美輪明宏さんに聞く 「ヨイトマケ-」時代を超えて愛される名曲の理由

「かあちゃんの唄こそ世界一」。

昨年おおみそかのNHK紅白歌合戦に初出場した美輪明宏さん(77)の「ヨイトマケの唄」は、お茶の間に衝撃を与え大きな話題となりました。半世紀近く前に発表されましたが、歌詞に含まれる言葉が問題視され、表舞台から姿を消していた名曲がよみがえった瞬間でした。(櫛田寿宏)

◆まとも回帰

インターネットの掲示板に書き込まれた「ヨイトマケ-」に対する賛辞の数々。「ほめてくれるのはありがたいけど、恐縮してしまう」という美輪さんが、その一つを紹介してくれた。

「ひとつの歌が日本国民の意識を正常化に向かわせたのは初めてのできごと」

「ヨイトマケ-」は昭和40年にレコードが発売された。貧しい家庭の少年と、工事現場で泥まみれになって働く母親を描いた、約6分のドラマチックな歌だ。紅白以降、美輪さんのCD全集は前年の数倍の売れ行きとなっている。その理由を美輪さんは「真実、親子の情愛、無償の愛…。今、みなさんが欲しがっているものが入っているので支持されたのだと思います」と分析した。

美輪さんは、今の日本に「まとも回帰」現象が起きているという。テレビ番組は人に暴力を振るったり恥をかかせたり。小説や映画も恐怖やスリルなどを感じさせるものが多い。「文化の作り手の側はクールやニヒルでいることがかっこいいと考えているけど、そんな考えは過去のものになった。人々は心が温まる『まとも』なものを求めているんですよ」と話す。

◆“放送禁止歌”に

美輪さんがこの歌を作ったのは五十数年前。作った理由は「こういう歌がなかったから」。当時、シャンソンは上流階級の婦女子の優雅な趣味ととらえられていた。問題意識を持って、怒りを込めて何かを告発するために歌うシャンソン歌手もいたが、そうした歌は下品だといって受け入れられなかった。そんな状況に我慢できなかった美輪さんが渾身(こんしん)の思いを込めて発表した作品なのだ。

テレビで「ヨイトマケ-」を歌ったところ、大きな反響を引き起こした。レコードは大ヒットしたが『土方』などの差別表現を含むと判断されて民放の「要注意歌謡曲」に指定されてしまったのだ。後に指定制度が廃止されるが、以来、“放送禁止歌”という実体のないレッテルが張られてしまった。

平成10年に泉谷しげるさんが「ヨイトマケ-」をカバーした。それ以降、桑田佳祐さんや槇原敬之さんら数多くのアーティストが歌い、名曲として認識されるようになった。それでも、紅白歌合戦というひのき舞台で歌われるまでには、さらに多くの時間を要した。

常に美を追求する美輪さんが、この歌の中で非常に醜い人間を演じている場面がある。主人公の「ヨイトマケの子供」を別の子供たちがいじめるところだ。「いじめる側の人間は劣等感のかたまりで、頭が悪くて、それをごまかすために暴力を振るっていじめるんです。そんな卑しい心根に気づかないでいる。そのことを教えるために、なるべく嫌な顔をして表現しています」と説明した。

美輪さんは、「学校教育に修身の授業を復活させるべきだ」と力説する。「いじめることは、自分はバカです、劣等感のかたまりです、醜い心を持った人間です、と言いふらしているようなもの。だからやめましょうねと全国一律で教えれば、きっといじめはなくなります」。紅白での熱唱はそんな思いを込めた問題提起なのだという。

◆時代を超えて

美輪さんは幼少時、勉強ができて級長や副級長を務めることが多かった。自身がいじめられることはなかったが、いじめられる子供がいると、いつもかばった。「いじめられる子は優しくて、心がきれいで、傷つきやすくて。それで抵抗できないんです。だから守らなければいけない」と力を込める。

