利根川進(19)研究成果を発表

会場から拍手やまず
国際的な研究者の仲間入り

いよいよコールド・スプリング・ハーバー研究所で発表の日です。「すごい成果らしい」と噂が広まっていて、会場には大勢の研究者が詰めかけていました。

こういうシンポジウムでのプレゼンテーションは、比較的短く、私の持ち時間は20分。発表内容は2部構成になっていて、免疫の多様性の謎を解く核心部分は後半です。話し始めると前半だけで20分を使ってしまい、司会者が「時間です」と打ち切ろうとしました。

すると会場の奥の方から「重要な話だ。続けさせろ」という声が。暗がりで誰か分かりませんでしたが、後でワトソン所長だったと知りました。

私が実験データを示していくと、会場が異様に静まり返っていくように感じました。聴衆が一言一句も漏らさずに聞こうとしているのがひしひしと伝わってきた。結局、1時間ほど時間を使って思う存分成果を発表。

次々と起こる質問に答え、質疑を終えるとすごい拍手がわき起こりました。こんなに気持ちのよい体験は初めてでした。

薄暗い会場から晴天のまぶしい外に出ると、ワトソン所長とヤーネ博士が芝生の上で待っていて、「このシンポジウムのベスト・トークだった」「すばらしかった」と口々に賛辞を贈ってくれます。日本を飛び出して13年。これでやっと世界に通じる研究者として認めてもらえそうだと感じました。

科学研究では、タイミングは重要な要素になります。免疫学は、我々の研究発表をきっかけにして、1970年代の終わりごろから、研究内容や手法が画期的に変化しました。

免疫学では、それまで生きた個体を免疫したり、培養した白血球に抗体を混ぜたりする実験がほとんどでしたが、分子生物学の手法を取り入れた「分子免疫学」という学問分野が創出され、以来、世界の主だった大学や研究所の免疫学科は、全て分子免疫学が主流になっています。この歴史的な変革に貢献できたことを、本当に嬉しくまた幸運だったと思います。

研究技術は飛躍的に進歩します。その後、遺伝子の塩基配列を解読する「サンガー法」や「マキサム・ギルバート法」が相次いで開発されました。私たちもこうした解読法を習得しようと、開発者のウォルター・ギルバート・ハーバード大学教授に協力をお願いしました。私たちはギルバート教授の研究室に1カ月以上滞在して、この最新の方法を習得し、論文も1本、共同で発表しています。

バーゼル免疫学研究所には結局、10年間在籍。ヤーネ所長が後進に道を譲ることが決まり、私もここでの研究は潮時を過ぎたと感じていて、サイエンスでは世界の中心である米国に戻ってもよいと思いました。

幸い、米国のコロンビア大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、その他2、3の大学から教授職のオファーがありました。どの大学も魅力的です。

実際に各大学を見て回り、MITに行こうと決めました。ソーク研究所時代にお世話になったダルベッコ先生の師匠に当たるサルバドール・ルリア教授が、MITでがん研究所長を務めていたことが決め手になりました。

(分子生物学者)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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