ゾゾタウン快走の陰に女性取締役

続・ヒットメーカーの視点(2)

20~30代の支持を集め快走を続ける日本最大級の総合ファッションサイト「ZOZORESORT(ゾゾリゾート)」。取り扱いブランド数は1370以上、登録会員は300万人を超す。ネット通販に慎重だったアパレル各社を口説き、有力ブランドの販売に道筋をつけたのは、運営会社スタートトゥデイで唯一の女性取締役である大石亜紀子さんだ。同社では初めて在籍中の出産を経験するなど、ワークライフバランスの理想的なモデルとして自身も疾走している。

ユナイテッドアローズ、ビームス、シップス、アクアガール――。人気ブランドがずらりと並ぶトップ画面。売り上げ減にあえぐ百貨店など店舗中心の小売業界を横目に、成長を続けるサイトがある。取り扱いブランド数1370を超えるZOZORESORTだ。その中の主たるEC(電子商取引)サイトが「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」。このサイトを立ち上げ、急成長に導いたキーパーソンが、スタートトゥデイ取締役の大石亜紀子さんだ。

体育短大を卒業後、「学生時代のアルバイトの延長で」通信会社のコールセンターで派遣社員として働き始めた。しかし、21歳で“派遣切り”の憂き目に。1年半の無職期間を経て、再び派遣社員として音楽系出版社で働くうち、「もっと会社に貢献できる働き方がしたい」という意欲が高まり、25歳で転職活動を始めた。好きな服飾関係の仕事を地元で探そうと、転職情報サイトで「アパレル・幕張」と検索して見つけたのが、当時社員7人のスタートトゥデイだった。「仕事のない悔しさを味わったから、『何でもやります!』とやる気をぶつけて、入社後は本当に何でもやった」

■ネットに否定的なアパレル各社を説得

当時、アパレル通販事業を始めたばかりだった同社の課題は、まだ展開のなかったウイメンズの強化。大石さんは、女性向けセレクトショップの立ち上げを任された。担当したのは、企画から買い付け、商品管理、販売促進まで、アパレルネット通販にかかわるほぼすべての業務。深夜勤務、徹夜をいとわず「会社を大きくしたい」という純粋な気持ちで働いた。

そうした姿勢が評価され、04年、従来のECサイトを刷新してZOZOTOWNを立ち上げる際、営業企画部マネジャー(当時)の武藤貴宣さんとともに、ブランド営業を任された。

「人が集まれば商品は売れる。人を集めるために、強力なショップに参加してもらおう」と考えた大石さんは、地道な営業活動から始めた。「数年間営業し続けてやっと入っていただいたショップもありますが、出店までに至らないショップであってもコミュニケーションを取り続けました」

当時アパレル業界では試着のできないネット通販に対して否定的なブランドがほとんど。マイナスからのスタートだった交渉の場では、「サイト上であってもCG(コンピューターグラフィックス)などを駆使することによって、個々のブランドが持つ独自の世界観を表現できる」と、ZOZOTOWNに出店する魅力をアピールした。

他にも、商品画像のカット数を増やしたり、サイズの詳細を表示したりするなど、ネット上でも安心して販売できることを伝え、ブランド側の心をつかんでいったのである。

もうひとつ重視したのが、丁寧なアフターケア。出店が決まったブランドには、毎日のように電話で売り上げ状況を報告するなど密なコミュニケーションを徹底し、部下にも指導。同時に、ブランド側のリクエストへ柔軟に対応できる体制も整えた。例えば、「服を実際に人が着た状態で、お客様に見せたい」という要望があれば、すぐに自社スタジオでモデルが着用した画像を撮影して掲載写真を差し替えた。こういった迅速で柔軟な対応が次第に評判となり、業績向上につながったのだ。

「決まった型に合わせてもらうのではなく、『どういう方法が一番便利ですか?』と相手に聞いてその実現を目指しました。ブランドがお客様に何を伝えたいのか、一緒に考えてネット通販を協働する姿勢を貫いたら、賛同者が増えていった」

出店営業と並行し、EC事業に欠かせないカスタマーサポート部門の開設などZOZOTOWN運営の基盤となる体制作りに貢献したのも大石さんだった。「どんなトラブルが舞い込んでも、すべて対応できるように力を尽くした」

