フィリップ・コトラー(21)日本の思い出

「お客様に学ぶ」商人道
手の込んだ冗談も忘れられず

日本への旅はいつも興味深く、刺激に満ちたものばかりだ。そのきっかけを作ってくれたのがファーディナンド・マウザーだ。彼はミシガン州にあるウェイン州立大学でマーケティングを教え、優秀な学生を数多く私のいるノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に推薦してくれたことから親交を深めていった。

その彼が1970年ごろに日本に移り住み、慶応大学商学部や大学院で教壇に立っていた。地球の持続可能性を維持する高次な価値観や善というものを真剣に考え、学生に対して自然に敬意を抱くよう説いていたという。日本で生活する中でこうした考えを身につけたもので、マーケティングを幅広い分野で考察する姿勢は日本の教授や学生に大きな影響を与えた。

彼は来日して20年ほどしてモデル兼俳優になるという驚くべき転身を遂げた。学究の世界から離れたが彼との文通から日本的視点を学べた。

初来日した70年代後半に彼から「すばらしい人がいるから」と言って引き合わせてくれたのが伊藤雅俊さん(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)だった。皆さんには伊藤さんのことを説明する必要はないだろう。伊藤さんの「お客様に学ぶ」という姿勢、商人道はまさに顧客主義のマーケティングの実践者だ。私もメモ魔だが彼もいつもメモを取る勉強家でもある。

ケロッグ校にはこれまでに多くの日本人を迎え入れ、日本だけでなく世界で活躍する人材を輩出していることを誇りに思っている。YKK会長の吉田忠裕氏、エーザイ社長の内藤晴夫氏、伊藤氏とも親交のあるコンサルタントの柴田光廣氏、日産自動車で初の女性執行役員である星野朝子氏、社会起業家の鈴木慶太氏(カイエン社長)ら約600人いる。6月に来日した際に旧交を温め合った。

日本では卒業生の親睦組織「ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン」(会長は加治慶光・内閣参事官)がある。卒業生だけでなく、ケロッグ校への留学を考えている人向けの情報提供、一般の人を対象としたイベントなども手掛けている。関心があれば「ケロッグ同窓会」で検索してみてほしい。

さて、日本での経験として忘れられない出来事がある。何度目かの来日の際に講演で訪れたある都市での話だ。主催者が私のための夕食会に2人の特別なゲストを呼んでくれていた。この2人のことは鮮明に覚えている。

一人は日本国宝の刀工で、私が刀の鍔の収集家であることを知っていて作品を持参してくれた。じっくり鑑賞することができてうれしかった。

もう一人は隣に座った飛び抜けた美人。私が彼女にまじめな会話をするのを見て同席者は忍び笑いをしていた。一方、彼女はといえば、笑顔を絶やさず、私の難しい話にも相づちを打ってくれていた。

彼女をここに呼んだ男性が「この女性をどう思われますか」と聞いてきた。不思議なことを聞くものだなと答えに窮していると彼から思いもかけぬ言葉が飛び出した。

「先生、実は彼女は女性ではありません」。ますます頭が混乱した。話を聞くと日本ではおなじみの女装芸能人だという。得難い体験をもたらした主催者のユーモアのセンスに感心した。この“麗人”の名は皆さんの想像にお任せする。

(マーケティング学者)

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