根岸英一(21) 発見とは何か

10項目の条件考える
豊富なアイデア、特に重要

「その反応はどのように発見したのですか?」。パデュー大の教授に就き各地で講演していた時のこと。コロンビア大でのセミナーでR・ブレスロウ教授が突然質問した。

ジルコニウム触媒を用いた「アセチレンのカルボアルミ化」という新しい反応を発表したばかりだった。新反応を発見と呼んでくれたことは素直にうれしかったが、そこでハタと考えてしまった。

ある水準以上の発見が限りなく続いて有機合成化学の未来は切り開かれていく。新反応の発見は、有機化学者に課せられた最大の使命の一つのはずだ。それに関する質問に対し信念に基づいた即答ができないとは、大変ふがいないことではないか。

この質問に対する一義的な答えがあるなら、誰でも毎年あるいは毎月のように何かを発見してしまうだろう。新反応に限らず、発見はそう簡単ではない。あれこれ考え私なりの発見・発明の条件をまとめた。十数年前に日本の専門誌の巻頭言で初めて披露し、その基本は今でも変わっていない。それは10項目ある。

発見の大前提には「何が欲しいか」という(1)願望と「何を必要とするか」という(2)ニーズがある。そしてそれを目指す(3)作戦あるいは計画を立てなければいけない。

発見に向けて最も大切な項目は、ブラウン教授に学んだ(4)系統だった探索だ。ただしこれを進めるためには、知性的な側面から3つの項目が欠かせない。(5)豊富な知識と(6)豊富なアイデア、そして(7)正確な判断だ。

アイデアは計画の実現のために特に重要だと考えている。大学の研究で学生や博士研究員がアイデアを持ってきた時、私は必ず「ほかにどういうアイデアを考えているのか」と聞いている。少なくとも5~10個、望ましくは20~30個のアイデアを持ち、最良と思われるものを検討すれば、よい結果に結びつく確率は高くなるはずだ。

知性面以外にも必要な条件が2つある。探索に向けた(8)意思力あるいは意欲と、探索をあきらめない(9)不屈の行動力だ。私自身「エターナル・オプチミズム」という姿勢を貫いてきた。日本語に訳すと「永遠の楽観主義」になってしまうが、ここには絶対にへこたれないという意味合いが含まれている。

実際に実験を始めると、うまくいくことはほとんどない。では何回、失敗を続けられるのか。私は思ったような結果が1カ月出なければ、いったん棚上げする方針を決めている。別のテーマに取り組んでいるうちに、失敗した実験がだんだん客観的にとらえられるようになる。違う視点から別のアイデアが浮かび、再挑戦する。それを繰り返してきた。

発見の条件の10番目の項目は「セレンディピティ」だ。スリランカの3人の王子が思いがけない発見をする昔話に基づくこの才能は、最近とても重要視されている。しかし私は最後に置いた。多くの場合にセレンディピティがなくとも発見は可能と考えている。中心はあくまで、系統だった探索だと確信する。

テレビ番組でこの発見の条件を話したら、音楽家の松任谷由実さんが見ていて感激し、対談に招いてもらえた。私も感激した。

(有機化学者)

発見の10項目

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Bubbles of river disappear rapidly.

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