フィリップ・コトラー(15)ドラッカーと(上)

突然の電話、翌日会う
NPO研究で鋭い質問続々

受話器から聞こえたのはドイツ語なまりの英語だった。よく聞くと「ピーター・ドラッカーです」と名乗った。仰天し、必死に平静を保とうした。彼と知り合う以前からその洞察力に富む著作を熟読し、尊敬の念を抱いていたからだ。そんな彼からの突然の電話は米大統領から電話をもらうより遥かにうれしかった。

「クレアモント(カリフォルニア州)に来ていろいろとお話をしませんか」とお誘いを受けた。翌日、朝一番の飛行機に飛び乗った。1989年のことだ。

ピーターは空港まで迎えに来てくれて、その足でレストランに立ち寄り健康的な昼食をとった。そして教壇に立つクレアモント大学に行き、学内を案内してくれた。彼はそこで経営学だけでなく美術の教授も務め、自身が収集した日本の屏風や掛け軸を大学で所蔵・展示していた。

彼は掛け軸を次々と広げ、鑑賞しながら互いに日本の美術の細部について語り合っていると瞬く間に数時間が過ぎていた。日本人の美意識は西洋とは全く違う「わび」「さび」という概念で芸術作品を理解し、その価値を評価することがよくわかった。

彼の自宅では優秀な物理学者で今もすばらしいテニスプレーヤーであるドリス夫人が笑顔で迎えてくれた。驚いたのは自宅のつつましさだった。彼はこぢんまりとした居間に数々の世界的な企業の経営者を迎え入れてきたことを思えばなおさらだ。ピーターとドリスには見えを張る必要など無かったのだろう。

夕方になり自宅近くのインタビュー用のスタジオに場所を移した。

そろそろなぜピーターがクレアモントに招いてくれたのか。種明かしをしよう。彼は私同様にNPO(非営利組織)についての研究をしていたのだ。スタジオの静かな空間で彼は「マーケティングはNPOの経営と生活者にどう役立つのか」と聞いてきた。

「マーケティングはNPOにとって顧客のニーズ、願い、考えを深く理解することであり、顧客の生活を向上させることが可能になる」と答えた。さらに「それぞれのNPOはニーズを明確に把握しているが、それが顧客のニーズに必ずしも沿ったものにはなっていません」とも。

ピーターからの質問は多岐にわたり、刺激的だった。私がNPOの美術館やオーケストラなどの文化活動について研究に乗り出したのはその時のピーターからの鋭い質問があったからだった。クレアモントでの会話は彼が90年に出版した「非営利組織の経営」で紹介されている。

90年に「非営利組織のためのピーター・F・ドラッカー財団」が設立され、私はアドバイザリー・ボードとして財団に招かれた。NPOが他のNPOや経営者、学者などから学び、経営を改善するのを支援するために立ち上げられた財団で私も数回出席した。社会的問題を解決する胸の躍る創造的な解決策を生み出すにはどうしたらよいか、提案もした。

ピーターは最初、自分の名前を冠した財団の設立を嫌がったが、いずれ彼の名前を外すことを条件に譲歩してくれたという。この財団は今、「リーダー・トゥ・リーダー研究所」の名称で活動している。

こんなところにも彼の謙虚な人柄が表れている。

(マーケティング学者)

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