「ハドゥープ」 大量データ解析に威力

ビッグデータの解析で威力を発揮する技術として注目されるのがソフトウエア「Hadoop(ハドゥープ)」である。米グーグルの発表論文を基に米ヤフーなどの技術者が中心となって開発。設計図を公開し、誰でも無償で使えるオープンソースソフト(OSS)として米国を中心に開発が進んできた。

ハドゥープは、大量のデータをいったんバラバラにして複数のパソコン(PC)サーバーに分配して分析処理し、最後に全ての分析結果をまとめ直す。データ処理量が増えた場合は、PCサーバーの台数を増やすだけで対応できる。安価なPCサーバーを使えるので、利用企業のコスト負担を最小限に抑えられる効果がある。

テキストや静止画、動画、音声などを含む大量データから一定のパターンやルールを見つけ出す「データマイニング」には、大量のデータを取り扱えるハドゥープが向いている。「量や複雑さが、従来の企業システムが取り扱ってきたデータと質的に異なる」(ガートナージャパンの堀内秀明リサーチバイスプレジデント)という。こうしたデータを対象にすることで、従来つかみにくかった傾向を見つけられる点が大きく異なる。

福岡県内でスーパーを展開する西鉄ストア(福岡市)は9月、システム開発のノーチラス・テクノロジーズ(福岡市、最首英裕社長)の協力を得て、ハドゥープを使った新会計システムを一部稼働させた。

新システムを稼働させたことで、従来は2~4時間かかった日々の仕入れ状況の確定処理が10~20分で終了するようになった。来年にはシステムの全面稼働に伴い、1万種類以上に上る商品の原価率計算の頻度を月次から日次に上げられるようになる。

これにより「売れ筋商品と利益率を意識した戦略的な売り場作りができるようになる」(西鉄ストア情報システム部の浜田孝洋主任)と期待している。

「ビッグデータ」が変える 情報の渦から未来読む

客の行動、瞬時に分析 安全・燃費に最適解

爆発的に増えるコンピューターデータ「ビッグデータ」を分析し、企業経営などに役立てようとする動きが広がっている。販売戦略や品質管理など経営の様々な局面でビッグデータが役立つだけでなく、新しいビジネスモデルを生み出せる可能性も出てきた。技術革新によってIT(情報技術)のコストが下がり、データの処理スピードが格段に速くなったことが背景にある。ビッグデータが企業経営や社会システムに与え始めた変化の最前線を探る。

■販促メール開封1.6倍 リクルート

今年6月、リクルートが運営する飲食店サイト「ホットペッパー」のページビューが急増した。利用者に定期配信するメールの開封率が1.6倍に上昇したのが原因だ。ビッグデータ処理システムを実験的に導入した成果が即座に表れた。

これまで1日で利用者の2週間分の利用履歴しか分析できなかったが、2年前までさかのぼれるようになった。例えば「鍋料理が好き」「韓国料理が好き」といった好みを収集し、その上で思わずホームページをクリックしてしまうような情報をメールで送れるようになった。サイト閲覧が増えれば広告収入増につながるほか物品やサービスの販売増も期待できる。

大量データを効率よく処理する分散処理ソフト「Hadoop(ハドゥープ)」を組み込んだシステムの能力は従来の100倍。設計図が公開されているオープンソースなので、同ソフトを組み込むサーバーは従来機種を使った。リクルートの場合、専用システムに比べ導入コストは5分の1以下という。

リクルートはホットペッパーのほか、旅行サイト「じゃらん」、中古車サイト「カーセンサー」などすべてのサイトを対象に分析システムを導入する方針。米谷修MIT・Unitedプロジェクト推進部エグゼクティブマネジャーは「ビッグデータ分析はネット事業の世界で必須のツールになる」と言い切る。

最新技術を活用し、一人ひとりの行動を予測し、潜在的ニーズを探れることがわかってきた。顧客をひとくくりにした従来のマーケティング手法は、根本から変わろうとしている。

■販売戦略が一変 日本マクドナルド

日本マクドナルドホールディングスは約1000万人の顧客それぞれの購買特徴に合わせ、携帯電話を通じてクーポンを配布する実験を始めた。例えば、週末利用が中心の顧客には週末朝にコーヒーの無料クーポンを、一定期間来店していない顧客には以前購入していたハンバーガーの割引クーポンをそれぞれ送信し、来店を促す。

