フィリップ・コトラー(14)NPOとの出会い

経営的発想で質向上へ
無報酬で30年働いた母が手本

母ベティ・コトラーが地元シカゴの病院でボランティア活動を始めたのは50歳を超えた1960年ごろだった。売店でお花、菓子、新聞、雑貨などを患者、見舞客、医者や看護師を相手に販売していた。この病院は非営利団体が運営しており母は報酬を一切受け取っていなかった。

「何か人様のお役に立ちたい」。裕福でなかったのに自分の時間を高潔な目的のために提供することで母は非常に大きな満足感を得ていた。すばらしいことだと思った。

30年も無報酬で働いた母の後ろ姿。私が奉仕活動に目を向けるきっかけになったのは間違いない。同時に学校、美術館、教会のほかYMCA、全米癌協会などの慈善、社会福祉団体といった膨大な数のNPO(非営利組織)の運営にも興味を持つようになる。

実はそれまで社会が必要とするサービスで民間企業が供給しないものはすべて政府が引き受けるべきだと考えていた。西欧諸国では税金が非常に高いのは、無料の医療制度、教育など生活に必要なサービスを賄っていたからだ。一方、大きな政府を嫌う米国ではNPOがその受け皿となりつつあった。マーケティングがNPOに役立つことがあるのか研究テーマの一つとなる。70年ごろだ。

研究を進めていくとNPOから価格設定やサービス設計などのコンサルティングの依頼がよく寄せられた。ところが「皆さんたちの活動を経営者、ビジネスの視点から見るようにしてください」とアドバイスすると「(NPOなのだから)自分たちは企業ではない」と反発を食らった。

まるで「ビジネス、経営」を忌まわしいものだと思っているようで、「企業の世界で働きたくないからNPOに就職したのだ」と言う人もいた。マーケティングや仕入れ、財務といった言葉を聞いたり、そうした業務に従事するだけでうんざりした顔をされた。効率的マネジメントに関心がなく慈善事業家のようだった。誤解も多かった。

しかし、経営的発想をNPOに導入することがサービズの質の向上につながるという信念をもっていた。例えば臓器の提供者を増やしたり、ボランティアへの積極的参加を促したりするにはマーケティング志向は不可欠。自分たちの使命を達成するには別のNPOとの連携も必要になる。新たな価値を生み出すためにこの学問があるのだ。

当時はNPOという言葉が一般には知られていなかった時代だが、NPOの経営計画の立案などの研究に拍車を掛けた。75年に入門書の先駆けとして「非営利組織のマーケティング戦略」を出版した。

本は高い評価を受けたが、82年ごろ、タイプの異なるNPOについて個別には掘り下げていないことに気が付いた。NPOは非常に広範囲な分野に根を張り、独自の使命や特徴もある。ビジネススクールの学生にマーケティングを非営利セクターに応用する方法を教える本としては適していたがNPOの現場では不十分だったのだ。

そこで大学、医療、社会福祉・慈善団体、宗教団体、美術館など6分野のNPOについて個別に研究し、出版することを決めた。

研究を続けていると思いも寄らない人物から一本の電話がかかってきた。心が躍ったのを鮮明に覚えている。

(マーケティング学者)

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。