「ビッグデータ」が変える 情報の渦から未来読む

客の行動、瞬時に分析 安全・燃費に最適解

爆発的に増えるコンピューターデータ「ビッグデータ」を分析し、企業経営などに役立てようとする動きが広がっている。販売戦略や品質管理など経営の様々な局面でビッグデータが役立つだけでなく、新しいビジネスモデルを生み出せる可能性も出てきた。技術革新によってIT(情報技術)のコストが下がり、データの処理スピードが格段に速くなったことが背景にある。ビッグデータが企業経営や社会システムに与え始めた変化の最前線を探る。

■販促メール開封1.6倍 リクルート

今年6月、リクルートが運営する飲食店サイト「ホットペッパー」のページビューが急増した。利用者に定期配信するメールの開封率が1.6倍に上昇したのが原因だ。ビッグデータ処理システムを実験的に導入した成果が即座に表れた。

これまで1日で利用者の2週間分の利用履歴しか分析できなかったが、2年前までさかのぼれるようになった。例えば「鍋料理が好き」「韓国料理が好き」といった好みを収集し、その上で思わずホームページをクリックしてしまうような情報をメールで送れるようになった。サイト閲覧が増えれば広告収入増につながるほか物品やサービスの販売増も期待できる。

大量データを効率よく処理する分散処理ソフト「Hadoop(ハドゥープ)」を組み込んだシステムの能力は従来の100倍。設計図が公開されているオープンソースなので、同ソフトを組み込むサーバーは従来機種を使った。リクルートの場合、専用システムに比べ導入コストは5分の1以下という。

リクルートはホットペッパーのほか、旅行サイト「じゃらん」、中古車サイト「カーセンサー」などすべてのサイトを対象に分析システムを導入する方針。米谷修MIT・Unitedプロジェクト推進部エグゼクティブマネジャーは「ビッグデータ分析はネット事業の世界で必須のツールになる」と言い切る。

最新技術を活用し、一人ひとりの行動を予測し、潜在的ニーズを探れることがわかってきた。顧客をひとくくりにした従来のマーケティング手法は、根本から変わろうとしている。

■販売戦略が一変 日本マクドナルド

日本マクドナルドホールディングスは約1000万人の顧客それぞれの購買特徴に合わせ、携帯電話を通じてクーポンを配布する実験を始めた。例えば、週末利用が中心の顧客には週末朝にコーヒーの無料クーポンを、一定期間来店していない顧客には以前購入していたハンバーガーの割引クーポンをそれぞれ送信し、来店を促す。

外食業などではPOS(販売時点情報管理)システムの普及で膨大な購買履歴を得ていたが需要予測にとどまり、有効なマーケティングに生かしきれていなかった。日本マクドナルドは2004年以降、約300億円を投じてITシステムを刷新し、蓄積データの有効利用を探ってきた。

企業は顧客の過去の購買履歴などから「日曜日にはおむつとビールを同時に購入する顧客が多い」などといったデータ間の相関性を経営に役立ててきた。

ハドゥープやデータ分析専用機を使って膨大な数の顧客の動きをリアルタイムで分析、次の戦略に生かせるようになる。グーグルなど米国勢に続いて日本企業も新ビジネスモデルを築き始めた。

「ゴルフ場に到着しました。けがや賠償責任、ホールインワンの費用をカバーする保険はいかがですか」

東京海上日動火災保険とNTTドコモが共同で提供している「ドコモ・ワンタイム保険」。ドコモの携帯電話を持つ利用者がゴルフ場に到着した絶妙のタイミングで、保険加入を勧めるメッセージが携帯に届く。

■GPSと連携、ゴルフ到着時に保険案内 東京海上とドコモ

1日単位で加入できる。器物の破損時には最大3000万円、ホールインワンで同30万円の補償内容で、保険料は300円。居場所に応じた世界初の保険を可能にしたのが、全地球測位システム(GPS)で計測した位置情報と利用者の行動履歴という膨大なデータを分析するシステムだ。

事前に許諾を得た利用者を対象にGPSで居場所を計測する。利用者が普段の生活圏から出てゴルフ場に到着したことを察知。過去の行動履歴から、ゴルフ場従業員などではなくゴルフ客であることを判断する。

東京海上日動火災IT企画部の牧野司課長は「自動配信によるコスト削減の結果、低料金に設定できるようになった」と指摘する。業界はネット通販型の新規参入者の台頭で価格破壊が進み、「年間契約料を払う現行の保険ビジネスが崩れる可能性もある」(業界関係者)という危機感が働く。

博報堂は10月、データ解析のブレインパッドと組み、企業向けコンサルティングサービス「デジタル マーケティング マネジャー」を始めた。従来難しかった競合企業のネットサービスの顧客の行動をリアルに分析、戦略に活用する。

