楽天優勝の立役者は、42歳の元外資金融マン

チームを変えた、新社長の「巧みな戦略」と「熱き思い」

球界に参入した2005年、レギュラーシーズンを制したソフトバンクに51.5ゲーム差をつけられ“史上最弱”とも言われた楽天イーグルスが、今季、悲願のリーグ初優勝を果たした。過去にAクラス入りしたのは野村克也監督に率いられた2009年の1度のみだったチームが、なぜ、8年という短期間で栄冠を勝ち取ることができたのだろうか。

開幕22連勝を飾ったエースの田中将大、超大物メジャーリーガーとして鳴り物入りで来日したアンドリュー・ジョーンズ、若手の成長を見事に引き出した星野仙一監督がチームを牽引した“表の顔”とするなら、影で尽力したのが球団社長の立花陽三だ。

昨年8月、楽天グループの三木谷浩史会長に誘われ、メリルリンチ日本証券執行役員から転身。慶応大学を卒業して以来、ソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチで輝かしいキャリアを歩んできた元外資系証券マンは、球界でも見事な手腕を発揮していく。

立花がまず行ったのは、チームを徹底的に分析することだった。成蹊高校時代にラグビーの高校日本代表、慶応大学でもスタンドオフとして活躍したが、野球に関しては素人だ。そこで求めたのが、誰もが納得できる数字的根拠だった。

「マネーボールではないが、数字的なアプローチのほうがわかりやすいし、ロジカルだと思う。他球団と比べてうちはどこが強いのか、弱いのか。それらを数字的に判断して、『じゃあ、ここを強くしよう』とアプローチした」

■なぜ右打者に補強を絞ったのか

立花は自身の球団社長としてのスタンスについて、「私の仕事のやり方は、他球団の社長とは明らかに違うと思う」と言う。たとえば前任者の島田亨は楽天グループ本隊の仕事もあり、仙台に来る日が限られていた。一般的な球団社長は、彼のように経営面に尽力し、グラウンドの話は編成担当や現場に任せることが多い。

一方、戦力強化も担う立花は仙台に常駐し、毎試合観戦してチームが勝利する方法を考え続けている。そうして昨季終盤、見えてきた課題が「右打者の長距離砲不在」だった。

「チームの投手力はそんなに悪くないが、得点数が低い。その課題を見つめ、『得点を取れる選手を取ってこよう』となった。ドラフトで新人を取っても、戦力になるまでに年数がかかる。われわれがオプションで持っているのは外国人を取ること。その中で必要なのは長打なのか、単打か。右打者なのか、左打者なのかと考えた」

2012年の楽天は、総失点がリーグで3番目に少ない467だったのに対し、総得点は4位の491。チーム本塁打はリーグ最少の52本だった。新シーズンに向け長打力アップが求められた中、なぜ右打者に補強ポイントを絞ったのだろうか。

「うちの主力には左打者が多いので、左打ちの外国人を加えると打線に左打者ばかりが並ぶ。左打者=左投手を打てないという因果関係は、いいバッターを見ているとあまり感じられないが、うちにはあまり打てない左打者もいる(苦笑)。そのバッターが左投手をぶつけられることが多くなって打てなくなると、チームの総力が低下する。それならば、右打者を取ったほうがいいとシンプルに考えた」

今季、楽天で大きく飛躍を遂げたのが銀次、枡田慎太郎の左打者だ。前者は主に3番、後者は6番を任されている。2人をつなぐ4、5番打者がジョーンズとケーシー・マギーの右打者だ。

実は昨季終了後、楽天がリストアップした外国人選手のトップ評価はある左打者だった。しかし、個の能力のみに目を向けるのではなく、「この選手がチームに最適なのか」「この外国人選手が打てなかったとしても、周りが打てばいい」と多角的な視点で議論し、右打者の補強という結論が出た。