外食業などではPOS(販売時点情報管理)システムの普及で膨大な購買履歴を得ていたが需要予測にとどまり、有効なマーケティングに生かしきれていなかった。日本マクドナルドは2004年以降、約300億円を投じてITシステムを刷新し、蓄積データの有効利用を探ってきた。

企業は顧客の過去の購買履歴などから「日曜日にはおむつとビールを同時に購入する顧客が多い」などといったデータ間の相関性を経営に役立ててきた。

ハドゥープやデータ分析専用機を使って膨大な数の顧客の動きをリアルタイムで分析、次の戦略に生かせるようになる。グーグルなど米国勢に続いて日本企業も新ビジネスモデルを築き始めた。

「ゴルフ場に到着しました。けがや賠償責任、ホールインワンの費用をカバーする保険はいかがですか」

東京海上日動火災保険とNTTドコモが共同で提供している「ドコモ・ワンタイム保険」。ドコモの携帯電話を持つ利用者がゴルフ場に到着した絶妙のタイミングで、保険加入を勧めるメッセージが携帯に届く。

■GPSと連携、ゴルフ到着時に保険案内 東京海上とドコモ

1日単位で加入できる。器物の破損時には最大3000万円、ホールインワンで同30万円の補償内容で、保険料は300円。居場所に応じた世界初の保険を可能にしたのが、全地球測位システム(GPS)で計測した位置情報と利用者の行動履歴という膨大なデータを分析するシステムだ。

事前に許諾を得た利用者を対象にGPSで居場所を計測する。利用者が普段の生活圏から出てゴルフ場に到着したことを察知。過去の行動履歴から、ゴルフ場従業員などではなくゴルフ客であることを判断する。

東京海上日動火災IT企画部の牧野司課長は「自動配信によるコスト削減の結果、低料金に設定できるようになった」と指摘する。業界はネット通販型の新規参入者の台頭で価格破壊が進み、「年間契約料を払う現行の保険ビジネスが崩れる可能性もある」(業界関係者)という危機感が働く。

博報堂は10月、データ解析のブレインパッドと組み、企業向けコンサルティングサービス「デジタル マーケティング マネジャー」を始めた。従来難しかった競合企業のネットサービスの顧客の行動をリアルに分析、戦略に活用する。

例えば閲覧履歴データから自社と競合サイトの訪問者数を割り出し、競合サイトのおよその売り上げを予測。これにより「自社が仕掛けたキャンペーンが、競合の売り上げに大きく貢献していたことが分かる」(博報堂エンゲージメントビジネスユニットの竹林真人テクノロジー推進部長)。

米調査会社IDCなどは、世界で生み出されるデータ量は、20年には11年に比べ20倍の35兆ギガ(ギガは10億)バイトに達すると予測する。膨大なデータの塊が新たなビジネスの鉱脈になる可能性が出てきた。2000年代初頭のITバブル崩壊を経て、新たな経営革命の波が押し寄せている。

■離陸直前まで積載計算 全日空

ビッグデータは新しい業務改革にも活用され始めている。米ボーイング社製の最新鋭機「B787」をいち早く導入した全日本空輸(ANA)。B787は優れた燃費性能と航続距離で航空業界のビジネスモデルを変えると期待される。ANAは今夏、導入効果を一段と引き上げようと、ビッグデータを活用し飛行機の安全運航と燃費向上を実現する新「ロードコントロールシステム」(LCS)を稼働させた。

数百人規模の旅客や預け荷物の数、搭載予定の貨物の重量などをネットワークを通じて瞬時に収集。安全性と燃費の両面から航空機の機体の重心が最適な位置になるよう、全搭載物の配置を瞬時に割り付けられる最新システムだ。重心が機体の前過ぎれば機首が上がらない可能性があり、後ろだと滑走路に尻もちをつく恐れがある。

新システムは特に国際線で効果を発揮する。海外発日本行きの便は従来、旅客人数の入力など一部工程で手入力作業が必要だった。重量計算やシミュレーションを自動化し、離陸直前まで重心位置のシミュレーションを繰り返し、低燃費を追求できるようになった。「積載貨物を最大限増やすと同時に燃費を追求する」(オペレーション統括本部OMCオペレーションサポート部の中里豊部長)

