安藤忠雄(25)連戦連敗

しつこく挑戦、次の糧に
緊張感の中で創造力磨く

JR京都駅の大階段を見上げるたび、優れた建築への素直な感動と、悔しさがこみ上げる。1990年、新しい京都駅の国際建築コンペ(設計競技)に指名を受け、参加した。鉄道によって分断された京都の南北を空中広場と巨大なガラスのゲートで結び付ける「平成の羅生門」のアイデアで臨み、最終選考まで残ったが、結局落選。当選した原広司さんの案は確かに魅力的だった。現実にできあがった建物を前にすると、改めて構想力の違いを思い知らされるのだ。

2001年秋、東京大学で行った連続講義を本にした。タイトルは「連戦連敗」。建築家は夢をもって向かってもたいてい、思い通りにはいかない。その負け続きの人生を生き抜く自信があるなら頑張ってみろ、と学生たちへ私なりのエールを送ろうと考えたタイトルだ。

本が刊行されると、周囲の友人に「連戦連勝だろう」と冷やかされたが、彼らは現実を知らない。公募型のコンペなら、数百の設計事務所がライバルとなる。建築のアイデアだけを武器に戦いぬくのは容易なことではない。どんなに力を注いでも、負ければゼロである。でもそのアイデアは、必ず次の建築の糧になる。そう思ってしつこく挑戦を続け、連敗の記録を更新する。

真剣勝負は力量の差という現実を思い知らされることがあるので恐ろしい。しかしその緊張感のなかでしか生まれないのが創造力である。

あきらめずにいると、時に勝利が舞い込むことがある。01年、ちょうど「連戦連敗」の講義をしていたころ、挑戦した国際コンペの当選が決まった。フランス・パリのセーヌ川に浮かぶセガン島につくる現代美術館で、クライアントは、クリスティーズやシャトー・ラトゥール、グッチなどを所有する世界有数の資産家、フランソワ・ピノー氏だった。

計画規模、敷地条件ともにやりがいのある面白い仕事だ。当選以降は現地にも協力チームをつくり、無我夢中で取り組んだ。そうして実施設計まで完了、敷地にあった建物も解体され、着工まであと一歩というところで、まさかのストップがかかった。美術館ができても、市が行うべき周辺の都市インフラ整備が追いつかないという。当局の事情で中止を余儀なくされた。

担当スタッフも落胆したが、私まで気落ちしていたら、小さな事務所はつぶれてしまう。その分、他の仕事で頑張ろうと仕切り直していたら、ピノー氏から思いもよらぬ知らせが届いた。敷地をイタリアのベネチアに移してもう一度、一緒に美術館をつくろうというのだ。

今度は新築ではない。大運河に面する18世紀の商館を改造して美術館にする。ベネチアならではの歴史的建造物保全の厳しい法律に苦戦しつつ、短期間で何とかつくりあげた。続いて、サンマルコ広場の対岸にある「海の税関(プンタ・デラ・ドガーナ)」の改造計画のコンペにピノー氏とチームを組み参加、当選を果たして07年から工事を始めた。翌年のリーマン・ショックで、もしやと不安もよぎったが、大運河にアートネットワークをつくるというピノー氏の思いは揺るがなかった。09年6月初め、刺激的な現代アート作品とともに美術館は予定通りオープンした。

戦い続ける厳しい世界でも、ときに思いもよらぬ形で夢がかなうことがある。だから生きることは面白いのである。

(建築家)

連戦連敗

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Bubbles of river disappear rapidly.

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