フィリップ・コトラー(20)趣味

根付・鍔日本の美堪能
内に秘めた物語と共に収集

今から42年前のある日、11歳になった娘のエイミーを連れてハーバード広場を散策していると、一軒の骨董店が目に留まった。2人で店をのぞき込み、足を踏み入れた。彼女はそこで象牙に彫られた小さな猿を見つけ、気に入ったようだった。店主に聞くと70ドルだという。彼女に買ってあげた細工物の「根付」が、私の日本文化への理解と愛情を深めるのに役に立ち、熱心な収集家になるとは夢にも思っていなかった。

日本の若い世代は根付について知らないようなので、学校などで時々こんな話をする。江戸時代まで日本人は着物と帯の生活だったためポケットがなかった。財布や薬の入れ物(印籠)にヒモを付け、帯に挟んでおく留め具が根付だ。材料は象牙や鯨の髭で、日本になじみのある動物、昆虫、想像上の生き物の図柄が彫ってある。裕福な地主は根付師に好みの図柄を彫らせ、茶会などの会合で見せ合った。

その魅力は小さな細工物に込められた独創性、美しさ、機能性、技巧、生命力、触り心地、年代、来歴、テーマなどである。後に根付への思いが高じて芸術専門誌「アーツ・オブ・アジア」(1976年3.4月号)に「根付の価値を見極める」と題した論文を発表したほどだ。

根付を求めて京都やニューヨーク、ロンドンなどの骨董街も歩いた。博識で面白い根付商との出会いも楽しく、妻と根付を見る目を養う。根付の協会にも加わり、美しい写真や記事が満載された会報が届くのが楽しみだった。

ハワイで開かれた国際根付協会の会合に出席したこともある。世界中から300人の収集家が参加。ハリウッドスターや著名なダンススタジオ創業者、アーサー・マレーらの姿もあった。会合は1週間に及び、参加者は根付の知識を話し合い、売買もした。

中でも第2次世界大戦後の東京裁判の弁護士も務め、根付の権威として名をはせていたレイモンド・ブッシェルの話にはたちまち魅了された。彼の著作は根付に関する古典といえ、有名なコレクションは西海岸最大級の美術館、ロサンゼルス郡美術館に展示されている。

小さな根付の一つ一つに壮大な物語がある。そのことを余すところなく描いたのがユダヤ系富豪の末裔、エドマンド・ドゥ・ヴァールの手による「琥珀の眼の兎」だ。19世紀の欧州にわき上がったジャポネスク(日本趣味)の影響で著者の一族は海を渡ってきた根付を数多く収集した。そしてナチスの迫害に遭いながらも一族は、美術品狩りから根付を守った。私がユダヤ系移民だからであろう。根付を通した一族の激動のドラマは心に響いた。

根付のほかに日本の美術品として日本刀の鍔を集めている。鍔は鉄のほか、金や銀などの上質な金属が使われることもある。残念なのは鍔は完全な日本刀の一部であったが、1876年(明治9年)3月の廃刀令など時代の状況の変化によってばらばらな部品として売られるようになったことだ。でも、分別ある妻は自宅に刀を置くのを好まないので、鍔の収集だけで自分も満足している。

根付も鍔も財布・印籠や刀との本来の機能、バランスを失ってしまったが、それでも日本人の傑出した美意識と技術力を示す優れた美術品であることに違いはない。

(マーケティング学者)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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