■車と家の電力一括管理 トヨタ

ビッグデータ利用は製造業でも徐々に進行している。トヨタ自動車―米マイクロソフト(MS)、米セールスフォース、米フォード―米グーグル。昨年以降、自動車メーカーとIT企業との提携が急速に進んだ。

トヨタは環境対応車とエコハウスを組み込んだエネルギー管理システム「トヨタスマートセンター」をMSのクラウド環境で構築する。青森県六カ所村で昨年からスマートグリッド実験を始め、独自にノウハウを蓄積してきた。

自動車ユーザーとの情報のやり取りなどはセールスフォースのクラウドを使い、膨大なデータを集約・分析する。取り組みには太陽光発電量や電力消費をリアルタイムで監視して、最適な省エネ環境を実現するサービスを提供したり、自動車ユーザーの要望や不満を吸い上げて新しいサービス開発につなげたりする狙いがある。トヨタはプラグインハイブリッド車を投入する12年以降、実用化していく計画だ。

一方、フォードはグーグルと共同で運転者の運転データから燃料の効率的な使い方を分析、自動的に電池だけの「エコ走行」に切り替えたり、車間通信によって衝突を回避したりするなど「自動運転」の実現を目指す。

自動車メーカーと提携関係にあるIT大手役員は「自動車メーカーはビッグデータ活用によって継続的に料金が徴収できる新しいビジネスを狙っている」と話す。日々積み上がるデータの山から新ビジネスを発掘する取り組みが産業界で幅広く本格化しつつある。

(江村亮一、山田剛良、飛田臨太郎、西部支社=富山篤)

機体いっぱいに積み込まれた荷物(成田空港)

機体の重心が最適な位置になるよう荷物の配置を決めるロードコントロールシステム(成田空港)

ジョブズ氏亡き後のアップル、製品開発責任者が語る矜持と未来

新型スマートフォン「iPhone 4S」の発売、KDDIのiPhone参入、韓国サムスン電子との訴訟合戦など話題に事欠かないのが米アップルだ。彼らの一挙手一投足は、噂レベルであっても大きなニュースとなる。

ヒット商品を連発し躍進を遂げているものの、創業者のスティーブ・ジョブズ元CEO(最高経営責任者)が死去したことで、先行きを不安視する声もある。果たしてアップルは羽ばたき続けることができるのか。ジョブズ氏亡き後、製品開発の全責任を担うフィル・シラー上級副社長に話を聞いた。

■「アップルの製品はほかの会社にまねできない」

iPhone 4S、さらにはタブレットの「iPad2」など革新的な製品を投入し、ファンを増やし続けているアップル。だがジョブズ氏がいなくなった今後も、魅力的な製品を作り続けられるのかは気になるところだ。これまでジョブズ氏とともに様々な製品を開発してきたシラー氏は、そうした懸念を一蹴する。

「アップルには世界で一番いい製品を作りたいと考えているデザイナーやエンジニアがいる。ほかの会社ではまねができない新しい商品を作り続けられるし、将来においてもそれは変わらない」

シラー氏が、「ほかの会社では作れない例」としてあげたのが、新型OS(基本ソフト)の「iOS5」から導入されたクラウドサービス「iCloud」だ。

「まだ始まったばかりだが、様々な端末がシームレスに融合するとても使いやすいサービスになった。ユーザーが何も考えなくても、カレンダーや写真、書類がiPhoneやiPad、Macで同期され、データがバックアップされていく。今後もできることを増やしていきたいし、進化させていくつもりだ」

10年前の2001年、ジョブズ氏は「デジタルハブ構想」として、音楽プレーヤーやビデオカメラ、デジタルカメラなどのあらゆるデジタル機器がパソコン(Mac)とつながる世界を描き、その一つひとつを実現していった。

そして11年に登場したiCloudによって、iPadやiPhoneなどの端末はクラウドを中心につながるようになった。ジョブズ氏が生前に思い描いていた「iCloud構想」はシラー氏によって、さらに具現化されていくのだ。

■「シェア1位ではなく、最も優れた製品を作りたい」

スマートフォン市場で、iPhone 4Sは根強い人気を誇っている。一方で米グーグルのOS「Android(アンドロイド)」を採用したメーカーは、日本ではおサイフケータイやワンセグ、赤外線通信といった日本特有機能を端末に搭載。ローカライズを徹底することで、ユーザーのニーズを満たそうとしている。中国などでは100ドル程度のアンドロイド搭載スマートフォンが登場。安価で手軽に入手できるようになっている。

