根岸英一(25) 晩さん会

王女の隣席、会話弾む
平常心でスピーチ、充実感

ノーベル賞の授賞式と晩さん会が執り行われる12月10日。2010年のこの日の感動は、言葉では言い尽くせない。

コンサートホールでの授賞式は午前中にリハーサルを行い、昼食後に2時間余り格調高く繰り広げられる。じゅうたんが敷き詰められた舞台に王室と私たち受賞者、その後ろに審査員らが並び、物理学、化学、生理学・医学……の順にファンファーレが鳴り響く。各受賞者の業績の紹介後、カール16世グスタフ国王から1人ずつ賞を授与された。緊張するかと思ったが、さすがに年の功でそれは全くなかった。

日の暮れた夕方5時ごろ、隣の市庁舎で晩さん会が始まる。前夜にアタッシェのエクレフさんは、私とすみれに「3」と「5」と書かれたカードを渡し「一番ラッキーなカードをもらいましたね」と話した。晩さん会場の中央、一直線に並ぶ100近い席があるテーブルに向かい、緩やかで広い階段を上階から下りていく順番とお相手を示した数字だった。容易に想像できるように1は国王、2は王妃とのペアになる。3の私はビクトリア王女のエスコート役を拝命した。彼女の弟が4で彼女の夫君が5。すみれのエスコートとなられた。

晩さん会には千数百人はいただろう。私と妻はほかに最多12人までを招待できたが、娘2人の夫婦、すみれの兄の鈴木健次夫妻、パデュー大学長を含む関係者で枠を使い切ってしまった。大変な苦労の末、お世話になった4人を加えて総勢18人となった。会場では学生と思われる若者が給仕役となり、百数十人が軍隊調の指導官の笛を合図に一斉に動き出す。すばらしい味とともに忘れ得ぬ思い出として脳裏に焼き付いている。

食事が一段落していよいよスピーチの時がきた。物理学賞代表のガイムさんに続き私が演台に向かった。若い男性が「エイイチ・ネギシ」と極めて正確に私の名前を発音するのを聞き、台上で思わず「私のファーストネームを外国人がこれほど正確に発音するのは初めてだ」と話すと、会場が和んだ。約4分半、自分でも信じられないくらい平常心でスピーチを終えた。拍手のなかを自席に戻り、安堵と充実感に包まれた。

隣に座られたビクトリア王女とは1時間半ほど会話が弾んだ。世界の文化や経済、平和から私の専門の化学まで話題は尽きず、彼女の知識の広さと知性の高さに感服するばかりだった。思わず「週に何回ほど公式の会に出席されるのですか」と聞くと「5回でしょうか、6回でしょうか」とお答えになりびっくりした。続けて「その多くのイベントの中で、この晩さん会はどのあたりにランクされるのですか」と尋ねると、すかさず「1番です」と答えられた。改めて国を挙げてノーベル賞に強い関心と力を注いでいる事実を認識した。

準備と連日の行事で疲れの限界に達したのか、すみれが王女夫君の隣で居眠りを始めてしまった。事前に夫君が「授与式の時に少し居眠りをしていましたね。今夕は私がよほどつまらない男と思われるかもしれませんから寝ないでくださいね」と伝えていたが効果はなかった。晩さん会後、夫君に謝りにいくと「心配しないでください。私たちも時々うとうとすることはあります」と、ほっとするお言葉を頂いた。

(有機化学者)

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