米ヨシダグループ会長吉田潤喜さん 母の愛をソースに込めて(4)

■生後間もない長女の病状は病院の献身的な治療で回復した。退院時の入院費や治療費が気になった。

保険にも入っておらず、正直言って多額の治療費を請求されたらどうやって工面すべきか悩んでいました。ところがです。請求書に書かれていた金額は250ドルでした。「そんなはずはないやろ。何が何でも安すぎる」と病院の窓口に恐る恐る聞いてみました。

「娘さんの治療費は地域の人たちからの寄付金で賄います。お金のない人たちのために病院の理事会は日ごろから一生懸命、寄付を集めているのですよ」と言うではないですか。大変驚くと同時に「米国で成功して絶対に恩返しをする」と誓ったのを覚えています。

■景気の冷え込みで空手道場の生徒数の激減に見舞われ窮地に立つ。その時に思い付いたことがソース事業の起業につながる。

ワシントン州とオレゴン州の日本空手道連盟の主席師範に任命されてしばらくすると、米国北西部地区の警察官を対象に空手を使った逮捕術の指導をすることになりました。ゴンタクレ(暴れん坊)の京都の時代は警察に追われていたのに、立場が逆転して警察官をドツいてお金がもらえるなんて面白いですよね。

三女も生まれ、幸せな家庭生活がようやく送れるようになってきた直後、1980年代初めのカーター政権末期の景気後退で道場の生徒が3分の1に激減し、再び生活が苦しくなったのです。81年のクリスマスでは生徒からプレゼントをもらったもののお返しができないくらいお金に困っていました。

そこで閃いたのが私の母親直伝のソースを作ってお返しすることです。子どもの頃、京都で営んでいた焼肉店のタレがヒントになりました。しょうゆ、みりん、砂糖などを8時間じっくり煮込んでトロッとしたソースのできあがりです。瓶詰めして妻のリンダがそれにリボンを結んで生徒たちへのプレゼントにしました。

ソースは生徒やその家族に大評判で「まだあるならもう1本下さい」とか、「お金を払うから」という人も出てきました。「これは商売になるかもしれん」と考えて起業を決意し、道場の地下室に簡単なソース工場を設けました。

■スーパーの店頭に「ヨシダソース」を置いてもらおうと奔走するが現実は厳しかった。

広告宣伝費などありません。スーパーの仕入れ担当者と交渉すると「宣伝していないなら扱わない。ここに何をしに来たのか」と相手にしてくれません。一度でも口にしてもらえたらおいしさが分かってもらえる自信はあり、そこで実演販売を思い付きました。

京都の商店街で見ていましたので要領は心得ています。「パパさん、ママさん、カモンベイビー。チキンとポークによく合うよ」。口上だけでなく、もっと目立つように着流しにテンガロンハット、そして下駄という奇想天外な衣装で店頭に立ちました。

大手スーパーにもようやく置いてもらえたのですが店の片隅にある「オリエンタル(東洋)フード」の棚でした。「これはアカン」と思いました。他のスーパーも大手に倣って同様な売り場に並べられてしまうと米国人に手にとってもらえません。担当者に「普通のソース売り場に置いてほしい」と頼みましたが「実績がない」の一点張り。こっちが目指したのは著名メーカー「ハインツ」の隣です。

一計を案じ、この大手スーパーの二十数店舗に家族だけではなく従業員も繰り出して実演販売を一斉に展開する作戦に打って出たのです。販売実績は上々でした。大手スーパーの本部ではその好調な売り上げを見て、ソース売り場に並べてもらえるようになりました。最初は私を邪険にしていた仕入れ担当者は今度は逆にチラシでヨシダソースを紹介してくれるようになりました。後になって担当者は「おまえのような奴は初めてだ」と褒めてくれました。うれしかったですよ本当に。何事も信念を貫いていくとちゃんと評価してくれるのが米国ですね。

業容拡大のために84年に工場を新設しましたがこれが裏目に出ました。投資負担が重く、経営が急速に悪化したのです。破綻を覚悟しました。

(聞き手は編集委員田中陽)

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。