根岸英一(12) パデュー大

系統的な探索法学ぶ
新分野開拓 一対一で指導

米インディアナ州には州立の二大総合大学があり、パデュー大はインディアナ大と並ぶその一つだ。学生数は大学院生を含め約4万人、米国でも屈指の規模を誇る。工学部の水準は非常に高く、色々なランキングで全米ベスト10に入る。初めて月面に降り立った宇宙飛行士、ニール・アームストロング氏の出身校で宇宙航空工学の知名度は高く、学内に専用の飛行場もある。

米国中西部の田園都市、ウエストラファイエット市にある。シカゴから南に向かって車で2時間ほど走ったところ。その間はひたすら、原野が広がる。川をはさんで隣に古くからのラファイエット市があり、人口は合わせて十数万人になる。ここに富士重工業といすゞ自動車の合弁会社が1987年に進出して日本人が増え、日本食レストランもできた。

ブラウン先生は47年にパデュー大の教授に就任した。ホウ素化合物を用いる新しい有機合成法、ハイドロボレーションを56年に開発し、私が加わった時は極めて精力的に研究を発展させていた。

もともとは英国ロンドンで12年に生まれ、2年後に米国へ移住した。シカゴ大に入学して2年で単位を取って卒業し、博士課程も2年で修了したという英才だ。人柄は非常にまじめ。研究に対する姿勢はすばらしく、私は研究と教育の手法の多くをブラウン教授から学んだといってよい。

先生の口癖は「大きな樫(かし)の木も小さなドングリから」。新たな研究の兆しを見つけた時、それをどうやって大きく広げていくかを、論理的で綿密に考えていた。実験も勘を頼りにするようなことはなく、系統的・網羅的な方法で追究していた。

2人の研究者が同じ実験をしたのに違う結果が出たり、1人で同じ実験を繰り返して異なる結果が出たりした場合、ブラウン先生は「何が起きているかを正確に調べることが一番大切だ」と強調し「パラレル実験」を勧めた。これは結果が確定している実験と一つだけ条件を変えて行う実験のことだ。一見、手間がかかり遠回りしているようだが、実はこれが一番早い。

新分野の開拓は、白い大きな紙に地図を書き込む作業に似ている。新たに判明した知識を書き加えていく際、失敗も重要な情報だ。そこが荒野だと分かれば地図の精度も高まる。ブラウン先生の系統的・網羅的な探索手法は、その作業に大いに役立つ。

実験を始めだした頃、テーマの一つに興味を持てず、私は「この実験を続けても先生の狙う結論は出ないと思う」と率直に意見を述べた。ブラウン先生は「君は来たばかりだから中身がまだ分からないかもしれない。説明するので時間があったら来なさい」と説得にかかる。

こんなやり取りを何回か繰り返したが、先生は決して命令口調にならず、丁寧に指導してくれた。ずけずけと文句を言う私に多少は手を焼いていたのかもしれない。一対一の指導に貴重な時間を割き、試薬の注文の仕方から実験ノートの書き方まであらゆる事柄を強い熱意で教え込んだ。この訓練はその後の私の研究室運営に役立った。プロを育てるマンツーマン・コーチングの重要性を肌で感じた。2年間を博士研究員として過ごし、3年目からは助手として働くことになった。

(有機化学者)

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Bubbles of river disappear rapidly.

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