馬場彰(10)譴責

勤務中マージャン、処分
上司が自腹で「賞与」10万円

私は抜群の営業成績を上げていた。基本戦略は団結力ある戦う軍団をつくること。幼いころから、これにはかなりたけていたかもしれない。

ケンカでも運動会の騎馬戦でも、戦う限りは絶対に負けたくない。そのためにはいつも自らが戦いの先頭に立ち、部下に手本を示すことが大切なのだ。

「皆、ご苦労さん。この調子で前年実績の2割増を達成しよう。エイ、エイ、オー」

朝夕の挨拶では売り場で円陣を組み、他社の販売員が振り向くほどの大声で気勢を上げた。少々ひんしゅくを買おうと構わない。単純なことだが、これをやるとやらないとでは働きぶりが違うのだ。

私のチームは徹底した体育会気質だった。「青白き秀才はいらない」。私はこう言ってはばからなかった。販売員もよく飲みに連れて歩いた。「無敵の騎馬隊を作る」。こんな気概に燃えていた。

私が提案した営業戦略に「オンワードセール」がある。1964年の東京オリンピックに向け、高度経済成長が続いていた。大量生産、大量消費がファッションの分野でも始まり、メーカー同士のシェア争いが激烈になっていた。

ある日、私は百貨店の売り場責任者にこう申し出た。「店の最上階で樫山ブランド『オンワード』を集めた一大セールを仕掛けたい。販売員はこちらで派遣しますから」

百貨店は売り場に目玉が欲しかっただけに、これに異存はなかった。「その代わり……」。私は条件を切り出した。「全フロアに樫山の新製品コーナーを特設してほしい」

セールには百貨店の得意客だけ選んではがきを送る。その経費も当社が負担する。ただブランドイメージは壊したくないので新聞広告は打たない。最上階でセールをするのは、客が下の階へと移りながら買い物する「シャワー効果」が期待できるからだ。

この作戦はズバリ当たった。西武、東武、伊勢丹、東急、小田急、高島屋……。取引のある百貨店はほとんど乗ってきた。1回で2、3億円は売ったと思う。樫山にとっても在庫処分とシェア拡大が実現できるので一石二鳥だ。

当時の年商が約70億円だから貢献度は絶大だった。私は有頂天になっていた。少々調子に乗りすぎていた。ノルマを半月で達成してしまうので残りを翌月分に回し、勤務時間中に堂々と部下とマージャンをして遊んでいたのだ。

だが、ついにそれが会社にばれてしまった。ある日、会社の掲示板にこんな譴責処分が大きく張り出された。

▼以下の者、職務怠慢により減給と降格に処する。馬場彰、○○、△△、××――

対象は約10人。私は賞与を大幅に減らされ、係長から主任に降格になった。風紀が乱れるのを懸念したのだろう。見せしめの意味もあったと思う。明細を確認すると、賞与は半分以下に減っていた。

さすがにションボリしていると、東京支店長の杉本一幸氏から個室に呼び出された。「マージャンの件では深く反省してほしい。だが君が頑張っているのは分かっている。これはオレの気持ちだ。まぁ、何も言わずに取っておけ」。こう言って10万円ほどの札束をポンと差し出した。自腹で賞与を穴埋めしてくれたのだ。

上司の温情が身に染みた。以後、勤務時間中に二度とマージャンはしないと心に誓った。譴責処分は6カ月で解除。賞与も肩書も元に戻った。

(オンワードホールディングス名誉顧問)

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