和田勇(10)分譲地開発

即日完売の期待大外れ
欠けていた緻密さ・創意工夫

愛知県は日本三大瓦のひとつ、三州瓦の産地で、名古屋市内の都市部でも在来工法へのこだわりが根強かった。プレハブ住宅は、まだ人気がない。古い住宅地での建て替えとなると、なおさら劣勢だ。

積水ハウスは当時、上物、つまり建物の販売が基本だった。そこで「自分たちで土地を探そう」ということになった。営業所として初の本格的な分譲地開発。それは本社の方針とも合致していた。

最初に着手したのが「高針台団地」。その住所が印象的だった。名東区極楽。地名の由来は諸説あるが、「山深からず、水多からず、極楽のような高台」で住宅地としては理想的だ。眺めもよく、地名も縁起がいい。直感的に「売れる」と思った。

このエリアでは土地整理組合による区画整理事業が行われていた。地権者が何割かの土地を提供(減歩)し、道路などの公共用地を除き「保留地」として販売し、事業費に充てられる。私たちは、この保留地に目をつけたのだ。

広さは1万7200平米。価格は当時の積水ハウスの資本金に匹敵する。社運をかけた事業になる。営業所では猛反発を食らった。血気盛んな私は、田鍋社長に直談判するため大阪に向かった。

「これだけの開発をやりとげたら、積水ハウスの名前が一気に知れ渡ります」。事業拡大はもちろん、知名度も高めたい。必死で売りこんだ。答えは「よし、やるか」。

土地の形状を最大限に活かせるよう余裕を持って道路を設け、理想的な分譲地を開発した。全70区画。「必ず売れる」。自信は確信になる。売り出し前夜はチーム全員で営業所に泊まり込んだ。「即日完売。行列ができるだろう」。期待がふくらみ、なかなか寝付けなかった。

朝一番で現地に向かう。「まだお客様は来ないだろう」との読み通り、誰もいない。それどころか、昼になってもお客様の姿はない。結局、1日中待って、やっと1人。言葉をなくした。

理由がすぐには分からなかったが、じっくり分析すると、節穴だらけ。必ず売れると信じていたから、開発計画に中途半端な妥協はない。その分、割高になっていた。

周辺の環境はよかった。逆に、交通アクセスがやや不便だと見られた。インフラが未整備な部分もあった。そして、本来の魅力をきちんとアピールする販促策もおろそかにしていた。若気の至りで思い込みだけで突っ走っていた。

さらに決定的な難題があった。保留地には担保権の設定ができなかったのだ。物件には自信があるが、お客様に気に入ってもらえても、先立つものがなければ話は進まない。あらゆる方策を考えた。ようやく、積水ハウスが保証する方法で、融資が実行されることになった。売り切るまでに4カ月かかった。

苦心して知恵を絞ったおかげで、その後、土地を買い増し、追加販売を重ね、最終的に当初計画の4倍以上の300戸を完売した。

未熟な点は多々あった。緻密な計算の上に創意工夫を重ねないと、どんないい物件も売れない。それを学んだ。

住環境の質や良い住まいへのこだわりが、私たちが進むべき道だと、改めて認識した。売れる土地の力、地相を見抜く直感力も、この経験で養われたような気がする。

(積水ハウス会長兼CEO)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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