントを宇宙まで運ぶコストを減らせれば実用化に近づく。

学生時代から私の研究室で学んでいた篠原真毅・京都大教授はこの分野の若手リーダーの一人だ。以前、「君たちの次、君の弟子の時代に実現できるプロジェクトかもしれない」と話したことがある。

飛行機やロケットの技術革新の歴史を振り返ると、約12年で大きな変革が起きている。夢物語とされた技術開発は、あきらめずに挑戦を続けた人たちの熱意で実現してきた。橋本弘蔵・京都大名誉教授らが奔走して昨年10月、宇宙太陽発電学会が設立され、私が会長に就任した。SPSも次のステップが近いかもしれない。

政府が今年1月に改訂した2024年度までの宇宙基本計画にSPSの推進が明記された。また、最近、マイクロ波で遠隔地へ電力を送る無線送電の実証試験に成功したという発表が立て続けにあった。今後社会の関心がさらに高まることを期待している。

(理化学研究所理事長)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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