美輪さんは自分が子供のころ耳にした、いじめられっ子とその母親のやりとりが、今も忘れられないという。

「勉強ができたり、お金があったり、けんかが強いから偉いんじゃないよ。人間で一番偉いのは、お天道様の前で胸を張って一生懸命生きる人なんだ。正直に生きることなんだ。だからお前は偉いんだよ」

どんな時でも自分を肯定しようとする態度。「自分が自分の味方にならなかったら浮かばれないでしょ。あの歌には、そんな気持ちが込められているんです」。時代を超えて愛される名曲には、それが名曲たる理由があった。

■美輪さん「今の音楽はすぐ消えてしまう」

--今、「ヨイトマケの唄」が評価されて何か変わりましたか

「60年間ずっと同じスタンスでやってきました。それはこれからも変わりません。本物を作り続ければ、いつかは世間が評価してくれるものです」

--今の音楽をどうみますか

「ヒットチャートを意識して売れることだけを考えて音楽を作っています。だから似通ったメロディーになってしまう。歌詞もツイッターみたいになる。だからすぐ消えてなくなってしまう」

--人々はどんなものを求めていますか

「野球の斎藤佑樹選手やプロゴルフの石川遼選手、体操の内村航平選手のような存在です。世界に通用する技術があるのにさわやかで礼儀正しい。謙虚。決して相手の悪口を言わない。こういう人たちが支持される。でも、文化を発信する側の人たちはよく理解できないでいます」

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■美輪明宏(みわ・あきひろ)

昭和10年、長崎県生まれ。国立音大付属高校を中退し、16歳でプロの歌手として活動を始めた。類いまれな美貌で人気を集める。シンガー・ソングライターのさきがけとして活躍。32年、「メケメケ」を大ヒットさせた。俳優としての活動も注目を集めている。江戸川乱歩原作、三島由紀夫脚本の「黒蜥蜴(とかげ)」は空前の大絶賛を浴び、深作欣二監督で映画化もされた。「黒蜥蜴」は4月5日から5月6日まで、東京・銀座のルテアトル銀座で上演される。

朴 智星 パク・チソン 「日本人のイメージは良くなかった」

若くて右も左もわからなくて、とんがっている時に日本に来ました。
最初は学校で習ったように、日本人に対してのイメージは良くありませんでした。でも日々暮らしているうちに全然違うと気がつきました。

特に日本のクラブに来た日から毎日必ず声を掛けてくれて、悩んでいる時に相談を聞いてくれたカズさんは人生の師です。

「カズさんのようになりたいです。」
と言った時にカズさんが、急に真顔になり、話してくれた言葉は自分の人生を変えるものでした。

「いいかい、智星。
自国以外でサッカー選手として、生き残るのは本当に困難だ。
最後までサバイバルする選手に、一番必要なものは何かわかるかい?

技術じゃない。
そのクラスの選手の技術は、みんな同じくらい高いからね。

一番大切な事は、サッカーへの情熱。
一途の献身。
毎試合、今日死んでも悔いはないという思いで、試合に望むこと。

サッカーに人生を賭ける選手だ。

ブラジルでは、貧しくて一生スタジアムに来れない人が沢山いるんだ。
ブラジル人にとっては悲劇だよ。

智星、わかるかい。
ブラジルで、俺は試合前に、必ずスタジアム全体を見る。
この中でいったい何人の人達が、一生に一回だけの試合を見にきたんだろうと思うんだ。

すると全身にアドレナリンが溢れてきて、喧嘩した直後みたいに身体が震えてきて、鼻の奥がツーンとしてくる。
俺はそのまま試合開始のホイッスルが鳴るのを待つんだ。

うまく言えないけど、これが俺のサッカー人生だ。

智星が本当にサッカーを愛しているなら、とことんまで愛してやれ。
智星のプレーで、全然違う国の人々を熱狂させてあげるんだよ。
それは本当に素晴らしい経験なんだよ。」

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朴 智星(パク・チソン、1981年2月25日生)
韓国出身のサッカー選手。元同国代表、プレミアリーグ・クイーンズ・パーク・レンジャーズ所属。