利根川進(29)私の家族

2男1女に恵まれる
才気輝く次男の死に悲嘆

家族について少し紹介しましょう。

妻の真由美とは1985年に結婚しました。彼女は当時NHKで教育番組や特集などを担当するディレクターでした。「21世紀は警告する」という特集番組を作るために、私にインタビューを申し込んできて知り合いました。

私たち夫婦は長男の秀(ひで)、長女の英(はな)そして次男の知(さと)の2男1女に恵まれました。3人ともボストンで生まれ育ったアメリカ人です。子育てに関しては、色々な機会をできるだけ与えるようにしようと心がけました。3人ともとても心優しい人間に育ったと思います。

秀は、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業して日本のIT関係の企業に就職し、東京で1年足らず働いた後、その会社が買収したサンフランシスコにあるアメリカの会社で働いています。英は、ニューヨークの伝統あるスキドモア大学を卒業した後、日本政府が行っているJET(英語が母国語の若い大学卒業生を日本に招いて中学・高校で英会話の授業を補佐する)プログラムで、埼玉県の高校で1年働いた後、この秋からパートタイムでマスコミの仕事をしています。

知は、ずば抜けて才能に恵まれた、ミステリアスなところのある子供でした。何をやっても見事にすんなり、すばらしくよくできてしまう。物理、数学、歴史をはじめとする学業一切はもちろん、チェロとピアノを演奏しましたが、ピアノのコンペティションで勝ってカーネギーホールで演奏するほど、音楽の才能にも恵まれていました。

いつ見てもクールで余裕がある。これほどすごい才能を持った子供は将来どうなるのだろうと、本当に楽しみにしていました。知は小さい頃からサイエンティストになると決めていて、3人の子供の中で唯一、私の知っている世界を目指していました。

夏休みにMITの生物物理研究室で働いてみたいというので、彼が教授との面接に行ったのです。後で何を質問されたのか尋ねてみると「何を目的にこの研究室で働きたいのかと聞かれた」と。それに対して「エデュケーション、インスピレーション&ファン」と答えたというのです。まったく17歳とは思えないような答です。もちろん研究室に受け入れてもらい、かなり真剣に研究したようで、後に「セル」という有名な科学誌の論文に共著者として名前が載ることになっているそうです。「一高校生がここまでできるとは信じ難い」と教授から言われました。

科学を志していた知は、残念ながらMIT一年生の時、誰にも何も告げずに、18歳で夭逝してしまいました。親にとって、これ以上の残酷はありません。私も残りの人生それほど長くはありませんが、最後まで、十字架を背負って生きて行かなくてはなりません。実は、私は余りにも次から次へと幸運に恵まれてきましたので、以前から時々「大丈夫かな」という気がしていました。私は宗教を持たない人間ですが、やはり天は禍福を調整したのではないかと。もしそうなら、ノーベル賞その他の幸運はいらないから、知を返してほしいと心から思います。

深い悲しみにくれる日々ですが、本当に短い間ではありましたが、あれほど魅力的な若者と過ごせたことを、感謝しなくてはならないのかと思うこともあります。

(分子生物学者)

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2 Responses to 利根川進(29)私の家族

  1. 岡田恵美子 says:

    ご次男の知くんが若くして亡くなられていたこと、初めて知りました。
    利根川博士は強い意志と心で、順調に何不自由なく暮らしておられるものだと思っておりました。
    利根川博士の「ノーベル賞も何もいらない、ただ知を返してほしい」との言葉に、普通の親としての切実な哀切があふれ、涙しました。
    私には子はおりませんが、長く病に伏し、生死を見つめ続けてきました。
    共に闘い続けてきた友人は、この世で何の良いこともなく21歳の若さで早逝していきました。
    子どもの自殺ほど辛いことはないと思います。
    利根川博士、そして奥様、兄弟を亡くされた秀くん、英さん、どうぞ悲しみに耐え、お心強く生き抜いて下さいね。
    陰ながら応援いたしております。
    そして若くして旅立った知くんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

  2. 井上絢子 says:

    私は、息子様の訃報をニュースで知りました時の衝撃をいまだに忘れることができません。次男が4歳の時、バイオリン教室でご一緒しておりました方だと思っていたからです。後で、年齢をてらしあわせるとロンドンから帰国した直後の息子様とご一緒したのはご長男だったのだと思います!当時3才の息子を残し病死した主人に「生と死」を日々考えておりました。今、この世の名誉も地位もいらないと才ある息子様を思われる博士に心からの哀悼の祈りを捧げる思いでございます。

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