欧州で「ブッキー」急増、スポーツ・ジャーナリズムは…

今後10年でスポーツ・ジャーナリズムが大きく変わるかもしれない、と言われている。近年、急速に普及しているインターネットを使ったオンライン・ベッティング(賭け)の影響だ。

■試合リポートなどが求められてきたが

欧州ではとくに最近、試合中に目まぐるしく変動するオッズを見ながら、賭けられる「インプレー・ベッティング」に人気がある。かつては試合開始前までに窓口で手続きを終えなければならなかったが、いまはスマートフォンを使って、試合前でも試合中でも簡単に賭けることができる。

これまで私をはじめスポーツ記者は、選手のヒューマンストーリーや、試合リポートの記事を書くことを求められてきた。

しかし今後は、データに基づいた詳細な勝敗の分析や選手のコンディション、戦術などといった賭けの参考になるような記事を求められるかもしれない。

■危機か、それとも発展か

たとえば、一大決戦の前に、欧州でマンチェスター・ユナイテッド(マンU)の香川真司の記事を書いたとする。その記事が欧州でネット上に掲載されたとき、最後に「次戦で香川がゴールを決めるオッズは○倍。賭けはこちら→」というリンクが張られる日はそう遠くないだろう。

これをスポーツ・ジャーナリズムの危機として反発するか、それともジャーナリズムの発展として受け入れるか。正直いって私自身、まだ答えは出ていない。そんな判断に思慮している間にも、「ベッティング」は大きな勢力となって、スポーツ界を席巻している。

古くから英国を中心に、欧州にはブックメーカー(賭け屋)は存在した。各政府が認めた公認の賭け屋で、一般的には「ブッキー」と呼ばれる。

英国にはどこにでも路面店があって、競馬、ドッグレースのほか、サッカー、ラグビー、クリケットなど、ありとあらゆるスポーツが賭けの対象になる。

■新興ブッキーが急増

かつて住んでいたアパートの隣にもブッキーはあったし、いまのアパートの裏にも1軒ある。

だが、1度も行ったことがない。柄の悪そうな人が出入りしているし、吹きだまりのような場所だと感じていたからだ。おそらく世間一般の認識はそうだろう。

各スタジアムにも臨時支店が出ていて、地元記者たちはよく賭けている。だが英国に住んでこの14年で、2度しか賭けたことがなった。

最近は路面店を持たない、インターネット上のみの新興ブッキーが急増している。サッカーの各クラブのユニホームの胸スポンサーを見ると、一目瞭然だろう。

かつて2002年から2シーズンにわたって、稲本潤一(現川崎)がフラムでプレーしたとき、胸スポンサーだった「ベットフェアー」。00年に創設されたオンライン・ブッキーが、いまや年商約4億ポンド(約520億円)という一大企業へ成長した。

■多くのクラブの胸スポンサーに

胴元が決めたオッズによる既定の賭けだけではなく、オッズをネット上で売り買いする「ベッティング・エクスチェンジ」の最大手として売り上げを伸ばしている。

昨季後半、宮市亮がボルトンでプレーしたとき、着ていたユニホームの胸スポンサー「188BET」。今季ウィガンの胸スポンサーである「12BET」は、すべて新興のオンライン・ブッキーである。

今季レアル・マドリードの胸スポンサーである「ビーウィン」は1997年に創設。タックスヘイブンのジブラルタルに本社を置く、この世界では老舗に分類されるブッキーだ。

ほかにも今季、プレミアリーグだけでも、ウィガン以外に、アストンビラ、ストーク、スウォンジー、ウェストハムの胸には、それぞれオンライン・ブッキーの名前が掲げられている。

いかに欧州のサッカー界にベッティングが深く浸透しているか、分かるだろう。

ロンドン五輪期間中、現地入りした何人かの友人たちが、このオンライン・ブッキーを利用していた。

なでしこジャパンや男子のU―23日本代表が好調だったこともあり、それなりに小遣いを稼いだようだ。賭け方は単純な勝ち負けのほか、スコアを当てるものや、得点者、また試合最初や最後の得点者など、いくつも賭け方がある。

私自身、五輪中はやらなかったのだが、先日、これも時代の流れ、と観念した。自分のスマホにあるオンライン・ブッキーのアプリをダウンロード。会員になって、実際に賭けてみた。

1ポンド(約130円)、2ポンドと少額だが、賭けたとたん、何の感情も持っていなかったそのチームが、自分のチームになる。勝ってほしいし、賭けた選手にゴールを決めてほしい、と痛切に願うようになる。観戦していても、ついつい力が入ってしまう。

話題の試合中にオッズが変動する「インプレー・ベッティング」も試してみた。7日に行われた欧州チャンピオンズリーグで後半4分にマンチェスター・ユナイテッドが敵地でブラガに失点し、0―1となった。

この時点でマンU勝利のオッズは7.5倍まではね上がった。これは好機と見て、1ポンド賭けてみた。

マンUのファンではないが、後半35分のファンペルシーの同点ゴール、ルーニーのPK、終盤のエルナンデスのゴールで、最終的には3―1逆転勝利。実に爽快な気分だった。

■のめりこんでしまう危うさ、その一方で…

自ら経験してみて分かったが、これは実に危険だ。面白すぎる。のめりこんでしまう危うさがある。

しかし一方で、もしかしたら、スポーツをより楽しむツールとして有効かもしれない。誰でもどこのクラブの即席ファンになることができるからだ。スポーツのファンを増やし、もっと競技の本質を追求するきっかけになる可能性があるかもしれない。必ずしもオンライン・ベッティングはネガティブな側面だけではない気もしている。

まだ結論づけるには早すぎので、もう少し自分自身で、経験を積んでみたいと思っている。

サッカージャーナリスト 原田公樹

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