根岸英一(15) 新手法を探る

「レゴ」の発想から合成
「周期表歩き」で得た好結果

ブロックを組み立てるおもちゃ「レゴゲーム」をご存じの方は多いだろう。私はこのレゴゲーム的な方法で、もろもろの有機化合物を合成できないかと考えていた。

着想は1962年のペンシルベニア大時代にさかのぼる。A・R・デイ教授の指導で研究実験をしたが、半年ほどは失敗が続き自分の未熟と不出来を痛感した。同時に当時の有機合成が極めて不完全で迂回の多いものだと気付き、抜本的に改革した方がいいと確信した。思考の末たどりついたのがレゴゲームのようにやる有機合成だ。様々な場合でうまくいけば、有機合成の設計も操作も極めて簡単になると考えた。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」で歌われる「ナッシング・カムズ・フロム・ナッシング」(無から有は生まれない)ではないが、文献を調べるまでもなく、有機マグネシウム化合物(グリニヤール試薬)を用いた「クロスカップリング」が百年以上前から知られていた。発見者のグリニヤールは有機マグネシウム化学の広範囲な研究でちょうど百年前の12年、ノーベル化学賞を同じフランスのサバティエと分かち合った。

有機マグネシウム化学は今でも広く使われる合成法の一つだが、グリニヤール試薬を用いるクロスカップリングに限れば、応用範囲は極めて狭く不十分といえる。

少し専門的になるが、化学反応には基本的に満たされるべき2つの条件があり、その1つは反応が全体として下り坂であること(熱力学的条件)。クロスカップリングの場合、この点に問題はないが、ほとんどの化学反応につきものの越えねばならぬ坂(反応速度論の条件)が高すぎるのだ。いかなる化学反応にもあてはまるが、触媒とはこの上り坂を何らかの手段で低くするものにほかならない。

ブラウン教授の助手になった68年ごろ、ハーバード大のコーリー教授らが生理活性物質「プロスタグランジン」の合成法を研究し、その過程で「アルキル銅」が使われた。ただこのアルキル銅は、ブラウン教授の「ハイドロボレーション」を利用してアセチレンから生成した「アルケニルボラン」を幾段階も経て変換する必要があった。ブラウン先生から「もっと簡単にできる方法を見つけては」と提案され、あれこれやってみてうまくいかないまま72年にシラキュース大に移った。

ここで私は新たな研究法を加えた。周期表にある100種以上の元素全てを考慮しようという「周期表歩き」だ。毒性や放射性のある元素を除くと、実際には約10の有機元素と約60の金属の合計約70になる。これでは少ないが、70の元素の2種の組み合わせを考えれば、ほぼ5千の選択肢になる。化学的な問題の答えは全て元素の周期表の中にあるはずだ。

シラキュースではまず銅を触媒として使えないかと考え、銅―ホウ素の組み合わせを試した。しかし苦戦が続く。そんな時、京都大熊田誠研究室の玉尾皓平さんがニッケル―マグネシウムの組み合わせでクロスカップリングに成功したと知り、ニッケル―ホウ素の組み合わせを試みた。それでもよい結果は得られない。

そこでホウ素のすぐ下にあるアルミニウム、つまりニッケル―アルミニウムの組み合わせを試みたところ「これはホームランだ」と思う結果が得られた。

(有機化学者)

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