そうして獲得に動いたのが、メジャーリーグで通算434本塁打、1998年から10年連続で外野手としてゴールドグラブ賞を獲得した実績のあるジョーンズだった。実力はもちろん、ジョーンズは楽天に必要な要素を備えている可能性があると立花は考えた。

「うちは若いチームだから、つねに試合に出る野手の中に本当のリーダーが必要。打つこと、いいプレーをすることはもちろん重要だけど、チームのコアになる人間がもっと重要になる」

2012年末、立花は米国に飛んだ。テネシー州ナッシュビルでウインターミーティング(メジャー関係者がトレードやFA〈フリーエージェント〉選手の交渉などを行う場)に参加していた担当スカウトと合流し、ジョーンズと直接交渉すべく、アトランタまで車を4時間走らせた。

夕刻、現地のレストランで席に着くや、立花はジョーンズに言った。

「私は元証券マンだ。君とディールをしに来た。わざわざお茶を飲みに来たわけではない」

前交渉で金銭面は双方の合意ラインにあったが、立花はジョーンズの熱意や人間性を直接確かめたかった。過去に来日した大物メジャーリーガーの中で、傲慢な態度が災いしてすぐに帰国した選手も少なくない。ジョーンズが上から目線なら、立花は断るつもりだった。

しかし、大柄なオランダ人は人格者だった。ひざを付き合わせて4時間、ブレーブス時代に10年連続で地区優勝した経験や野球への情熱を聞くにつれ、ジョーンズの自信みなぎる態度に立花は魅了されていく。

「正直、ジョーンズが打つか否かは、来日してみないとわからない。でも、あの自信がチームに必要だと思った」

社長自ら交渉に来たことに感激したジョーンズは、鳴り物入りで来日した。真摯な態度で日本球界に溶け込もうとし、前向きな姿勢で周囲の尊敬を勝ち得ていく。

■ジョーンズの同志にマギーを選んだ理由

ジョーンズがすぐにチームになじめた背景には、立花の打った手も関係している。彼とアトランタで入団交渉を行った際、「もうひとりの外国人選手は誰がいい?」と尋ねていたのだ。そうして獲得したのがマギーだった。楽天がリストアップしていたマギーはヤンキースでジョーンズとともにプレーし、「右の長距離砲」という補強ポイントにも合致していた。異国に来る外国人にとって、同じ言語で話せる友人の存在は心強い。立花は証券マン時代に米国勤務の経験があり、外国人の気持ちを理解していた。

マギーにとっても、ジョーンズは頼れる同志だ。2010年にメジャーで104打点を挙げたことのあるマギーは、ジョーンズの偉大さをよくわかっている。未知なる新天地で、尊敬できる選手と共にプレーできることは、マギーのモチベーションになった。2人はチームを牽引し、ジョーンズがリーグ4位タイの24本塁打を放てば、マギーは同3位の28本塁打、同2位の90打点と打線の核になっている(今季の成績は9月25日時点)。周囲は「チャンスで2人に回そう」と出塁し、得点パターンが構築されていった。

優勝を争う夏場、チーム全員で出掛けた食事の場でマギーが言った。

「俺は楽天でジョーンズと一緒にプレーできることを誇りに思う。ここまでいい成績を残せているのも、彼のいるおかげだ」

マギーだけではない。高卒8年目の今季、首位打者を争うまでになった銀次は、飛躍の理由をこう話している。

「ジョーンズと一緒にプレーして、自信になった部分があります。野球をよく知っているし、試合の流れをすごく知っている。技術、精神面でいろいろとアドバイスをくれますしね。今シーズン、一緒にプレーできたことはすごく大きいですよ」

打線に核ができ、それぞれの役割が明確になった。ジョーンズやマギーの堂々たる態度を見て、周囲は触発されたものがあったはずだ。大物メジャーリーガーの持つ自信がチームに伝播し、徐々に勝者のメンタリティが育まれていったのだろう。

