和田勇(11)所長に就任

大口受注へ試行錯誤
トヨタの社宅、日参し成約

入社5年目の1969年。名古屋営業所は東、西、特建(特殊建築)の3つに分割された。お客様の要望にきめ細かく対応し、営業所員にも昇進のチャンスを与え、士気を高めるのが狙いだ。私は東営業所の所長に任命された。

立場が変わり、自分のやり方、自分のペースで動き回るわけにはいかなくなる。自ら先頭に立ち、営業所全体の業績アップを第一に考える立場だ。この年、日本の住宅着工戸数は140万戸を超えていた。しかし、プレハブのシェアはまだ1割にも満たない。「とにかく数を取らなければ……。大口受注に挑戦しよう」。そう心に決めた。そのためには足元を固めておく必要がある。工事力の強化だ。

営業活動にしゃかりきになり、施工がおろそかになっていた苦い経験から、その重要性を痛感していた。協力工事店との信頼関係の構築には、その後も絶えず心を配ることになる。

大口受注は協力工事店に継続的、安定的に仕事をしてもらうことにもつながる。気を引き締めて営業戦略を練るが、個人のお客様相手とは勝手が違う。試行錯誤の始まりだ。そんなとき、耳寄りな情報を得た。

トヨタ自動車の厚生部門の子会社が、親会社の社宅建築を考えているという。「あのトヨタが社宅を」。気持ちがはやる。しかし、コネクションなどない。とりあえず、飛び込み同然で訪ねた。門前払いは覚悟の上だが、簡単には引き下がれない。社用車などない時代。トヨタ車のタクシーを選び、日参した。

やがて、当時は珍しかったテラスハウスに興味を持ってもらえた。各戸がテラスと専用の庭を持つ2階建ての連棟式住宅だ。担当者の感触はいい。次の難題は価格。値引きの要求が続く。何とかギリギリの線で折り合いがついた。

契約終了後、数字に厳しかった担当者に特上の鰻をごちそうになった。帰りに部下と「値引き分のお礼かな?えらく高くつく鰻だったな」と大笑いした。その後、信頼も深まり、数年にわたり、継続的に大量受注をいただいた。

土地探しにも力を注いだ。土地区画整理事業の保留地分譲には「高針台団地」での実績がある。名古屋には大手デベロッパーが少なく、地権者で組織された土地整理組合が事業を進める例が多かった。住宅メーカーの本格参入の動きは遅い。先手先手で地権者を回り、かなりの実績を積み上げることができた。

思わぬ話が舞い込んできたこともあった。名古屋の一等地にお住まいのMさんが、郊外の環境のいい土地に新築したいという。予算を聞いて驚いた。土地建物の売却代金10億円。「妻が病気で塞ぎ込んでいる。何とか、ありとあらゆる望みを聞いて思い通りの家を建ててやりたい」という。心を打たれた。

土地探しから力が入る。四方八方手を尽くし、天白区の緑豊かな住宅地に、ご満足いただけるお住まいを建てることができた。この案件をご紹介いただいたのは東海銀行名古屋支店長の小林英雄さん。後に専務になられてからも親しくお付き合いいただいた。

名古屋は商売がしづらい土地だといわれる。しかし、腰を据え、懐に飛び込めば、人情豊かな人が多いことが分かってくる。名古屋では多くの出会いに支えられた。

(積水ハウス会長兼CEO)

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