フィリップ・コトラー(10)処女作

顧客を意識、執筆に2年
正当な学問分野として認識

ノースウェスタン大学経営大学院(ケロッグ校)に移ってしばらくすると、腕利きの編集者、フランク・エネンバッハの訪問を受けた。彼はおもむろにこう切り出した。「本を出しませんか」。既に執筆中の「マーケティングの意思決定モデル構築法」があったので目を通してもらうことにした。

彼の感想はこうだった。「独創的ですばらしい貢献になるだろうけど、これは君が最初に出す本じゃないよ」。彼は腹案を持っており、「斬新な切り口の教科書を最初に書くべきだ」と提案してくれた。

確かに執筆中の内容は高度で読者層が限られるのは明らかだった。「もし斬新な教科書に仕上がったら幅広い読者を獲得でき、収入面でも見返りは大きい」と、教科書の執筆を強く勧められた。その通りだと思った。マーケティングを教えていて既存の教科書は満足できるものが一つも無かったからだ。

大抵の教科書には営業管理や広告、販促手法などが事細かに書かれていた。その半面、調査研究を軽く扱い、顧客を分析の中心に据える発想もなかった。教科書の構想を練ることに専念した。

マーケティングの教科書とは社会学、経済学、組織行動学、数学の4つの基本的な学問分野に基づくべきものだと考えた。基本原理を説明するため多くの実証・事例研究を取り上げた。

企業組織には4つの志向(生産、販売、マーケティング、社会)があるが、その中で顧客に意識を集中し、ニーズ、考え方、嗜好を理解するマーケティング志向の必要性を強く訴えることにした。また自らの製品が社会の繁栄と生活者の幸せにどう影響するかを意識する必要があることも記した。

執筆に2年の時間を要した処女作「マーケティング・マネジメント」が書店に並ぶ日がやって来た。1967年。この本が大失敗するか大成功するか、全く見当もつかなかったのが偽らざる事実だ。結果は後者だが、何より嬉しかったのはマーケティングが正当な学問として認識され、研究分野のイメージを高めることができたことだ。

マーケティングとは単にクーポンを配り、広告やセールを打つことにとどまらない。製品(プロダクト)、価格(プライス)、流通(プレイス)、販売促進(プロモーション)の「4つのP」に基づく科学的理論を構築し、意思決定に貢献できるところにある。

社会の変化と共に新たな概念、理論、実践、事例が次々と生まれるのがこの学問の特長で、その変化に対応するため加筆して3年ごとに改訂版を出す。サミュエルソンの近代経済学の教科書「経済学」が版を重ね続けたことを「信じられない」と思っていたが、拙著はダートマス大学のケビン・ケラー教授を共著者に迎え14版を数えるまでになる。

96年12月9日。英フィナンシャル・タイムズの記事「史上最高のビジネス書50冊」として「国富論」を筆頭とする中にこの本が選ばれたことは望外の喜びだった。

後回しになった「マーケティングの意思決定」も70年に出版し、著名なビジネススクールなどで読まれている。

この2冊を執筆していく中でマーケティングの概念を広げる新たな着想に取り組みたいと思うようになっていた。

(マーケティング学者)

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。