トニー・ブレア(10) 首相就任

総選挙、地滑り的勝利
戸惑いながら女王に拝謁

私は野党・労働党党首として過ごした約3年で、当時のメージャー首相と保守党をどうけんかさせればよいかを学んだ。メージャーは大半の人が思うよりはるかに優れ、人間としての魅力もあったが、保守党は極端に右寄りに脱線してしまった。保守党は1997年の総選挙の期間を3カ月と長く設定し、世論調査でリードする労働党がつまずくのを狙ったが、反対に保守党がばらばらになってしまった。私は勝利を確信した。

97年5月1日。私は選挙区の自宅から妻シェリーと子どもたちと投票所に徒歩で向かった。そして家に戻って選挙結果を待った。私はこれまで3回、労働党が敗戦確実の結果を待った。今回は、勝利への道の最後の歩みをたどる私にすべての関心が集まっていた。落ち着かないので、組閣人事に集中しようとブラウンや選挙参謀のピーター・マンデルソンに電話して過ごした。

出口調査は労働党が大きくリードしていることを示し、勝利の大きさはすぐにはっきりした。ただの勝利ではない。まさに地滑り的勝利だった。2時間ほどたって私は実は心配になった。テレビ画面の下を流れるテロップは、労働党が100議席獲得と示していたが、保守党はわずか6議席。自分が何か憲政に反することをしたのではないかと思い始めたのだ。私は保守党を文句なしに破ろうとしたが、保守党が消滅したらどうなるか。幸い、しばらくすると保守党の議席も増えだした。それでも我々の多数は歴史的なものになろうとしていた。

翌日、私はエリザベス女王から首相任命と組閣の指示を受けるためにバッキンガム宮殿に向かった。ロンドン市内の自宅から宮殿までの車中から見た光景は驚くべきものだった。人々が家から出て沿道に群がり歓声をあげていた。テレビ中継用のヘリコプターが何機も上空を舞い、国中が休みになったようだった。

私は宮殿の女王の部屋の外の控えの間に案内された。突然不安に襲われた。基本的な儀礼はわかっていたが、曖昧な知識しかなかったのだ。私が公式な敬礼として女王の手にキスをして、女王が私に統治権限を授与する儀式だ。係官が私の横に立って切り出した。「ミスター・ブレア。一つだけ申し上げておくべきことがあります。儀式では、女王陛下の両手に実際に口づけをするのではありません。唇でそっとブラッシュするのです」

私はあぜんとした。彼は何を言おうとしているのか。女王の手に靴にブラシをかけるようにするのか、それとも軽くふれるだけなのか。とまどううちに扉が開き、女王の部屋に招き入れられた。不運にも私はじゅうたんの上でちょっとつまずき、実際に女王の手の上によろめいてしまった。女王の手を握るほど強くふれたわけではなかったが。

女王に会ったのは初めてではないが、今回は以前とは違った。私はこの拝謁で女王について2つのことに気がついた。女王ほどの経験を持ち高い地位にある人間としては不思議にシャイであること。そして同時にずばりと物を言うことだ。無礼とか無神経という意味ではなく、ただ率直なのだ。

「あなたは私にとって10人目の首相です。1番目はウィンストン・チャーチルでした。あなたが生まれる前のことですよ」。これが女王のお言葉だった。

(元英首相)

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