優勝マジック3で西武ドームに乗り込んだ9月24日の試合前、2007年から10年まで楽天でプレーしていた渡辺直人(現・西武)は古巣の変化を感じていた。

「勝つことでチームは変わります。勝利することでチームワークや団結力が出てくる。若い選手は試合で使われ、レギュラーの自覚が芽生えてきたのでしょうね。僕がいた頃にレギュラーでなかった選手が、今季はたくさん出てきています」

■「成功できる」という自信

負けが込めば込むほど、人は自信を失いがちだ。立花はそんなチームを一気に変えるべく、ジョーンズとマギーを米国から連れてきた。そして彼らが最大限に力を発揮できるよう、裏で環境を整えた。

マギーが言う。

「ヨウゾウは英語がとてもうまく、よくコミュニケーションを取っているよ。ラグビーやビジネスで成し遂げてきた話を聞いたが、彼は戦略性を持って動ける人だと感じている。当然、球団の経営をうまく行おうとしているが、いちばん考えているのは、チームをどうやって勝たせようかということがよく伝わってくる」

楽天で1年間戦い、マギーは周囲の変化を感じている。

「チームには、成功できるという自信が増している。それが日々の勝利につながっていると思う。イーグルスはここまですばらしい戦いをしてきたが、われわれにはポストシーズンがあるし、勝ち続けなければならない。イーグルスがなすべきことは、まだ始まったばかりだ。チームと共にこういう状況にいられて、本当に幸せだよ」

■優勝に続く、もうひとつの使命

強力な“助っ人”外国人が起爆剤となり、初優勝を飾った楽天イーグルス。実は、選手への総年俸は今季、昨季ともに約23億円で変わっていない。推定年俸でジョーンズに3億円、マギーに1億円+出来高の契約を結んでいるものの、活躍していなかった5人の外国人選手と昨季限りで契約を打ち切り、戦力として見込める有力選手にしかるべき報酬を払うように変えたのだ。今季のチーム総年俸は広島、DeNAに次いで少ないが、的確に補強すれば十分に戦えることを示している。

昨年8月に立花が就任したとき、求められた使命は優勝と球団経営の黒字化だった。前者は達成した一方、後者はまさに取り組んでいる最中だ。昨年はスポンサーが15社増え、観客動員数が1万7000人以上増加したにもかかわらず、約9億5000万円の営業損失を計上した。球場改修に伴う減価償却費=約9億円が大きく響いた格好だ。

今季はチームの好調が最大の要因となり、観客動員数は昨季比で1試合平均7%アップしている。チケットが完売した試合は昨季の5度から、今季は8月までに9度を数えた。勝つことでチームを魅力的にし、ファンを引き付けようというのが立花の描く黒字化への道筋だ。
「『優勝できるようにチームが強くなる』=『ファンが増え、球団の収入がアップする』のスピード感が一緒でなければ、経営的にうまくいかない。そうしたプロスポーツの永遠の課題を、乗り越えていかなければならない」

リーグ初優勝を決める1カ月前、社員たちから就任1周年記念でプレゼントされたエンジ色のネクタイを締めた立花は、クリネックススタジアム宮城でこんな話をしていた。

「自分は今までの土台にトッピングしているだけ。私がやったのは1〜2%。5年後に私の真価が問われる。まだ始まったばかりだと思う」

2013年の秋、現場の選手や監督、コーチ、裏方と勝利の美酒を味わった立花は、すでにもうひとつの使命達成に目を向けている。

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立花陽三(たちばな・ようぞう)
楽天イーグルス社長 1971年東京生まれ。1990年、慶応大学総合政策学部に入学し、ラグビー部で活躍。卒業後、ソロモンブラーズ証券に入社。ゴールドマン・サックス証券を経て、メリルリンチ日本証券にて、債券営業統括本部長として活躍、11年に常務執行役員に就任。12年8月より現職
中島大輔:スポーツライター

東洋経済新報社

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