フィリップ・コトラー(5)結婚

「クレオパトラ」に恋
大学のパーティーで見初める

誰にでも親友は必要だ。妻となるナンシーは親友であり、その思いは拙著「マーケティング・マネジメント」初版から最新版まではっきり書いている。「心から言葉に尽くせない感謝を込めて、本書を妻ナンシーに捧げる」と。

婚活市場を効率化するような今どきのインターネットの恋人紹介サービスのような手助けもなく、ナンシーと巡り合えたのは不思議なものだ。

それは23歳の時に訪れた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生寮である日、ハーバード大学の女子部、ラドクリフ・カレッジで「ジョリーアップ(お楽しみ会)」が開かれるポスターを目にした。

「ジョリーアップって何」と知人に聞くと、「恋人にふさわしい男性と出会うために女子学生が開くパーティーだよ」と教えてくれた。興味が湧いたので顔を出すことを決め、その日の夜を待った。

場所はラドクリフの学生寮。そこには30人ほどの女性と、それ以上の若い男性が参加していた。大半はハーバード大生でジャケット姿で格好よかった。一方、少数派のMIT生はたいてい計算機能付き腕時計をして、ポケットには計算尺を忍ばせる者もいた。

あたりを見渡すと黒髪と黒い瞳の美しい女性に目を留めた。人混みをかき分けて彼女の前にたどり着き、「ダンスをしてくれませんか」と言うと笑顔で「はい」。ダンスをしながら意を決して「君はクレオパトラみたいだね」と話すと「本人よ」と機転の利くすばらしい言葉で応えてくれた。恋愛の始まりだ。

「来週、ヨットに乗りませんか」と誘うと、笑顔でうなずいた。デートに誘ったものの一つ問題があった。一度もヨットに乗ったことがなかったのだ。まあ何とかなるだろうとMITのヨットを予約して、セーリングの本を借り、一夜漬けの勉強。風が吹き、帆が膨らめば進むのだから、風まかせといったところだ。

ついにその日がやってきた。彼女を迎えにいくと、私を見るなり驚いた表情をした。私が黒い革靴を履いていたからだ。天気はよく、ヨットはチャールズ川を滑るように走っていたが、頼みの風がぱたりとやんでしまった。ヨットは川の流れに従うしかない。結局、沿岸警備隊に岸まで曳航される羽目に。そんな状況でも彼女はうろたえるどころか、大笑いして事の始終を楽しんでいたようだった。

そのとき始まった恋愛は今につながるすばらしい結婚生活になった。偶然見かけたポスターのおかげで美しい妻と3人の娘、9人の孫に恵まれた。妻は私の人生に美と洗練をもたらしてくれただけではない。法律の学位を持つ彼女は私を人生の大方のリスクから守ってくれた。

結婚については愛情の有無より、双方が同じ社会階級の出身とか、花嫁の両親が持参金を払えるかといったことのほうが重視された時代もあった。人生を共にするのにふさわしい人を見つけられるかは運にも左右され、婚活市場はこの世で最も効率の悪い市場だとも考えてきた。

今や不完全な市場も様々な紹介サービスが台頭したことで情報や選択肢が豊富になり理想のカップルの誕生も不可能ではなくなった。私たちはそんな助けを借りることなく、それでもかなりうまくやってこられたといえるのではないだろうか。

(マーケティング学者)

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