川村隆(22)100日プラン

5子会社の全株式取得
無駄省き収益・財務体質改善

日立製作所の会長兼社長に就任した2009年の大型連休明けに本社に所属する女性社員からメールをもらった。「日立製作所は2度の石油危機を乗り越え、不沈艦と呼ばれましたが、今は『沈みゆく巨艦』と言われます、何より哀しいのは、私たちがその呼び名に慣れてしまったことです」と書かれていた。

このメールほど当時の社内のムードを映し出したものはない。これで思い出したのは英国軍艦の話だ。軍艦は特に手を打たなければ毎年1センチずつ喫水が下がり、速度が遅くなって、使いものにならなくなるという。船体の経年変化や貝殻の付着のせいではなく、原因は人だ。乗組員が自室にこっそり本や服など私物を持ち込み、それが積もり積もって船が重くなり、水中に沈み込むのだ。

日立という巨艦も同じ。すいすい動いている間はみんな油断して小さなムダや非効率を積み重ねる。そしてふと気がつくと、会社が重くなり、しがらみやその他で身動きがとれなくなっているのだ。

自分たちは前と同じように仕事しているのに、うまくいかない。危機感はあるが、何をしていいか分からない。そんな焦りと無力感の入り交じったメールを読んで、「ありがとう。いつまでとは言えないが、だんだん立ち直っていくから見ていなさい。月次決算を見ていれば分かる。必ずよくなる」と返事するのが精いっぱいだった。

こんな沈滞ムードを吹き飛ばすためにも、改革を急いで、日立という船を前に動かさないといけない。私たち経営陣は「100日プラン」に着手した。近づける事業と遠ざける事業の選別や公募増資、日立本体の各事業のもたれ合い体質の改革、そして次世代事業を社内外に示すことなど「やるべきことリスト」を、4月から100日でまとめ、実行に移し始めたのだ。

最初の大仕事は、日立情報システムズなど上場していた5子会社に株式公開買い付けを実施し、完全子会社化したことだ。これは「近づける事業」というテーマに相当する。この計画を発表した7月28日は私が会長兼社長に就任して119日目だった。

日立は上場子会社が多く、それぞれが一定の自主権を持って経営しているので、事業の重複による非効率が目立った。日立の立場からすれば、子会社の全株式を保有し、彼らの利益を社内にとどめ置くことができれば、収益力や財務体質が改善する。

そうと頭では分かっていても、やはり平時は思い切った手が打てない。以前から議論はあったが、子会社側が「自主独立で経営しているからこそ会社が大きくなった」「上場していないと採用に影響が出る」などと主張し、改革は頓挫していた。だが、危機は改革の好機でもある。私自身が子会社のトップと面談し、時には強引に彼らを説き伏せた。

年の功というべきか、子会社のトップより私のほうが年長であることも、幸いした。本体の社長が子会社の社長より若い場合、改革は進みにくいが、その逆は比較的スムーズに運ぶのが日本流年功序列組織のミソである。この計画の発表直後に日経新聞は「頑張れ!日立製作所」という記事を掲載した。メディアからたたかれっぱなしだった日立の社員にとって、久々に聞く応援歌であった。

(日立製作所相談役)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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