井深大(15)ビデオレコーダー

補助金受けられず断念した「世界初」

日本で最初のテープレコーダーを仕上げて商売にのせ、ほっと一息ついたのは、昭和27年ごろで、ちょうど日本のテレビ放送が産声を上げたときである。声を録音できるのだから、テレビが録画できないこともあるまいというのが、技術部の皆の考えだった。当社の新しい物の大部分を試作し成功させて、当社の基礎を築くのにたいへん功績のあった木原君が、それでは一つやってみましょうと、とりかかったのが昭和28年の夏である。

木原君というのはたいへん器用で、頭のきれる人で、こちらから考えを一通り述べると翌日はもっとよい考えのものが手づくりでできあがっているという神様のような人である。戦争後、早稲田の専門部でちょっと私が教えた関係で引っ張って来たのだが、当社の磁気テープ、録音機の初期のころの試作全部、日本での最初のステレオ・レコーダー、トランジスターラジオの第1号機、トランジスター化テレビ第1号機、日本でのビデオレコーダー(録像機)第1号機、同じくトランジスター化した小型機等々も全部同君が手がけたものであった。

まず音声用のテープの速度をだんだん上げて、ついに秒速4メートル近くまでにした。これはなかなかたいへんなことだった。そこで音声の録音と同じ手法をつかって500キロサイクルぐらいの波まで録音できるようになり、やっとポヤッとした画像が出るところまでできあがった。

しかし、これでは普通30分ぐらい録音できるl巻のテープが40秒ばかりでなくなってしまう。このままでは不便なので現在用いられているような録音ヘッドを回転させる方式やその他のいろいろな方式を研究していた。

この問題で通産省の鉱工業技術試験研究補助金の交付を申請したが、残念ながら採択されず、またその他種々の理由もあってこの研究を中断してしまった。それを続けてやっていたら、VTR(ビデオレコーダー)も世界で最初の物が出せていたかもしれなかった。昭和33年に、米国アンペックス社がVTRの商品を発表したので当社もあわてて同じようなものをこしらえたら、数カ月でできてしまった。これはまえに述べた「完成したということを聞くだけで同じようなものができる」という好例である。

脅迫まがいで初めてのステレオ放送実現

続いてこれを全部トランジスター化し、しだいに小型化して今日では真空管式テレビセットよりもずっと小さくなっている。まだまだ家庭用というのにはほど遠いが、やがてどこの家庭でもカラー用VTRを置いて好きなテレビ番組を記録し、庭で振るゴルフスイングをその場で再生して見る時代もそんな先のことではあるまい。

話はまただいぶさかのぼるけれど、今日流行しているステレオの日本でのきっかけをつくったのは私である。ステレオというのは2つのマイクロホンを並べて置いて、そのおのおのの音を別々に録音して、別々に再生させる2チャンネルの録音再生方式で、ちょうど人聞が2つの耳で立体的によい音を聞いているのと同じ理屈である。

私は昭和27年、米国でテープ式のステレオを聞いてその音のよいのにすっかりどぎもを抜かれ、帰ってきて高級なテープレコーダーを改造して、1本のテープに左右わずかに異なった2つの音がはいるようにしてこれを別々の増幅器を使って、別々のスピーカーから出せるようにした。

この音を聞いた人はだれもがその音の現実感に驚いた。このままではもったいない。そこで当時級友でNHKの施設局長をしていた村瀬一雄君(故人)のところへ行って、ひとつ第1放送と第2放送の波を使ってステレオ放送をやってくれ、もしNHKが取り上げてくれなければ民放2社を使って日本最初の立体放送をやる。もうスポンサーもちゃんと決めて朝日麦酒の山本為三郎さんにお願いしてあるのだと脅迫して、だいぶ無理をして夜中の1時過ぎに日本では最初、世界でも珍しい立体放送の波を私どものこしらえた録音機とテープを使って出した。

夜中の1時の放送にもかかわらず感激的な投書が全国から60通も来て、ついにNHKも立体放送を定期的にやるまでに踏み切った。その後レコードのステレオができ、このプームを招来したが、FMではステレオ放送があたりまえになろうという今日、感慨無量なものがある。

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Bubbles of river disappear rapidly.

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