渡辺淳一(27)警官につかまる

彼女の部屋に男、激高
ドア越し騒動、通報される

変ないい方かもしれないが、浮気はしたが、わたしはJ子が好きだった。

しかも彼女は、わたしに新しい部屋の鍵を渡してくれていたので、日曜日の夜など、そこまで行って一緒に食事などをしていた。

そんなことをくり返していたある日、わたしは無性に彼女に会いたくなって、午前2時過ぎに、彼女のアパートに行ってみた。

そして、渡されていた鍵でドアを開けようとしたが開かない。ドアの鍵を換えたのか。わたしは不審に思ったが、こんな時間だから、彼女が中にいることは間違いない。

もしかして、他の男とでもいるのではないか。頭にきたわたしは、ドアの横の小さな窓をこじ開けて侵入することにした。

だが開けた途端に、わたしは広い空間に落ち込み、驚いてあたりを見廻すと、隣りの部屋の風呂場であった。

「やばい……」わたしは慌てて立ち上がり、再び、その窓から外に出て、一目散に逃げ出した。

途中、一度転んだが、なんとか無事に逃げることができたが、あとでJ子にきくと、鍵が簡単すぎて不安だから換えたとのこと。さらに先日、隣りの家の浴槽に誰かが忍び込んで、大騒ぎになったことなどを話してくれた。

そんな騒ぎがあったせいか、彼女は1カ月後、さらに九段のマンションに移った。

今度は鉄筋の2LDKで、ここなら間違って、隣りの風呂場に入るようなことはない。彼女はこちらの鍵も渡してくれて、わたしたちの愛は再び甦ったような気がしていた。

そんなある日曜日の午後、わたしは小説を書けぬまま、彼女に会いたくなった。

そこで九段のマンションに行き、渡された鍵でドアを開けると、少し開くが、ドアチェーンがかかっている。

そこで、「おうい……」と呼んで、ドアをバタバタさせると、なかから彼女が顔を出し、「今、お客さんが来ているから、帰って」というではないか。

どんな客なのか、わずかに開いているあいだから見ると、きちんとスーツを着た男の姿がかいま見える。

「この野郎……」

わたしは思わず叫び、直ちにタクシーを拾って近くの金物屋に行った。そこで糸鋸を買うと、再び九段のマンションに戻り、伸びたドアチェーンを糸鋸で切り始めた。

「なにをするの」「やめて!」と彼女は叫び、男も不安そうに、こちらを見ている。

そのうち、「警察を呼ぶわよ」というが、かまわず切っていると、「ピーポ・ピーポ」という警笛とともに、警官が2人駆けつけてきて、わたしを取り押さえるではないか。

「なにをするんだ、此処は俺の部屋だぞ」と叫んだが、1階に引き戻され、パトカーに乗せられた。

すると、彼女が駆けつけてきて、「この人、悪い人ではありませんから、許してやって下さい」という。しかし警官は、「一応、取り調べなければならないから」といって、近くの署まで連行された。

そこで、名前と職業をきかれたので、「渡辺淳一という、作家だ」というと、1人の警官がつぶやいた。

「そんな作家、きいたことがないな」

「ようし、今に見ていろ」

わたしはつぶやいたが、とにかく若いときはエネルギーがあり、滅茶苦茶であった。

(作家)

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