フィリップ・コトラー(8)「4P」の誕生

商業活動の理念構築
処女作構想練るが、実現せず

今日は日曜日なので少し趣を変え、マーケティングに関する若干の講義と、私との出合いについてお話したい。

旧約聖書にはアダムにリンゴを食べさせるように蛇がイブを唆す場面がある。そのイブの商業的活動が成功したのは誰もが知るところだ。

話法や商業活動も長い歴史を持つ。古代ギリシャにアリストテレスが修辞学の原理を体系化し、後世の演説家や作家に大きな影響を与えた。人々が集まりモノを売買するアゴラと呼ばれる市場があり、中世では市が立つ日は一大イベントだった。

そんな歴史のある商業活動だが、マーケティングという言葉が専門書に登場するのは1910年ごろになってからだ。当時の経済学者は商品の売買の成立が需要と供給と価格だけで決まるのではなく、流通機構や広告宣伝などの経済活動を見逃してきたことに気付き、問題意識が芽生えたのだった。マーケティング学の歴史はここから始まった。

この学問の進化を語る上で「4P」(製品、価格、場所、販売促進)は重要な用語である。これを最初に提唱したのはジェリー・マッカーシーだ。昨日、ここで紹介したフォード財団がハーバード大学で主催したプログラムのマーケティング・グループとして一緒に机を並べていた彼は、60年に初めて「4P」を使った教科書を出した。

この4Pには原型がある。彼の恩師であるノースウェスタン大学経営大学院のリチャード・クルウェット教授が「3つのP」(製品、価格、販売促進)と「1つのD」(流通=ディストリビューション)を使っていた。

ジェリーは自らマーケティングを教えるようになり、Dをプレイスに換えて「4P」という枠組みを作ったのだった。日本では「4P」の最初の提唱者が私だと思っている読者がいるが、ちゃんと先達がいた。私はこの4Pを様々な分野に活用、実践した。

ジェリーだけではなくプログラムに参加したメンバーと一緒に数学的分析の文献を片っ端から調べ上げ、昼夜を惜しんで読み込んだ。そしてエッセンスをとりまとめて出版するという当時としては珍しいことにも挑戦した。

ここから巣立った50人のメンバーの多くが後に数学的な手法を駆使した消費者行動や新製品のライフサイクル曲線のモデル構築などの理論の発展に寄与したのは言うまでもない。すばらしい才能を持つ仲間に囲まれたことは幸せだった。

同時に仲間の活躍を気にしつつ、自分でも現実に即した問題を取り上げて、理論構築に乗り出したくなってきた。頭の中に思い描いていた本のタイトルは「マーケティングの意思決定モデル構築法」。

基本は物事をシンプルに考えることだ。第1章は競争相手を1社、マーケティング・ツールが価格と広告の2つしかない市場を想定する。この2つのツールで利益を最大化する方法を考える。

第2章は競争相手を2社に増やし、それぞれが広告支出と価格を最適化しようとする状況を検討する。それに続く章では不確実性を加味したり、短期的、長期的な影響も考慮したりして実務に役立つ構成を目指そうとした。

これが単著としての処女作になるはずだったが、その後に起きた様々な出来事の結果、そうはならなかった。

(マーケティング学者)

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