これに対しアップルはiPhoneに日本特有機能を載せないし、旧モデルが安価で売られていることはあっても低価格版モデルはない。採用メーカーが多く、これからシェアを伸ばしていくアンドロイド陣営に対し、アップルはどう戦っていくつもりなのだろうか。

「我々は最終的にはシェアで1位になることが目標ではない。シェアで1位になる製品ではなく、最も優れた製品を作っていきたいと思っている」

■「垂直統合のアップルは他社とは違う」

日本でも世界でもスマートフォンブームは始まったばかり。これからユーザーがフィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマートフォンへの移行を本格化させるなかで、アップルはさらなる販売台数の拡大を狙う。アンドロイドを採用するメーカーが多く集まることで、OS別シェアでは負けてしまうかもしれない。それよりも製品の質を保ち、1つのモデルを世界規模で流通できるようにして、価格を維持することを優先するようだ。

続々とスマートフォンでライバルが登場してくるなか、iPhoneはアンドロイド搭載スマートフォンに比べて「初心者でも使いやすい操作性」という優位点を持つ。アンドロイドも進化しているが、iPhoneには追いつけていない印象がある。この操作性の強みはどこにあるのか。

「ハード、ソフト、サービスをすべて垂直統合で見ているアップルは、他社とは違う立ち位置にいる。全体の責任を持って開発するからこそ、品質の高いものをつくれる。他社のように水平分離でハード、ソフト、サービスがすべて分断されているようでは素晴らしい製品を提供できない」

ここ最近のアップル関連ニュースのなかで話題となっているのが、サムスンとの訴訟合戦だ。「デザインが酷似している」あるいは「特許を侵害している」として世界各地で争いを繰り広げ、販売差し止めに発展した地域もある。シラー氏は「ほかの会社は『どうやったらアップルに似た製品ができるのか』と考えながら製品を開発しているようだ」と語る。

他社が「まねしている」と憤っているアップルだが、実際のところ、本音はどう感じているのだろうか。

シラー氏は「我々が成功した証しなのかもしれない。だからまねされる。競合があることはいいことだし、だからこそ一層がんばることができる。アップルとして自信を持ちながら、より使いやすく美しく良い製品を作っていきたい」という。

■「KDDIとソフトバンクはいい仕事をしている」

もう一つ、日本で話題となっているのが「NTTドコモがiPhoneを取り扱うのか」という点だ。一部では、すでに両社は合意し、来年にもドコモがアップルが開発したLTE対応のiPhoneを発売するという報道があった。しかしドコモは即座に否定。広報部は「山田隆持社長は11月に渡米していないし、具体的な交渉すらしていない」とコメントした。iPhoneを発売したKDDIが正式発表前の報道に対して「ノーコメント」を貫いたのとは対照的だ。あえて「交渉をしていない」と念押しするぐらいだから、「合意」からはほど遠いのだろう。

米国ではユーザーがAT&Tモビリティ、ベライゾン・ワイヤレス、スプリント・ネクステルから選べる“3事業者体制”になっているが、シラー氏は「日本ではソフトバンクモバイルとKDDIがiPhone 4Sを提供している。2つの会社は本当にいい仕事をしている。2社のどちらかから選べば、(ユーザーは)満足できるのではないか」と素っ気なかった。

来年、iPhoneの次期モデルがLTEに対応できるようになれば、その段階でアップルとドコモが交渉を始める可能性は十分にあるだろう。しかし、いまのところ両社が具体的な話をしているとは考えにくそうだ。

■「iPadの市場規模はパソコンよりも巨大に」

iPhoneとiPadでアップルが革新的だったのは、複数の指で画面を操作する「マルチタッチ」を開発したことに尽きるだろう。

「マルチタッチとの出合いは我々にとっても、この10年で大きな出来事だったといえる。この技術革新によって、アップルがiPhoneという全く新しい電話機、さらにはiPadを作ることができた。ここで学んだことがMac OSにも生きた。マルチタッチは、マウスに置き換わる提案になったといえるだろう」

特にiPadは、これまでアップルがパーソナルコンピューターを作ってきたことも否定しかねないデバイスとして可能性を示した。「ポストPC」を具現化するのがiPadともいえるほどだ。

