フィリップ・コトラー(11)学会投票

「対象拡大」是非を問う
支持受け研究舞台が広がる

学者という職業の魅力の一つは同じ専門分野はもちろん、異分野の抜群に優秀な研究者と出会う機会があることだ。その中で特別な存在となったのがシドニー・J・レビだ。1956年にシカゴ大学で博士号を授与され、調査会社を経てノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で教えていた。少し遅れて教員となった私と親しい友人となるのに時間はかからなかった。

シドニーは人間行動を非常に熱心に観察し、私たちはマーケティングの対象を「ビジネス以外の世界に広げられないか」ということを議論し始めていた。60年代の大方のマーケティング学者が自動車、家電、玩具、住宅、アパレルなどの特定の市場の研究に専念していた時代のことだ。

我々はマーケティングの考え方は「場所(都市、地域、国家)」「人(有名人をつくる)」「思想(性の平等)」「信条(栄養価の高い食品の摂取など)」にも応用できると主張し、69年に「マーケティング・コンセプトの拡大」を発表した。すると有力な学者からは「対象の拡大は学問の拡散と混乱を招く」として我々の立場を認めないという意見が出た。

我々は「対象の拡大はこの学問に新たな命や発想を吹き込むことになる」と確信していたので、学会に「対象の拡大」についてその是非を問うことをお願いすることにした。投票の結果、ありがたいことに我々の主張を支持する意見が大多数を占めた。研究の舞台は大きく広がったことをシドニーと祝う。

そうなると今度は「4つのP」(製品、価格、流通、販売促進)の枠組みが他の分野でも有効かどうか。これまでにない洞察をもたらすかを見定めたいと思った。また、新たな概念や理論が必要になるのか。モノやサービスのマーケティングの本丸に逆に大きな貢献となるように望んだ。いろいろな課題が明らかになるという期待に胸が躍る。

何より、これまでマーケティングのことなどを考えたことのなかった異分野の人々がマーケティングをもっと学ぼうという気持ちになってくれるだろうと思った。

例えば、美術館で働く人たちだ。自分たちの仕事が入場券を売ったり、寄付金を集めたりすることだと考えていた人たちの視野が広がることを望んだ。その仕事の本質がマーケティングであることに気づいてくれたらこれほどうれしいことはない。

自分としてもその後の数年間はマーケティングが応用できる“市場”を探し、研究に入った。末弟のニールの協力や優秀な若い研究者との出会いにも恵まれ、新市場を開拓した。美術館、演劇、都市、地域、そして宗教など。どれも人を惹きつけるためにはマーケティングの考え方が必要だった。

宗教では批判を受ける可能性があるのもよくわかっていた。そこで、宗教団体が信徒のニーズを理解し、信仰や宗教活動によってそれを満たすことで信徒の獲得や維持につながることを示そうとした。

4Pの活動の前にS(セグメント)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)という概念を応用し、高い評価を得ることができた。

新たな領域を広げたことは挑戦的で冒険に満ちた楽しいものであった。そして次なる関心は社会問題へと移っていくことになる。

(マーケティング学者)

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