10倍の哲学

「1グラムの試薬で足りなくてデータが出ないなら、なぜ10グラム用意しないんだ」。30歳で大学病院の勤務医を辞して徳島大学の研究施設に飛び込んだ。意気込んで実験を始めたが、不慣れで結果が出ない。藤井節郎教授の厳しい言葉は応えた。

藤井先生はコレステロールなど脂質の研究の国内の第一人者だった。大学の近くに住んで研究に没頭。休みは年に1日、研究室全員で繰り出す阿波踊りの日だけだった。

実験結果が気になると夜中の2時、3時でも呼び出しの電話がかかる。跳び起きて玄関を出ると、先生が手配した大学行きのタクシーが待っていたこともあった。そこで病院の宿直医のアルバイトでは研究室の3人でチームを作り、バイト中に呼ばれれば研究室の仲間で交代してこなした。

先生の口癖は「10倍」。一流の研究者になりたいなら、他人の10倍実験して、結果も10倍厳しく吟味する。「10倍の哲学」は先生の研究姿勢そのものだった。

指導は厳しかったが研究は楽しかった。3カ月の滞在がいつの間にか2年半に延びていた。論文や学会発表という結果も出せて、研究者としての道も開けた。
教壇に立つと今でも必ず先生の話をする。「自分に厳しくあれ」という先生の指導は研究者としての私の礎だ。

(斎藤康=千葉大学学長)

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