「iPadは世界で4000万台が売れており好調だ。ほかのデバイスよりも優れた体験を提供でき、コンピューター以上に使ってもらえる存在になった」

一般的なユーザーは、ウェブやメールのチェック、アプリを使うだけならiPadで事足りるだろう。ビジネスパーソンや技術者にはコンピューターが必要となるが、家庭での日常的な用途ならiPadでほとんどのことを満たせる。シラー氏が「iPadの市場規模はパーソナルコンピューターよりも巨大になるのではないか」と期待を寄せるほど、iPadはアップルにとってさえも革新的なデバイスといえるのだ。

近年、iPhoneとiPadで我々の生活を変えてきたアップル。この勢いを維持し、さらに成長させるのがシラー氏の役目でもある。彼が描く戦略がこれからのIT業界に大きな影響を及ぼす可能性がある。いずれにしても、しばらくはアップルが業界の主役であることは間違いなさそうだ。

—-
石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

ミクシィ「訪問者激減」騒動が問うSNSの本当の価値

ネットレイティングスが11月28日に公表した国内の主要SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)サイトの「ネット視聴率調査」が波紋を広げている。同社はインターネット上の動向調査などを手がけているが、集計方法を変更したことでミクシィが運営する「mixi」への訪問者数(アクセス数)が、9月の1472万人から10月は838万人へと大幅に減少したように見えたためだ。

ネットで話題が広がり、ミクシィ側がネットレイティングスに公式説明を求める動きにも発展した。今回の騒動の背景には、ソーシャルメディアの価値を単に数字だけで評価すべきか、という重要な課題が潜んでいる。

■従来は「イイネ!」を押しても訪問者数に

発端はITコンサルティングやシステム開発などを請け負うループス・コミュニケーションズ社長の斉藤徹氏のブログだった。ソーシャルメディアに詳しい斉藤氏は、定期的に各サービスの訪問者数をブログに掲載しており、今回のネットレイティングスの調査結果も紹介した。

これによると、10月は「ツイッター」(訪問者数は1455万人)と「フェイスブック」(同1131万人)に抜かれ、mixiは838万人だった(図1)。

図1●日本の主要SNSの訪問者数推移(家庭と職場のパソコンからのアクセス)。注1の「mixi(参考値)」は集計対象外のURLを除外した値(10月から集計変更)なので、9月と10月で「mixi」のデータとは連続性はない(ニールセン/ネットレイティングス調べ)

ネットレイティングスの調査報告では集計方法の変更について記述しているものの、掲載した訪問者数の推移グラフでmixiが急激に落ち込んでいる状況にインパクトがあったこともあり、ツイッターやフェイスブックで「そういえば最近、mixiにはアクセスしていない」「実感と一致する」といった反応が広がった。

ミクシィは「利用実態に大きく誤解を与える解釈、報道等がなされております」とプレスリリースを発表し、ネットレイティングス側に説明を求めた。

なぜ訪問者数が「激減」したように見えたのか。原因は、mixiの「イイネ!」ボタンの集計方法にある。

これまでは「イイネ!」を押した場合もmixiの訪問者数に加えていたが、実際にはユーザーがサイトを見ていないため今回から除外したのだった。この集計方法はフェイスブックなどと同じであり、いままでmixiだけが特別だったといえる。

ネットレイティングスは計測手法について詳しく説明するとともに、1年前にさかのぼって修正したグラフを発表。「mixiは堅調に推移している」とコメントした。

さらに、1人当たりの訪問時間を紹介し、mixiは約3時間、フェイスブックが52分、ツイッターが24分、「Google+(プラス)」が3分で、「サイトに対するロイヤルティーにおいて、(mixiは)圧倒的に他のSNSを凌駕している」とした(図2)。

図2●日本の主要SNSの利用状況(ロイヤルティー指標)。縦軸は1人当たりの月間訪問頻度で、横軸は1人当たりの月間訪問時間、バブルの大きさは訪問者数を示す。家庭と職場のパソコンからのアクセスによる(ニールセン/ネットレイティングス調べ)

■本当の価値は数字だけではつかめない

一般企業がソーシャルメディアでキャンペーンなど検討する場合、会議で判断するためにサービス事業者に数字を求めることが多い。たとえば、ページビュー(PV)やユニークユーザー(UU)、会員数、会員の属性(男女比や世代、地域別、職業、年収)や興味・関心事などだ。

