フィリップ・コトラー(12)社会問題の解決へ

新分野開拓に燃える
「ソーシャル」命名、発展に誇り

1970年前後は西側社会が繁栄を謳歌する一方、地球規模では貧困、飢餓、疫病、環境破壊など実に多くの問題に直面していた。「マーケティングの考え方を活用することで、こうした社会問題の解決ができないだろうか。人々の生活を良くすることにこの学問が役に立てないだろうか」。そんな思いが募っていた。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の若手教授のジェラルド・ザルトマンの協力を仰ぎ、掘り下げていくことにした。

私たちが取り組む約20年前に心理学者のG・D・ウィーブがこんな形で問いかけていた。「なぜ石鹸を売るように、人類愛を売ることができないか」。商業的な学問だと思われがちなマーケティングへの挑戦状と受け止めた。「ならば、この学問を活用し、より良き社会に変革が可能なことを証明しよう」と誓い合う。

人類愛、平和、栄養価の高い食生活、ドラッグ撲滅といった概念や価値観を普及させるのに、マーケティングをどのように活用すべきか。考えれば考えるほど、私たちはマーケティングの新分野を立ち上げる可能性について夢中になっていく。

「大量生産、大量消費を促すことは資源問題あるいは空気や水の品質にどのような影響を及ぼすのだろうか」「経済成長になんらかの制限を課すべきだろうか」。思案した。

私たちが考えていたことは、人々に自分、家族、友人、そして社会全体にとって好ましい行動を取るように説得するのにマーケティングが活用できるかだった。壮大なテーマであるのは間違いない。

そのためには人々が一言で理解できるキレのある言葉を探さなくてはならない。社会的に重要な意味を持つ、大義のマーケティングであると考えて「ソーシャル・マーケティング」と名付けた。後にSNS(交流サイト)を使ったマーケティングと混同されるとは夢にも思わなかった。

考えがまとまり、ジャーナル・オブ・マーケティングの誌上に「ソーシャル・マーケティング計画的社会変化の手法」(71年7月号)を発表、世に問うた。生産、販売など企業の側からの分析とは一線を画し、社会的な動機からその目的を最大限に達成しようとする考え方は大きな注目を集めた。この年に同誌に掲載された最も優れた論文に贈られるアルファ・カッパ・サイ財団賞を受賞した。

ソーシャル・マーケティングの考え方が明確に応用されたのは人口増加に悩む国での取り組みだろう。タイでは僧侶にコンドームを清めてもらい、不幸を呼び込まないことをアピールした。エイズ感染予防でも啓蒙活動には一役買った。喫煙反対運動も様々な喫煙者グループに的を絞り、キャンペーンを実施した。

社会的な大義を広める運動は世界規模で広がっている。世界銀行や国連などが協力してソーシャル・マーケティングの国際会議が2008年ごろから相次いで開催されたことからこの言葉が人口に膾炙するようになった。

ザルトマンと最初に論文を発表して40年以上になる。ソーシャル・マーケティングがこれほど発展を遂げたことを本当に誇らしく思っている。この分野の研究者は世界で2000人を超え、今後も研究が深まり社会的な問題を改善、解決するための理論や実践が磨かれていくことを強く願っている。

(マーケティング学者)

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