馬場彰(13)大役

三越との取引まとめる
岡田氏に記念セール直談判

「三越と取引を始めたい。話をまとめてきてくれ」

樫山の創業者の樫山純三社長からこんな指示を受けたのは1969年5月のことだ。「三越には岡田茂というやり手の役員がいる。彼と一緒に話を進めてほしい」という。

紳士服営業部の課長だった私は「面白いことになったぞ」と腕まくりした。樫山はすでに業界大手に成長していたが、なぜか百貨店のなかでも三越とは取引がなかったからだ。

樫山社長は会社を興す前、三越で丁稚奉公していた経験がある。三越は言わずとしれた百貨店の老舗。「樫山などと取引しなくとも別に困りはしない」。一時はこう考えていたのかもしれない。

ところが、樫山の芝浦第1ビルを増築した際の式典に三越の松田伊三雄社長がやって来て樫山社長と初会談し、取引を始める案が急浮上したのだ。背景には樫山の業績拡大があるのは言うまでもない。

まだ課長だった私にこの大役が任されたのは、人前でも物おじしない性格が見込まれたからだろう。複数の百貨店で「オンワードセール」を成功させてきた手腕も評価されていたためかもしれない。

早速、私は日本橋にある三越本店を訪れた。これまで様々な百貨店を訪れてきたが、営業マンとして三越の店舗に足を踏み入れるのは入社以来、初めての経験だった。

「樫山の馬場です。取引を準備するために来ました」

「おお、君が樫山の馬場さんか。よろしく頼むよ」

岡田氏は実務を取り仕切っている実力者。後に社長になる人物である。威圧感はあるがざっくばらんで人の主張には丁寧に耳を傾ける。決断も速い。(この人なら話が通じる。大きな商売ができそうだ)私は一目でこう直感した。

すでにトップ同士が合意したプロジェクト。後は実行するだけなのだが、この作業が大変だった。議論したのは両社約10人ずつの役員会議。ところが当時の三越側の官僚主義的な風土が壁となり、なかなか前へ進まないのだ。

私がやりたいのはほかの百貨店でも成功した「オンワードセール」の拡大版だった。

「三越の顧客名簿からはがきを出し、最上階でセールをしたい。さらに全フロアに樫山の新製品コーナーを作りたい。ショーウインドーの展示もすべて任せてほしい」

こう提案するとにわかに三越の役員がざわついた。「1社による大型セールは前例がない」というのだ。タイミングが悪いことに、頼みの岡田氏は中座し、そのまま所用で外出してしまった。船頭がいなければ結論は出ない。

「時間の無駄……」。こう悟った私は会議を打ち切り、後日、岡田氏に直談判することにした。「岡田さん。今回は両社が取引を始める記念すべきイベントになります。チョロチョロとやっていても仕方がありません」。私は熱弁を振るい、理解を求めた。

じっと耳を傾けていた岡田氏はソファのひじ掛けをピシャリとたたき「うん、面白いじゃないか。その案で行こう」と即決した。そうなると話は早い。とんとん拍子で準備が進み始め、69年8月には三越本店で取引開始の記念セールが大々的に催された。

売り上げは3億円を記録。「樫山が(本店玄関にある)三越のライオンの目を覚まさせてくれた」。後日、岡田氏からこんな言葉をいただき、私は胸が熱くなった。

(オンワードホールディングス名誉顧問)

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