このため、各サービス事業者は多くの資料で企業にアピールしているが、主要なデータの1つである訪問者数の計測方法さえさまざまで、事業者側から出ている数字はいわば「主催者発表」のようなものといえるかもしれない。だからこそ、ネットレイティングスのように、ある基準で各ソーシャルメディアを比較できるサービスへの要望は高い。同社の視聴調査は幅広くサイトの訪問者数を扱っており、業界のスタンダードになっている。

ただしネットレイティングスの視聴調査は、「家庭と職場のウィンドウズパソコンからのアクセスを計測している」という条件付きの結果である。最近はパソコン以外にも携帯電話、スマートフォン(高機能携帯電話)、タブレット端末など複数の機器が利用されており、ネットレイティングスの調査だけではすべてをカバーできないことは明かだ。

ソーシャルメディアは、各社のサービスごとにそれぞれ特徴がある。単に訪問者数が多いという理由だけで広告やキャンペーンに利用するのではなく、自分で実際に登録したり利用したりすることで、ソーシャルメディアの雰囲気をつかんでみることを勧めたい。

今回の騒動は、まだまだ数字が広告やキャンペーンでソーシャルメディアが選ばれる際の指標になっていることを示している。だからこそ、ミクシィの異例ともいえる対応になったのだろう。

■騒動をどう生かすかでmixiの今後が変わる

ネットレイティングスが再提示したグラフを見ると、mixiは急伸するフェイスブックに6月に抜かれていることが分かった。ネットレイティングスは「堅調」と表現していたが、実際は伸び悩みや減少傾向にあるようだ。

ソーシャルメディアで大切なことは、ユーザーの反応から学んでサービスを改善したり、ユーザーとコミュニケーションを取ってロイヤルティーを高めたりすることだ。ブログ記事がここまで大きく広がったのも、mixiに対するユーザーの関心の高さを示していることは間違いない。ユーザーのネガティブな声こそ、伸び悩んでいるmixiを映す貴重な鏡かもしれない。

今回の騒動を改善へのきっかけととらえるか、それとも単に反論だけで終えてしまうかで、今後のmixiの方向も大きく変化しそうだ。

—-
藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

ウォーレン・バフェット氏に学ぶ「株の極意」

ウォーレン・バフェット氏といえば現在、アメリカで最も有名な投資家であると同時に、アメリカ有数の資産家としても知られています。

彼は独特の相場哲学を持ち、その相場哲学に沿った投資を実践して、他の著名な投資家が足元にも及ばないような抜群の実績を上げています。

その相場哲学、株式投資法は単純明快で、初心者に近い個人投資家でも十分に理解できるものばかりです。

個人投資家は、株式投資に迷いを感じたら、ウォーレン・バフェットの投資法に学ぶことをお勧めします。

ウォーレン・バフェットの名言は本や雑誌、インターネットなどで見ることができます。その中には珠玉の名言も少なくありません。

中でも名言中の名言には、次のような言葉があります。

「株式投資の極意は、良い銘柄を見つけて、良いタイミングで買い、良い銘柄である限りそれを持ち続けること。これに尽きる」

では、「良い銘柄」とはどのような銘柄なのでしょうか。

 バフェットは次の4つの投資基準に合った銘柄が、良い銘柄と考えています。

(1)事業の内容が理解できること
(2)長期的に業績が良いことが予想されること
(3)経営者に能力があること
(4)魅力的な価格であること

この4つの条件に合った銘柄を探すことは、素人の投資家でも、それほど難しいことではありません。

バフェットがこれまで投資した主要銘柄がコカ・コーラ、ウォルト・ディズニー、アメリカン・エキスプレス、ジレット、ワシントン・ポストなどだったことで、どんな銘柄が投資の対象として良い銘柄なのか、容易に想像できることでしょう。

かつて株式市場がITバブルに沸いた時、バフェットは「事業内容がよくわからない」と考え、IT関連株やハイテク株には見向きもしなかったため、ITバブルで儲けることはできなかったのですが、その代わりITバブル崩壊によるダメージも皆無でした。

