根岸英一(16) 触媒探し

日本人研究者が貢献
パラジウムの活用進める

ニッケル触媒と有機アルミニウムの組み合わせで行うクロスカップリングは1976年夏、大阪市立大出身の博士研究員の馬場茂博士が発見した。私はブラウン先生の一人息子のチャーリー君と、カリフォルニア州サンノゼにあるIBMの研究所で全米科学財団の支援を受けて2カ月間共同研究をしていた。

このクロスカップリングは優れた方法だが、幾つかの問題も提起していた。例えば「トランス・トランス・ジエン」という化合物群を合成する時は95%の純度で得られたが、「トランス・シス・ジエン」の場合は純度が90%に落ちてしまった。そこで「周期表歩き」が始まった。最も基本的な考え方をすれば、縦に並んだ同じ属の金属は似たような化学反応特性を示すはずだ。それでニッケル、パラジウムと白金の3つの金属を対象に特性を比較してみた。

パラジウムは触媒活性が十分に高いだけでなく結合部位の選択性がほぼ100%で、先の反応例で得られる化合物の純度はいずれも99%以上に向上した。76年に発表したこの結果は詳細な比較検討に基づき、クロスカップリング反応でパラジウムがニッケルより優れた触媒であることを示した最初の報告となった。

パラジウムはニッケルに比べ最近の相場で1000倍ほど高価だが、触媒の使用量は100分の1以下で済む。経済的には十分引き合い、パラジウム触媒はクロスカップリングに最も適していると認められた。ノーベル賞の授賞理由に「パラジウムを触媒に用いたクロスカップリング」と明記されたのもこれらの結果に基づいてのことだと思う。

一連の成果で自分でやっていけるものを見つけたと感じた。米国の大学は実績を残せない研究者に対し非常に厳しい。シラキュース大でも当時、助教授として雇われて数年もすると、2人に1人は外に出されてしまい、競争は激しかった。「そのうち実力を発揮できる時が来る」。そう信じて続けたかいがあった。

この分野で日本人研究者の貢献は大きい。大阪大の村橋俊一教授や大阪市立大の薗頭健吉教授(いずれも当時)らも個別に、パラジウムを触媒に使う報告を出していた。村橋教授のパラジウム―リチウムの組み合わせは先端的だったが、応用範囲が狭いのが課題だった。薗頭教授の反応も広く応用されているが、アセチレンの合成に限られる。

北海道大の鈴木章教授と宮浦憲夫助手(いずれも当時)は79年にパラジウムとホウ素を組み合わせたクロスカップリングを開発した。鈴木教授は私より前にパデュー大のブラウン教授の研究室で博士研究員を務め、日本に戻り有機ホウ素化合物を使う研究を続けた。2010年のノーベル化学賞を私と一緒に受賞したのは皆さんご存じの通りだ。

群馬大では小杉正紀、右田俊彦両博士が77年にパラジウムとスズを組み合わせたクロスカップリングを見つけた。この組み合わせはコロラド州立大のJ・K・スチレ教授も79年に発表し、米国で一時期盛り上がったことがある。ただスズには毒性があり、個人的には慎重に扱うべきだと思っている。また現在、中央大の檜山為次郎教授(京大名誉教授)らは88年にパラジウムとケイ素によるクロスカップリングを開発した。日本の強い伝統は続いている。

(有機化学者)

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