例えば閲覧履歴データから自社と競合サイトの訪問者数を割り出し、競合サイトのおよその売り上げを予測。これにより「自社が仕掛けたキャンペーンが、競合の売り上げに大きく貢献していたことが分かる」(博報堂エンゲージメントビジネスユニットの竹林真人テクノロジー推進部長)。

米調査会社IDCなどは、世界で生み出されるデータ量は、20年には11年に比べ20倍の35兆ギガ(ギガは10億)バイトに達すると予測する。膨大なデータの塊が新たなビジネスの鉱脈になる可能性が出てきた。2000年代初頭のITバブル崩壊を経て、新たな経営革命の波が押し寄せている。

■離陸直前まで積載計算 全日空

ビッグデータは新しい業務改革にも活用され始めている。米ボーイング社製の最新鋭機「B787」をいち早く導入した全日本空輸(ANA)。B787は優れた燃費性能と航続距離で航空業界のビジネスモデルを変えると期待される。ANAは今夏、導入効果を一段と引き上げようと、ビッグデータを活用し飛行機の安全運航と燃費向上を実現する新「ロードコントロールシステム」(LCS)を稼働させた。

数百人規模の旅客や預け荷物の数、搭載予定の貨物の重量などをネットワークを通じて瞬時に収集。安全性と燃費の両面から航空機の機体の重心が最適な位置になるよう、全搭載物の配置を瞬時に割り付けられる最新システムだ。重心が機体の前過ぎれば機首が上がらない可能性があり、後ろだと滑走路に尻もちをつく恐れがある。

新システムは特に国際線で効果を発揮する。海外発日本行きの便は従来、旅客人数の入力など一部工程で手入力作業が必要だった。重量計算やシミュレーションを自動化し、離陸直前まで重心位置のシミュレーションを繰り返し、低燃費を追求できるようになった。「積載貨物を最大限増やすと同時に燃費を追求する」(オペレーション統括本部OMCオペレーションサポート部の中里豊部長)

■車と家の電力一括管理 トヨタ

ビッグデータ利用は製造業でも徐々に進行している。トヨタ自動車―米マイクロソフト(MS)、米セールスフォース、米フォード―米グーグル。昨年以降、自動車メーカーとIT企業との提携が急速に進んだ。

トヨタは環境対応車とエコハウスを組み込んだエネルギー管理システム「トヨタスマートセンター」をMSのクラウド環境で構築する。青森県六カ所村で昨年からスマートグリッド実験を始め、独自にノウハウを蓄積してきた。

自動車ユーザーとの情報のやり取りなどはセールスフォースのクラウドを使い、膨大なデータを集約・分析する。取り組みには太陽光発電量や電力消費をリアルタイムで監視して、最適な省エネ環境を実現するサービスを提供したり、自動車ユーザーの要望や不満を吸い上げて新しいサービス開発につなげたりする狙いがある。トヨタはプラグインハイブリッド車を投入する12年以降、実用化していく計画だ。

一方、フォードはグーグルと共同で運転者の運転データから燃料の効率的な使い方を分析、自動的に電池だけの「エコ走行」に切り替えたり、車間通信によって衝突を回避したりするなど「自動運転」の実現を目指す。

自動車メーカーと提携関係にあるIT大手役員は「自動車メーカーはビッグデータ活用によって継続的に料金が徴収できる新しいビジネスを狙っている」と話す。日々積み上がるデータの山から新ビジネスを発掘する取り組みが産業界で幅広く本格化しつつある。

(江村亮一、山田剛良、飛田臨太郎、西部支社=富山篤)

機体いっぱいに積み込まれた荷物(成田空港)

機体の重心が最適な位置になるよう荷物の配置を決めるロードコントロールシステム(成田空港)

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Bubbles of river disappear rapidly.

2 Responses to 「ビッグデータ」が変える 情報の渦から未来読む

  1. 大平 友香 says:

    初めてコメントを書かせていただきます。
    ビックデータの活用についてある研究会に参加している者です。

    現在ビックデータの活用事例(ロードコントロール)について
    情報を収集している中で、このホームページへ辿りつきました。
    先生のお考え・ビックデータの活用方法がわかりやすく書かれており
    共感いたしました。

    差し支えがございませんでしたら、ビックデータの活用事例として
    発表資料に出典させていただきたいのですが、ご承諾いただけますでしょうか。

    ※どこにご連絡をしたら良いかわからず、こちらにコメントさせていただきました。
     私のご挨拶・どこの研究会に参加し活動しているのか、こちらのサイトからは
     控えさせていただきたく思います。ご容赦願います。
     また、正式な出典願いはどちらから行えばよろしいでしょうか。
     
     お忙しい中恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

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