フィリップ・コトラー(25)コンサルティング

真剣勝負の疑似討論
「聞く耳を持つ大切さ」示す

マーケティングの教授をしていると、いろいろな企業からコンサルティングの仕事が舞い込んでくる。研究に役立つだけでなく、収入面でもプラスになるので引き受けることも多かった。バンク・オブ・アメリカ、フォード、ユニ・リーバ、アップル、IBM、ゼネラル・モーターズ(GM)などのコンサルティングを経験してきた。

取締役就任を依頼されたこともある。何社か引き受けたが、一般的に取締役会ではあまり興味の持てない議論に延々と付き合わされることも多かった。報酬や特典をもらって満足している「名ばかり取締役会」も散見された。他の取締役が経営陣の監督責任を果たさなかった場合、連帯責任を負わされることも自分としては気がかりだった。

一方、経営陣から独立性が高く、自らの責任を真剣に受け止め、鋭い質問や提案をする取締役会もあった。私が経験した最高の取締役会はIBMのものだ。社長のジョン・エイカーズから「どうやって顧客中心主義を植え付けることができるのか」と相談され、彼の誘いで13人の取締役が参加する2日間の会議を傍聴することになった。1990年前後のことだ。

会議は3部構成になっていて第1部は主要顧客3社の幹部を招き、IBMへの満足度を聞いた。第2部は社内の支店長から本社の指示をどう思っているかを聞いた。そして第3部はIBMの社員を主要な競合相手に見立てて、どのような戦略でIBMを攻撃してくるのかを語らせた。

第1、2部では現場の実情がトップまで伝わってこないことがよくわかった。エイカーズは直ちに対応策を採ることを約束した。

とりわけすばらしかったのが第3部だ。競合相手を急成長中のサン・マイクロシステムズとした。まだ同社が創業して約10年しかたっていない時代だったが、エイカーズには脅威に映っていたのだろう。サンからIBMへ転職してきた社員にサンのスコット・G・マクネリー最高経営責任者(CEO)の役をさせた。

この疑似マクネリーはなかなかの役者で取締役会の面々に厳しいまなざしを向け、開口一番、こう言い放った。「サンの目標はIBMを潰すことだ!」。そしてIBMの弱みについては「コンピューターの未来はネットワークにあるにもかかわらず、IBMは製品を改良することしか考えていない」と畳みかけた。

言われたほうの取締役会メンバーも反論する。研究開発(R&D)の責任者は「IBMに最大の利益をもたらすのはネットワークではなく製品だ」。疑似とはいえ、真剣勝負だった。しかし、この責任者の見方は完全に誤っていた。その後、ルイス・ガースナーが新CEOとなり「IBMの未来はネットワークにある」と宣言したのはこの疑似討論の数年後のことだった。

IBMの会議と正反対のことをしていたのがGMだったのではないだろうか。IBMの会議より数年前だと思うがロス・ペローが取締役会に加わり、経営陣を厳しく叱責した。モノを言おうものなら辞任を求めた。自分のアタマだけで考える取締役会にしてしまったのだ。それはまるで「自らの役割は巨像に踊り方を教えること」だと考えていたのだろう。謙虚に聞く耳を持たない組織は衰退する。IBMの3つの議論は今でも立派に通用するはずだ。

(マーケティング学者)

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