彼はIT株に手を出さなかった理由について、次のように述べています。

「もし20年先を考えて投資するなら、普通は変化の激しいハイテク業界を選ばない。ちょっとした変化に乗り遅れるだけで致命傷を受けます。しかし、コカ・コーラについてはかなりの確実性を持って20年先の姿を描けます」

しかし、そのバフェットが、2011年にはIBMやインテルなど、IT関連株を大量に購入し、市場の話題を集めています。

徹底して勉強した結果、事業内容がよく理解できるようになったのか、それとも投資スタンスを変えたのか、それは今のところ不明です。

また、バフェットは個別銘柄について、次のように語っています。

「産業界というものは、金を払って投資するに値する、極めて少数の一流企業と、長期投資する魅力が全くない、膨大な数の二流企業から成り立っている」

「ある企業が一流企業になれるかどうかのカギは、その企業が何らかの点で優位な立場を確保しており、他社の新規参入で製品の売値や収益を圧迫される恐れがないという条件を備えているかどうかである」

「偉大な企業とは、今後25年から30年、偉大であり続ける企業のことだ」

つまり、一流企業になれるためには、知名度が高く、抜群の競争力を持つ有力商品を抱えていること、しかもその有力商品が10年後、20年後、30年後も有力商品であり続ける可能性が大きいことなどの条件をクリアしなければならない、というわけです。

バフェットの趣味は、決算期末ごとに送られてくる上場会社のアニュアルレポート(年次報告書)に丁寧に目を通すことです。

その中には、どんな商品の売れ行きが好調なのか、どんな商品の売れ行きが落ちているか、どんな新商品を売り出したか、業績は順調に推移しているか、今後の事業計画など、投資家にとって興味深いことが詳しく書かれています。

しかし、個人投資家で、会社から送られてくる年次報告書に目を通している人は、皆無に近いはずです。大半の投資家は、会社から送られてきた報告書を、そのままゴミ箱に直行させているのではないでしょうか。

「会社から送られてくる報告書に目を通すのが趣味」といえるようになれば、少しはバフェットに近づくことができるかもしれません。

次に、「良いタイミング」とはどのようなタイミングなのでしょうか。

「ほとんどの企業は普通、実体価値以上の値段で売買されているが、ごく希に、素晴らしい一流企業が誰からも見捨てられていることがある。そんな時には、たとえ景気や相場の見通しが悪くてもかまわない、思い切って買うべきだ」

「バークシャー(バフェットが経営する投資会社)が買いを入れるのは、他の投資家がレミング(ネズミの仲間)のごとく一斉に売りに傾く時だ」

「株価の動きを予測するという方法は、しょせん推測の域を出ない。会社を正しく選び、その株を妥当な値段で買いさえすれば、それにふさわしい結果が待っている」

「良い銘柄である限り、それを持ち続けること」と考えるバフェットにとって、大事なことは買うタイミングだけで、売るのは「良い銘柄でなくなった時」ということになります。自分が経営する投資会社を使って株式投資を行っているバフェットにとっては、良い銘柄を持ち続けることが、投資会社の業績を伸ばすことになりますので、この点では個人投資家とは、投資法がやや異なるのは当然のことです。

個人投資家の場合は、相場が高値圏、天井圏に近づいたら、ひとまず全保有株式を売却して利益を確定し、次にやってくる買い場(安値圏・底値圏)を辛抱強く待つという姿勢が必要です。

また、バフェットは「投資家として成功する資質」として、次の6つの資質を上げています。

(1)抑制の利いたどん欲さによっていつも心が活発に動いていること。投資の面白さに魅せられていること
(2)辛抱強いこと
(3)他人の意見に左右されず、自分で考えること
(4)十分な知識によって心の平静と自信を身につけること。せっかちも頑固もいけない
(5)知らないことは知らないという率直さを持つこと
(6)どんな業種の株を買うかについては柔軟性を持って臨むこと。ただし、その銘柄の価値以上の値段では決して買わないこと

この6つの資質を兼ね備えた投資家は、少ないかも知れません。しかし、この中に自分に欠けている資質があれば、それを克服する努力をすればよいことです。

バフェットの投資法は、初心者に近い個人投資家でも真似することができる、シンブルでわかりやすい方法です。

—-
経済ジャーナリスト・西野武彦
<筆者プロフィル> 1942年愛媛県生まれ。中央大学法学部を卒業後、株式専門誌などの編集・記者を経て、87年に経済ジャーナリスト・経済評論家として独立。証券、金融、不動産から経済一般まで幅広い分野で活躍中。的確な読みとわかりやすい解説に定評があり、著書は90冊を超えている。「もっともやさしい株式投資」「『相場に勝つ』株の格言」「相場道 小説・本間宗久」(日本経済新聞出版社)などがある。

