下村脩(18)奇妙なたんぱく質

常識くつがえす発見
教授とのわだかまりも解消

研究に行き詰まり、1週間くらいたったある日の午後、ボートの上で一案がひらめいた。ごく単純な考えだった。生物の発光には多分、たんぱく質が関係している。そうであれば発光は酸性度、すなわちpH(水素イオン指数)によって変わるであろう――。

なぜ、こんな簡単なことに今まで気付かなかったのだろう。すぐに研究室に戻り、種々の酸性度の溶液を作り、クラゲから切り取った光る部分(リング)を抽出してみた。

抽出液はpH7で光り、pH6でも光り、pH5でも光った。しかしより酸性度が高いpH4では光らなかった。そこでリングをpH4で抽出してろ過したところ、予想通り全く光らなくなった。ところがそれを重曹で中和したら、また光り始めた。私はついに抽出法を発見したと思った。

ところが次の瞬間、本当に驚いたことが起きた。実験に使ったpH4の抽出液を流しに捨てたところ、流しの内側が、ぱあっと青く明るく光った。部屋全体が明るくなったと感じたほどの輝きだった。

流しには海水が流れ込んでいたので海水が発光を引き起こしたに違いない。海水の成分は分かっており、発光を引き起こした原因がカルシウムイオンであることを知るのにそう時間はかからなかった。

すぐにフランク・ジョンソン教授を呼んで、実験を繰り返して見せた。彼は最初はあっけにとられていたが、「おめでとう」と言ってくれた。2週間くらい続いていたわだかまりは消えてなくなった。

カルシウムが発光を引き起こすことがわかったので、カルシウムと結びついて働きを無効にする薬品を使い、発光物質を抽出することにした。

問題はいかに大量のクラゲを集めるかだった。私たち4人は朝6時から8時までクラゲを採集、急いで朝食を済ませ、正午までクラゲのリング切り、午後の時間は抽出にあてた。夕食後の午後6時半から8時半まで、またクラゲを採集し水槽に入れて翌朝の分と合わせて処理するという手順で作業を始めた。

リング切りのスピードを上げるため、女子高校生を数人雇ってやり方を教え、1匹につき2セントで切ってもらうことにした。また、クラゲの数を増やすため、近くにすむ子供たちからクラゲを1匹1セントで買い上げた。

その1961年の夏、2カ月で1万匹のクラゲを採り、発光物質を抽出しプリンストン大学に持ち帰った。精製を始め、翌春、数ミリグラムのほぼ純粋な発光物質を得た。

その物質は微量のカルシウムイオンを加えると光るのだが、驚いたことに、空気がなくても発光した。生物発光は酸素分子による酸化反応のエネルギーで起きるというのが常識だったので、理解に苦しむ結果だった。この奇妙なたんぱく質を我々は、オワンクラゲの学名イクオリアにちなんでイクオリンと命名した。

さて、フライデーハーバーでの作業中、クラゲは緑色に光るのに抽出物は青く光るということが気になっていた。イクオリンの精製中に緑の蛍光を放つ物質も微量発見したので、ついでに精製した。それが緑色蛍光たんぱく質「GFP」だった。クラゲと同じ色に光るこの興味あるたんぱく質を、少しずつためておいた。

(生物化学者)

緑に光るオワンクラゲ

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Bubbles of river disappear rapidly.

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