サッカー人として – 三浦和良

考え、悩み、前に出ろ

この時期は契約のことがみんなの関心事になる。契約終了が決まった後にチームを救うゴールを決め、一転「残留」となる選手もいれば、リーグ戦34試合のうち33試合に山場した翌年に解雇される遇手もいる。選手の運命は移ろいやすい。

十数年前、契約期間を残しつつ、チーム事情で解雇されたブラジル人選手がいた。違約金の減額を求められたうえに、クラブに顔を出さず日本を去ってほしいと頼まれ、「退団理由は『妻の出産のためブラジルに帰国国する』ということにしたい」と言われたという。その奥さんは日本の産婦人科に通い、日本での出産を心持ちにしていた。「なのにオレはこんな理由で辞めたと思われるのか」と彼は嘆いた。

クラブにはクラブの言い分がある。それを納得できる形で説明すれば後ろめたさはないはずだ。言い繕って隠すのは説明能力がないから。クラブの判断や考え、哲学に自信がないからだ。僕には理解できない。

契約に限らず、サッカーでは納得できないことも起こる。判定一つに文句を付ける選手も最近は多い。主張することはいい。でも「なぜこうなるんだ」と文句を言いつつも走らなきゃ。「なぜこうなんだ」と不満に終始し、放棄するようならプロとしては終わりだ。

17歳のころ、ブラジルで悩んでいた僕は諭されたものだ。「懐はいつだって考えている」「考えるだけで止まっている人間はたくさんいる。お前もそうだ。考え、悩め。でも前に出ろ」

失敗して、人生のレールを踏み外すこともある。その時も、フラフラでもいいから止まるな--。「一気に100?進まなくていい。カズ、1センチでいいから前へ進むんだ。考えるだけではダメだ」。今も胸に残る。

過去の実績なんてものはどこかへしまって、今を歩む。150点以上ゴールしたのは苦の話。今の僕にはどうでもいいんだ。仮にFW経験がない監督が懐にシュートに関して指示をしたとする。「シュートでは教わることはない」と考えるようでは、伸びない。耳を傾け、プラスとなる何かを探すことだ。

学ばない者は人のせいにする。学びつつある者は自分のせいにする。学ぶということを知っている者はだれのせいにもしない。僕は学び続ける人間でいたい。

(元日本代表、横浜FC)

2010年11月4日日経