ニッポンの企業力「ガラスの天井」壊せ

国籍不問、世界にライバル
人財を生かす

中国の北京と上海で11月、来夏に卒業を控えた清華大学など一流大学の4年生と、日本企業の「集団面接会」が開かれた。企画したのはリクルート。日本からNTTや京セラ、花王、三菱商事など42社が参加した。

就職活動から世界との競争は始まっている
中国人採用に殺到

「志望動機は?」
「自分の力が海外で通用するか、御社で試したい」
面接に来た中国人学生1000人の多くは英語はもちろん、流ちょうに日本語を操る。4日間で約150人に内定が出た。
中国の大学1学年の人数は700万人と日本の10倍強。リクルートは1万人の応募者の中から日本企業の求人に適した学生を事前に絞り込んだが、中国も就職難。優秀な人材には事欠かない。「将来、現地法人の経営を任せられるような幹部候補を採りたい企業が殺到している」。リクルートのアジア人材事業責任者、伊藤純一(46)は話す。
2020年に本社社員の半分を外国人に――。イオンは今年、こんな目標へ大きく踏み出した。大学新卒採用の説明会は国内で1回のみ。あとは海外行脚に費やした。来春の採用内定者は2000人のうち400人が外国人だ。
同社は今年度以降、北京に中国本社、クアラルンプールにアセアン本社を順次設立し出店を加速する。グループ人事最高責任者の大島学(47)は「海外では日本のイオンの常識は通用しない。国籍や性別を問わず、現地法人にはその国情に精通した人を増やす」。今年6月にはマレーシアの現地法人トップに生え抜きの女性社員、メリー・チュー(50)を抜てきした。
海外に拠点を築いても日本人が幹部ポストを占拠していた日本企業。生産拠点ならコストを削減できても、商慣習やニーズの異なる消費市場の攻略には通用しない。日本人しか昇進できない「ガラスの天井」を壊し、現地の優秀な外国籍社員を取り込めるか。製造業でも改革が始まった。

「このポストには本当に日本人が必要ですか?」

日立製作所グループの白物家電子会社と日立建機は今年、海外拠点幹部の総点検を始めた。販売競争が激しい新興国を中心に、報酬と成果をもとに最適人材を配置するのが狙いだ。
日立は今年、37万人の連結社員の人事をデータベース化し、課長級以上の評価の格付けを統一した。「地域やプロジェクトに応じて世界中から最もふさわしい人を選ばないと海外勢に対抗できない」。社長の中西宏明(65)は語る。
米IBMや米P&Gなどは1990年代から本格的なグローバル化を推進。優秀な現地社員は世界で情報を共有し、幹部に登用する仕組みが浸透している。行き着く先は経営陣の多国籍化だ。スイスのネスレは9カ国の人材で構成する。こんな仕組みがない限り「日本企業に優秀な社員は来ない」。スイスのビジネススクールIMDの教授を兼任する一橋大大学院教授の一條和生(53)は断言する。

日本を鍛え直す

ライバルは世界中の同僚。それは日本人というだけで昇進が保証される時代の終わりを意味する。
フィリピンやオーストラリア、ブラジルなど07年から1兆円超を投じてビールや食品など海外企業を買収してきたキリンホールディングス。常務の小川洋(56)は「国際感覚に優れた人材育成が急務」という。
中堅社員を選抜し英語で1年間、企業経営を学ぶ研修を3年前から始めた。卒業生は85人。今春には海外に11人派遣した。東南アジア統括会社で販売戦略部長を務める佐藤哲彦(40)もその一人。国内営業畑が長く英語も不得手だったが、今では買収企業との連携に奔走する。「キリンは日本で有名でも海外では無名。成功するまで帰らない」
社長の三宅占二(63)は「外国人から刺激を受け、内なる国際化を進めることも必要」と指摘する。切磋琢磨(せっさたくま)がニッポンの企業力を高める。

(日本経済新聞朝刊1面)