■強力ブランドの出店で、店舗数も会員数も急増

05年にユナイテッドアローズが出店を決めると、ネット通販展開に消極的だったブランドの出店も加速。17店だったショップ数は、210店以上に飛躍した(10年10月末時点)。このうち100店以上の出店を、大石さんが率いる部門で取りまとめた。出店営業の責任者を務めた期間に大石さんが動かした予算は、累積約218億円(商品取扱高)に上る。人気店の獲得によって会員数も大幅に飛躍。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念そのままに、どこに住んでいても、最先端のファッションを楽しめる社会実現に大きく寄与した。

急成長を遂げた同社は、07年12月東証マザーズに上場。10年3月期の売上高は前年比60.4%増の171億6000万円に達し、10年6月には、マザーズでサイバーエージェント、ミクシィを抜いて時価総額1位となった。

開設時は「男性向けが中心」であったZOZOTOWNだが、ユーザー層の男女比は現在男性4.5対女性5.5に。同社の急成長のカギとなったウイメンズ部門の強化に貢献した大石さんは、会社の成長とともに、29歳でディレクター、30歳で取締役と、キャリアの階段を駆け上った。28歳で結婚。取締役就任とほぼ同時に妊娠が分かり、31歳で長女を出産。子育てと両立しながら、EC事業全般を統括する立場として、会社の事業のおよそ半分を管理していた。同社では初となる在籍中の出産を経験するなど、自らが女性社員のワークライフバランスを促進するモデルとして先陣を切っている。

「仕事は仲間づくり。仕事を通じて同僚と家族みたいな信頼関係を築くのが楽しくて、うれしくて。がむしゃらにやっているうちに役員になっていました。プレッシャーに押しつぶされそうなときもあるけれど、たとえ折れたとしても、周囲に助けてもらえる信頼関係を築いてきたつもりです」

「マネジメントの本を読んだこともなかった」が、実地で試行錯誤しながら自分なりの部下育成術を探るのが大石さん流。スタッフの個性に合わせてショップの担当を任せるなど、モチベーションを上げる工夫をする。一方で、「平均年齢27歳と若い会社だからこそ、お客様に丁寧な印象を与えることが重要」と、挨拶を含め基本的なビジネスマナーを徹底する。

■「ホームグラウンド」が欲しかった

大石さんは、09年には、同社の要である物流部門の責任者となり、130人以上を率いながら物流拠点「ZOZOBASE」の大リニューアルを推進した。東京ドーム3分の2ほどという広大な場所で、効率的な在庫管理・配送体制を強化。10年11月からは人事や広報などの機能も管轄する。社員が個性を伸ばしやすいオフィスデザインも構想中だ。

「20代のときは、仕事より早く結婚したいなんて考えていました。でも実際に仕事がない時期を経験すると、何かに打ち込みたいという気持ちが生まれるんですね。今は挑戦できる環境を与えてもらい感謝していますし、同じようなチャンスを後輩にもあげたいと思うんです」

8年前、くすぶる思いを胸に向かった採用面接で、大石さんは入社動機を聞かれ、「ホームグラウンドが欲しいんです」と答えた。いま、自分が求めたホームグラウンドに立てた、と実感している。

(ライター 宮本恵理子)

[日経WOMAN 2011年1月号の記事を基に再構成]

<この事例のすごさはここ>
ZOZOTOWNの強さは、各アイテムの生産数が少ない東京・原宿などの個性的なファッションブランドと、ユナイテッドアローズやビームスなど10~40代までに人気のセレクトショップの両方が多数出店している点にある。ブランドショップが近所にない消費者にとっては「ここでしか買えない商品」が目白押し。大手セレクトショップの出店は、ネットショッピングに対する安心感をもたらす。

“オシャレ好き”をひき付けるデザイン性の高いサイトも人気の秘けつだ。20代まで音楽活動をしていた前澤友作社長をはじめ、ファッション感度の高い役員・社員が多く、システムの自社開発にもこだわる同社は、サイトのデザイン性と機能性を高次元で融合させやすい。

アパレル業界には数人程度の小規模メーカーが多く、ECサイトを自社運用するには資金も人材も不足しがち。オシャレ好きのツボを知るスタートトゥデイは、そうしたアパレルメーカーとって足りないピースを埋めてくれる存在なのだ。

スタートトゥデイ 取締役(想像戦略室・フルフィルメント本部担当)の大石亜紀子さん。同社はユナイテッドアローズやビームスなど200店以上が出店する総合ファッションサイト「ZOZORESORT」を運営。伊勢丹の男性向けサイトなど他社ECサイトを支援する事業(サイト構築、運営、物流など)も好調。2011年3月期は売上高238億円(前期は172億円)、営業利益59億円(同32億円)を見込む(写真:大槻純一)

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